許して。
セイバーさん達が帰ってきた後、ご飯を食べて出発した。
キリエライトさんは昨晩の内にお二人と仲良くなった様で、三人で仲良く話して歩いている。
…寂しい。
「貴方には私がいるでしょ?」
静かな声で囁いてくれるオルガ。きっと表情から察してくれたのだろう。優しい人だ。
確かに何度か融合させたのだし、仲がいいといっても過言ではない…かもしれない。
「トモダチ…と思っていいんですかね?」
遂にボッチを卒業できるのだろうか。
「もっと上の関係でもいいのよ?」
上…?まさか…!
「親友は…ちょっと早くないですか?出会って一週間を少し越した位ですし…」
友達は選びなさい、という奴だ。僕が友達で自分の為になるか。それをしっかり見極めてもらってからの方がいい気がする。
「こいb…いえ、そうね。もう少し考えてみるわ」
説得を受けてくれた様だ。確かに僕も親友という概念には興味があるが、急いて彼女の不利益に繋がっては意味がない。これで正しかったのだ。
『おーい皆!目的地にサーヴァントらしき反応が確認されたよ!』
慌てたDr.の声が響く。釣られて進行方向に目を向けるが、当然そのままでは何も見えない。視力を強化して観察する。
「黒煙?戦闘でしょうか」
「だとすれば大変です!直ぐにでも向かわねば!」
即座に駆け出すルーラーさん。人命救助は速度が命。その対応は災害時なら素晴らしいのだが…
「Dr.!反応の数と強度は!?」
『高速で撤退していてサーチが間に合わない!悪いけどこれ以上の情報は…』
「了解!」
高速移動ということはライダーかランサーで間違いないだろう。フランス縁かつFGOで登場したサーヴァントの中に該当者は誰がいただろうか。…いや原作外の英霊がでる可能性もあるか。シャルルマーニュ系列が来ると面倒だが…
『サーチできる範囲から完全に離脱した!気付かれてないみたいだ!』
それは楽でいい。住民に特徴を聞けば情報面で優位に立てる。…最悪全滅していても反魂の術に戦闘の痕など、情報は幾らでも入手できる。
「マスター、セイバーさんは既に向かわれました。我々も合流しましょう」
キリエライトさんの提案に頷く。先行した二人の敏捷はそう高くない。直ぐに追いつけるだろう。
市内に入ると、甲高い金属音が響いていた。兵士のゾンビとセイバーさんが剣戟を繰り広げているのだ。
「リビングデッド…!マスター!」
キリエライトさんの声に答えて魔力のパスを伸ばす。ゾンビの思考を強制的に遮断し、硬直させる。
「これは…マスターが?」
突如として棒立ちになった敵に困惑気味のセイバーさん。そういえば自分が死霊術士だと説明していなかった。
「ええ。ネクロマンサーですのでアンデッド系統ならば操ってみせます」
相変わらず顔を顰めたままのセイバーさん。不快というよりは迷っている様な表情だ。
「…マスター。私は神の騎士である前に軍人です。ですから戦いにおいて有利になるならなんでも利用します…しかしジャンヌは…」
ルーラーさんがどうしたのだろうか。
「マスター。セイバーさんとルーラーさんは熱心なキリスト教徒です。遺体を用いるのは…」
あ。そうか。宗教家の前で死体を弄ぶのはまずいな。
ゾンビ達から魔力を吸い上げると、バタバタと倒れていく。空っぽにしたのでもう起き上がることはないだろう。
