マスター必須技能:コミュ力   作:ブリーム=アルカリ

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リアルがやばいので失踪継続します…
文章書けなくなってるしそれもやばい…
あと管理できないのでマリー様一行は退去されました…


逃走と夜襲

「──ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

 とりあえず戦地から二番目に近い森に逃げ込んだ。成立して長い森のようで、高木が枝葉を広げているので空からの視線は通らない。ワイバーンによる追跡もある程度は誤魔化せるだろう。

 

「皆さん助かりました。お陰様でなんとかなったようです」

 

 まずは感謝を述べておく。理由も説明されない突然の指示に従って頂いたのだ。

 

「見事な采配でしたマスター。…ですがあれは一体?貴方が仕組んだのですよね?」

 

 敵の不自然な失敗を指しているのだろう。不思議そうな表情のルーラーさん。セイバーさんやキリエライトさんは察したのか複雑な表情を浮かべている。

 

 彼らが察する通りアレは死霊術の応用だ。敵はそもそもが英「霊」である。本来なら僕の様なネクロマンサーのカモだ。しかし彼らは非常に高位かつ聖杯からの保護も受けている。操ることはできない。…のだがここでお約束。だがここに例外が存在する、という奴だ。

 敵、つまりヴラドⅢとカーミラ夫人は高名な吸血鬼である。正確には人々のイメージによって固定化された存在だが、彼らがそういった属性を持つことに間違いはない。

 つまり、「霊」と「吸血鬼」の二つのアンデッド属性を持つが故に一瞬だが干渉できたという訳だ。

 

「この義手は聖別された特製でして。邪なる存在を弱らせる事ができるんです」

 

 腕を掲げて適当に誤魔化す。とっさの言い訳は前世からの数少ない特技だ。

 …一応聖別はされているから嘘ではない。

 

 

「なるほど…これもまた主の御業なのですね」

 

 特に疑わずに信じてくれたようだ。ルーラーである以上、そういった看破も可能な筈だが機能している様子はない。本来の力を持ってすれば、たいした聖別でないことは見抜けるが、彼女の弱体化はやはり深刻なようだ。

 

 

「さて…ここからどうしましょうか」

 

 数と質で完全に劣っていたので逃げ出したものの、ここからメンバーを強化する方法も特に思い浮かばない。

 ゲームだと種火を集めてレベルを上げたが、そんな都合のいいシステムなどこちらにはない訳で…

 

「一先ず逃げて体制を整えるべきでは?敵は占領や侵攻などするべきことは多い筈です。必ず兵を分けるでしょうからその機会を窺うのです」

 

 冷静かつ最適な提案してくれるセイバーさん。今のメンツでも二基くらいなら相手をできるだろうし、それが一番だろう。

 

「ですがそれは…いえ、なんでもないです…」

 

 ルーラーさんは何かを言いかけ、口を噤み顔を伏せた。言いたいことは分かる。その間に犠牲になる民衆が忍びないということだろう。

 気持ちは分かる。分かるがどうしようもない。それはここに居る皆が痛感している事だ。

 

 …かける言葉が、見つからない。

 

 

『落ち込んでる暇はないわ。追手が来る前に急いで距離を取りましょう』

 

 

 冷たく無慈悲なオルガの声。こんな時は誰かが非情に徹する必要がある。彼女は進んで貧乏クジを引いてくれたのだ。

 

「そうですね。とりあえず休憩できる場所を探しましょう」

 

 キリエライトさんものってきた。

 

『ちょうど近くに霊脈があるんだ!そこに野営地を作ろう!』

 

 Dr.も情報を携えてのってくる。満場一致で霊脈に移動することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───そして夜、彼女は突如やってきた。

 

 霊脈にキリエライトさんの盾を設置し、ライフラインを確保した直後の事だった。

 

『うわわっ!単独のサーヴァント反応が高速で接近中だって!たぶんライダーだ!』

 

 Dr.の慌てた声。レーダー担当スタッフから連絡受けたのだろう。

 

「情報通りなら先の戦いで手を出してこなかった相手です!十分気をつけてください!」

 

 声を張り上げ立ち上がる。

 やっと休憩できると思った矢先に電撃戦だ。敵もどうすればこちらは嫌がるかよく分かっていると見える。だが反応は一人のようだし囲んで終わりだろう。

 

 

 

「こんにちわ皆様。…上から失礼するわ」

 

 

 姿を表したのはとてつもなく過激な格好をした女性。その視線は刺すようにこちらを見下ろしている。といっても彼女の身長が高い訳ではない。

 

「ドラゴンライダー…!」

 

 セイバーさんが言うとおり、彼女の足元には高位の竜種が巨躯を晒していた。

 

「…何者ですか、貴方は」

 

 ジャンヌさんの冷たい声。明らかな敵対者に彼女も警戒を強めているようだ。

 

 

「ルカによる福音書第十章と黄金伝説第百章で語られる聖女。主を歓待し、竜を鎮めたという聖マルタさんですね。主な攻撃手段は杖からの光弾です」

 

 ここまで特徴的な服だと間違えようもない。確信を得たので知っている情報はすぐに拡散しておく。耶蘇教徒ではないがこれくらいは知っている。

 

「…驚いたわ。英霊には見えないけれど、何処かでお会いしたかしら?」

 

 本来なら知り得ない情報なので、マルタさんも味方も不審に思うのは当たり前だ。だがちゃんと言い訳は考えてある。

 

