「セイバーさん!ルーラーさん!」
お互いがお互いに向けて走ったので素早く合流出来た。移動してきた彼らも敵の存在を感知しているのか、表情は厳しい。
「マスター。遺体や壁床の損傷からここでサーヴァントの戦闘が起きたのは間違いないと思われます。…それに」
「分かっています。そのサーヴァントがこちらに向かっている様ですね」
同じ結論が出た。結果は分かりきっているが一応方針を聞いてみる。
「逃げるか戦うか…お二方はどう思われます?」
「当然戦います!私達は問わなければなりません!」
力強い返答。ルーラーさんの気迫に若干押されるが、負けてはいられない。
「敵は五騎いる可能性もあります。それでもですか?」
刺突、槍、魔力塊、矢、炎。五種類の攻撃の痕があった以上、それと同じだけ敵がいると考えるべきだ。人数では勝てない。そしてサーヴァントという単位は1の比重がとても大きい。迎撃は自殺行為もいいところだ。
「それでもです!」
頑なな彼女。この意思を変える事ができるものが果たしているだろうか?少なくともこのフランスにはいないだろう。
「分かりました。このまま迎え撃ちます」
「!?」
セイバーさんが驚いている。軍略を持つ彼からしても迎撃は無謀なのだろう。しかし反対しようとしないのはルーラーさんに気を使っているからか。
「ですが徹底抗戦はしません。隙を突いて逃げましょう」
どうにか痛み分けに持ち込んで撤退。現実的に生き残る方法はそれしかないだろう。
「私は構いません。…彼らの真意さえ聞ければ、それで」
「決まりですね。路地で敵を待ちましょう」
時間もないので急いで向かっていく。
敵にだけアーチャーがいる以上、射線の通る開けた場所で戦うのは不利だ。敵のキャスターは確か青髭さんだったので、彼の海魔の群れに囲まれるのを防ぐという理由もある。
一本だけの逃げ道を塞がれると面倒だが…最悪死霊魔術を解禁すればなんとかなるだろう。それ程に転がる死体は多い。
『すぐそこまで来てる!備えて!』
準備する暇すらない。一体どうやってこの移動速度を出しているのだろうか?疑問に答えるかのように響き渡る咆哮。合点がいった。ワイバーンに騎乗しているのだ。
「ワイバーン優先で撃破しましょう。追撃の足は潰すに限ります」
返事が帰る前に複数の影が足元を覆った。見上げると5騎の亜竜と人影が目に入る。
「マスター。私の後ろに…」
素直にキリエライトさんの後ろに隠れる。かの魔女は視界に入っているものは全て焼けるのだ。棒立ちは許されない。
「────まさかこんなことが起きるなんてね」
中央に浮かぶワイバーンに乗った人影。竜の魔女が呟いた。
「一人の英霊の別側面同士が戦うのはありえないことではありませんが…いえ、そうじゃないわ」
俯く彼女。路地裏は暗く、何をしているのか見ることができない。しかし目の代わりに耳が、しっかりと事実を認識した。
「まさかこんなのが聖女だなんて!こんな小娘に救われたなんて!ホントこの国って──くだらないわね」
嗤っていた。ジブンと故郷を。
「貴女は…!貴女は何者ですか!」
ルーラーさんが哄笑を遮る。鏡の中と同じ顔を見る衝撃から立ち直ったらしい。
「それはこちらの台詞ですが…いいでしょう。上に立つ者して答えて差し上げます」
酷薄な笑みを顔に貼り付け、堂々と名乗る。
「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、"私"」
「馬鹿けたことを…貴女は聖女ではありません。私が聖女でないように…」
後ろでセイバーさんが何か言いたげな顔をしているが、空気を読んで黙る事にしたようだ。
「それよりも!何故この町を襲ったのですか!」
「…呆れた。ここまで分かりやすく演じてあげたのに、まだ分からないのですか?」
大袈裟なジェスチャー共に、ため息をつく彼女。
「この国を全て破壊し、裏切り者達を全て物言わぬ死者に変える。それが私の救国方法です」
「な…!」
衝撃に堪えきれなかったのか、セイバーさんが声を漏らしてしまう。
「…あらあ?その声はジルかしら?」
セイバーさんは黙して答えない。何を言っていいのか分からないのだろう。
「妙な偶然ね…ジル、こちらにつく気はないかしら」
彼は一つ大きく息を吸った後、前を見据えた。
「今の私はマスターに仕える身…たとえ何があろうとも、それを裏切る訳には参りません…」
絞り出す様に断るセイバーさん。裏切られると完全に詰むので内心冷や汗ものだったが、騎士の忠誠は伊達ではなかったようだ。…いや信じてたけどね?
「結局貴方も私を裏切るのね…まあいいわ。もうキャスターのジルがいるし」
セイバーさんが大きく震えた。
「それを聞いて余計に決心がつきました…!私は自分を…あの怪物を許す訳にはいかない…!」
「ならもう用はありません。バーサークランサー。バーサークアサシン。出番です、全て喰らいなさい」
二人の影がワイバーンから降りる。彼らを出し抜かねば勝機はない。その為にもとにかく情報が必要だ。
「──よろしい。では、私は血を戴こう」
「いけませんわ王様。血も肉もハラワタも…みな私の美貌保つのに必要ですもの」
「では魂を頂くとしよう。聖女の魂…実に興味深い」
実に分かりやすい人達だ。姿は見えずとも言動で分かる。ヴラド公とカーミラ夫人に違いない。そして助かった。彼ら程与し易いサーヴァントは他にいない。
『一瞬敵の動きを止めます…その隙に強力な一撃を御見舞してください。その後混乱に乗じて撤退します』
念話で作戦を公開しておく。皆が頷くのが暗闇の中に見えた。
「なんだ、そちらから来ないのか?では私から…!」
ヴラド公が突っ込んでくる。今だ!
「Pierce tè a」
「ぬおっ!?」
不意に空中から地面に槍を突き刺す彼。そのままの勢いで地面に叩きつけられる。
「不本意ではありますが…!」
倒れ込んだヴラド公を囲んで殴るセイバーさんとルーラーさん。彼らはこういった手段を好まないだろうが、我慢して頂く他にない。
「離れなさい!」
カーミラ夫人が救援の為に光弾を飛ばす。
「Atak yon alye」
しかしその光弾はヴラド公に当たる。
「何をしているのです!?」
味方の失敗に怒りを隠せていない魔女。今が好気だろう。
『撤退します。キリエライトさんは殿でアーチャーの警戒をお願いします』
脚を強化して後ろに向かって全力疾走。今逃げずにいつ逃げるというのか。
「逃さん!」
風を切る音がする。が、大きな金属音と共に止んだ。アーチャーさんの追撃が盾に阻まれたのだろう。
「カバーはお任せください!」
流石キリエライトさんだ。しかし何時までも悠長に防ぐ訳にもいかない。置土産をしておく。
「Eksploze li」
後方で巨大な爆発音が響き渡る。死体を爆破したのだ。威力はともかく煙と埃で前が見えないだろう。
死んだ人達も復讐できてあの世で満足したに違いない。
逃げ込むのは近くの森。鬱蒼と茂る緑の中なら滅多に見つかる事はないだろう。
次はいつになるかなあ(諦感)