「これで構いませんか?」
「…はい。お気遣い感謝します、マスター」
うーん。この特異点では死霊魔術の使用は出来なさそうだ。現地の人に見られても迫害されるし、使いにくい魔術だよなあ。
「皆さん!御無事ですか!」
駆け寄ってくるルーラーさん。旗が赤く染まっていることから、彼女も戦闘をこなした事が読み取れた。
「生存者は見つかりましたか!?」
「いいえ。恐らく全滅かと…」
周囲からおおよそ生が感じ取れない。正直空気に呑まれてまた錯乱しそうだ。左手を右手で強く握り締めて正気を保っておく。
「許せません…!無辜の民を襲い、あまつさえ外法を用いて死の安寧を奪うなど…!」
…あー、うん。僕にも刺さるなあ。
「…じゃ、ジャンヌ。それくらいにしましょう。今は敵の痕跡を探すべきです…」
セイバーさんがチラチラとこちらを伺いながら諌める。別にそこまで気にすることないのになあ。
「マスター。ここは二手に別れて探索すべきです」
随分と低い声で提案するキリエライトさん。下を向いており、髪で隠れて表情は見えない。
骸骨はともかく、初めて死体を見たのだ。温室育ちの彼女には辛いものがあったのだろう。
「そうですね。じゃあ僕とキリエライトさんと、ルーラーさんとセイバーさんで分けましょう。」
一応死の専門家である僕がキリエライトさんと組むべきだろう。フランス組の二人は戦争経験者だから慣れてるだろうし。
諍いが起きず、ホッとした顔をしているセイバーさん達と別れ、近くの探索を始めた。
死体の損傷は様々だ。槍で刺されたり、鋭い刃物で突かれた様なモノもあれば、バスケットボール大の球体を叩きつけられた様なモノもある。大きな穴が空いたモノもあった。その向こう側には矢が突き刺さっていたので、きっとアーチャーによるモノだろう。魔物の膂力ではこの芸当は不可能だ。
一際目立つのは焼死体だ。徹底的に焼かれ、黒く焦げて尚も煙を吐いている。もはや燃える材料もないだろうに。
「…延焼、してませんね」
キリエライトさんの指摘の通りだ。ここまでしつこい炎ならば建物も燃やし尽くす筈だが、その熱は全て人に向けられている。一体どれだけ人を怨めばこんな御技ができるのか。彼女の執念には驚くばかりだ。
「というかさっき見えた煙って全部人から出てたんですかね…?」
あまり認めたくない事実だが状況からして間違いあるまい。おぞましい話だ。
「…マスター」
「はい?」
相変わらず表情が見えないキリエライトさん。声からして不機嫌なのだろうが、何を言いたいのだろうか。
「…何故言い返さなかったんですか」
「…何がですか?」
言い返す?誰かと口論をした覚えはないが…
「ルーラーさんが言っていた事です…」
…ああ。
「あれは僕に言った事ではないでしょう?」
「ですがマスターにも少し当てはまります!」
確かにそうだ。しかし死霊術士にとって迫害など慣れきったものだ。他の魔術師からはよく【蝿】呼ばわりされるし、祖父より前の先祖が地元の住民に素性を明かした時、酷い扱いを受けたと聞いている。
「マスターさえ言い返して…いえ、指示さえくだされば私が反論したのに!」
自分のことでもあるまいに、何がそんなに気に入らないのだろう。まだ腕の事を引き摺っているのだろうか?