「マスターはサーヴァントを見ればある程度の情報を得る事ができます。それが例え敵だとしてもね」

 

 嘘だ。それは通常の聖杯戦争のみであり、今回の事例には当てはまらない。それに得られるのは曖昧な情報のみだ。しかしこの場にマスターの力に対して深い知識を持つ者はいない。

 そもそもこの聖杯探索のマスターは史上ただ一人。僕ができると言えば通常の聖杯戦争に参加した「彼」ですら信じるのだ。

 

「…なるほどね。まあ自己紹介の手間が省けて助かるわ」

 

 小さな笑いを浮かべつつ、杖を構えるマルタさん。

 

「それなら分かってると思うけど、狂化を付与されちゃってるのよね」

 

 《狂化》。理性を喪う代わりに基礎ステータスを向上させるスキルだ。本来デメリットの方が目立つが、言う事を聞かない者、そもそも弱い者、《無窮の武錬》を持つ者と相性がいい。前者を期待して付与されているのだろう。

 

「脚を買われて偵察を命じられたけど。…最後の理性が囁くのよ」

 

 杖が静かに光を帯びる。と同時にキリエライトさんが僕の前で盾を構えた。

 

「彼らを試せってねッ!」

 

 光弾は盾で弾け、甲高い音を残す。戦闘開始だ。

 

「貴方達が相手にするのは竜の魔女!それも究極の竜種に騎乗している!」

 

 巨大な亀にも見えるタラスクが走り出す。大きな体からは信じられない程の速さだ。

 

「私程度を倒せないようでは彼女を降すことは不可能!」

 

 高速で移動しているというのにマルタさんは正確に光弾を撃ち込んでくる。キリエライトさんがしっかりと防いでくれているので問題はないが、こちらから打つ手がない。

 

「さあ、遠慮なく我が胸に刃を突き立てなさい!」

 

 どう彼女を討ち取るべきか。現実的な案は少ししか浮かばない。こういう時は本職に聞くべきだ。

 

『セイバーさん!何か策はないですか!?』

 

 敵から目を離さない彼の背中から、憔悴した声が返ってくる。

 

『自軍英霊は飛び道具を持ちません!スタミナ切れを待つのも幻想種相手には難しいでしょうし…とにかくどうにかして動きを止めなければ…』

 

 我がサーヴァント達は皆白兵戦に特化していて妨害も遠距離攻撃もできない。…つまり僕がどうにかするしかない。

 

『攻撃は私が防ぎます!じっくり考えてくださいマスター!』

 

 頷いて思考を巡らせる。複数ある彼女を足止めする手段で最も簡易なのは…

 

『…閃光弾を投げます。合図をしたら目を瞑ってください。光が収まったらセイバーさんとルーラーさんは攻撃をお願いします』

 

 了承の意思が返ってきたので念話を終える。

 本当はスケルトンに閃光弾を持たせ、轢かれた瞬間に爆発させるのが一番なのだが、ルーラーさんがいるのでそれはできない。

 

 ポケットから閃光弾カスタ厶のを取り出し、感覚器に魔力を集中する。…チャンスは一度だ。

 

 

 

 走る音と姿に全神経を傾ける。

 

 キリエライトさんの言葉を信じ、光弾すらも意識の外に。

 

 対象が一周するのは平均5.7秒。

 

 僕が目標ポイントに投げいれるのに0.2秒。

 

 義椀に魔力を集中。

 

 

 

 ──投げるのは

 

 

 

 

 

『今だっ!!』

 

 

 

 目を閉じて起爆。骨が木っ端微塵に炸裂し、暴力的に光を撒き散らす。

 

 瞬間、凄まじい轟音と共に悲鳴が飛んだ。

 

「攻撃開始!」

 

 練り上げた魔力を送ると、二人は弾けるように飛び出した。

 

 

 高速移動中にバランスを崩したタラスクはマルタさんを落とし、随分と遠くまで転がっていった。帰ってくるまでには確実にマルタさんを倒せる。

 

「████▅▅▅▃▄▄▅▅▅!」

 

 咆哮がこちらに近づいてくるが

 

「▅▅▅▄▄━━━━――――…」

 

 静かに消えていった。マルタさんが彼を維持できなくなったのだろう。

 

「降参よ。頼りない顔してる割にやるじゃない」

 

 どこか嬉しそうな声に、二人は獲物を降ろした。

 

「まったく容赦なくやってくれちゃって。こっちはかよわい乙女なのよ?」

 

 血を流しながらも、その口は弧を描くように歪んでいる。

 

「最期に教えてあげるわ。かつてリヨンと呼ばれた場所に行きなさい」

 

 リヨン。確か世界文化遺産にもなった街だ。"呼ばれた"ということはもう廃墟なのだろうか。

 

「あそこには竜殺しがいる。必ずや貴方達の助けになるはずよ」

 

 全力で袋叩きにしたというのに気前よく助言してくださった。…なんだか申し訳ない。

 

 

「…すいませんでした。それとありがとうございます」

 

 彼女は堪えきれず、今度こそ吹き出した。

 

「いーのよ。遠慮するなと言ったのは私だもの。それよりしっかり彼女を倒しなさいよ」

 

 にんまりとでも聞こえてきそうなその笑みは、聖女ではなく面倒見のいい女傑に見えた。

 

 

「…次はもっとマシな召喚をされたいわね──」

 

 光と共に消え行く彼女。

 

 跪く二人に合わせ、僕とキリエライトさんも祈りを捧げた。


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