「別に僕が耐えればそれで済むじゃないですか。それに口論なんてしたら空気が悪くなっちゃいますよ」
彼女は協力者ではあるが、気分次第で離反する事も可能だ。なにしろカルデアのサーヴァントではない上に、そもそも令呪に強制力がない。
機嫌を損ねても聖女である彼女の事だ。せいぜい別行動で済むだろう。しかしそれでも戦力の低下は痛く、避けたいものだ。
これからも言えることだが、僕はとにかくサーヴァントと仲良くならないといけないのだ。頑張って媚を売って、力を貸して貰わなければいけない。マスターの必須技能はコミュ力なのだ。
「ですが!素晴らしい御方であるマスターの悪口など…!」
…素晴らしい?何をどう勘違いすればそんな感想が出るのか。釣り合わない賛辞に、妙に献身的な態度。まるで信者の様だ。安っぽい小説のヒロインの様で薄気味悪い。
…薄気味悪い?恐怖以外の久々な人間らしい感情だ。でも悪口はいけないので腕を強くつねっておく。
考えをリセットしたので、思った事を言っていく。
「というかキリエライトさんも死霊術の事あんまりよく思ってませんよね?」
「そ、そんなわけありません!」
否定する彼女。しかしその顔は明らかに動揺していた。
「思ってないのなら『ああ、宗教の違いだな』程度で終わると思うんですよ。ですが貴女は反発した。これは内心にあった死霊術への否定がルーラーさんの言葉に同調して、そんな自分が許せなかったんじゃないかな、と。つまる所キリエライトさんは随分と僕を持ち上げている様ですが、それは表面上でむしろ心の奥では軽蔑している思うんですね。いやまあ別に慣れてるんでいいですけど、ちょっと傷つくっていうか『──やめなさい!』
…あ。少し喋り過ぎたかな。やっぱり錯乱からは逃れられなかった様だ。
『マシュが泣いてるでしょう!?すぐに謝りなさい!』
目を向けるとオルガの言う通り、キリエライトさんが泣き崩れていた。興奮して捲し立てている間に座り込んでいたのだろう。
…しかし何を謝れと言うのか。事実を指摘しただけではないか?だが現に彼女は泣いているし、僕に至らぬ所があったのだろう。
「私は…!私はただマスターの役に立ちたくて…!不快なモノは除去して…!少しでも喜んでもらえたらって…!」
「そこです。そこも分からない。何故そんなに尽してくれるんです?」
彼女が泣いている理由もさっぱりだが、そっちはもっと分からない。
「マスターは弱いから…私が守らないといけないんです…戦闘でも精神面でも…」
まあ確かにサーヴァント並の戦闘力を持つキリエライトさんよりは弱いだろう。精神は言わずもがなだ。PTSDと鬱の掛け持ちだし。
「特異点Fで
…気持ちよかった?
「今度こそマスターを守れているのが嬉しくて…!素晴らしい方の為に自分を捧げているのが快感で…!」
顔を上げ、頬を紅らめるキリエライトさん。髪の隙間から見えた涙は、悲しみによるものには見えなかった。
「マスターは私がいなきゃ駄目なんです…私が守ってあげなきゃ…」
…正直、もっと分からなくなった。恍惚と話す彼女の気持ちが分からない。僕のコミュ力が低いからだろうか。
でも少しだけ分かった事がある。きっと彼女は本気で僕を助けようとしてくれているのだ。ならばその気持ちを疑わず、僕も応えなくてはいけない。
「その…謝る代わりと言ってはなんですが、いつもありがとうございます。僕は弱いので、これからも手を煩わせると思いますが…よろしくお願いします」
キョトンとした顔を浮かべる彼女。
…やはり話が飛躍し過ぎただろうか。それとも内容が似合わなかった?
「…はい!私こそよろしくお願いします!」
一転、ヒマワリの様な笑顔を浮かべるキリエライトさん。やはり彼女にはこの表情が一番しっくりくる。禍々しい鎧や盾とは酷くアンバランスだったが、そのギャップも美しさを際立てていた。
『いい空気のところで悪いんだけど、複数のサーヴァント反応がこっちに向かってる!急いで逃げてくれ!』
Dr.の報告。その慌てた声にキリエライトさんは薄く微笑むと、盾を掲げた。
「マスター。今の私は絶好調ですが…どうしますか?」
「迎撃します。それが一番効率がいいでしょう」
『ちょ、何言ってるんだい!複数の反応だよ!?』
気持ちは分かるがこれが最善だ。
「我々はあまり敏捷が高くありませんから撤退は厳しいです。それに…ルーラーさんが頷くとは思えません」
迫っているのはこの街を襲撃した犯人だろう。ならば彼女は問いただす筈だ。なぜこんな事をしたのか、と。
『まあでしょうね。いいわ、許可します。早く合流なさい』
『所長!?いいんですか!?』
僕の記憶を通して彼女の意固地さを知っているからだろう、オルガはあっさりと許可を出した。
「じゃあ行きましょうか。キリエライトさん」
「はい!マスター!」
パスの繋がりを頼りに、二人で合流を急いだ。