マスター必須技能:コミュ力   作:ブリーム=アルカリ

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空虚な純粋

 キリエライトさんに言われた通りに進んでみると、確かにロックのかかっていない部屋があった。便利な物で自室の扉も自動ドアの様だ。

 ガシャーという嫌な音と共に開いた扉の向こうには案の定というかお約束というか茶髪のゆるふわ系男子がいた。

 

「うえええええええええ!?誰だい君は!?」

 

「…ぁ、どうも。藤丸立香と申します」

 

「あ、これはどうもご丁寧に。ボクはロマニ・アーキマン…って違う!」

 

 とってもノリがいい人だ。周りに愛されているというのもよく分かる。

 

「君ひょっとしなくても最後の子だよね?演説会はいいのかい?」

 

 驚いた。この人はマスターの名前を全員分覚えているのだろうか。そういえば原作でも主人公が自己紹介していないのに名前を呼んでいた気がする。

 

「この通り来たばかりでして…荷物を置いてから行こうかなと」

 

 密かに好感度を上げつつ返答すると、Dr.は顔を青くした。

 

「そりゃマズイ!所長を待たせたら怖いよ!一週間はネチネチ言われる!」

 

 そう言われても行けば死ぬのだ。こちらとしてはどうにか見逃してもらわねばならない。

 

「いや…そのほら荷解きとか色々ありますし…」

 

「そんな事は後でもできるさ!とにかく早く行かなきゃ目を」piririririri!

 

 Dr.が言い終わるより早く、彼の端末が叫びを上げた。彼はバツの悪い顔を浮かべながら一言謝罪し、通話を始めた。

 

「ああもしもしレフ?…うん分かった。今行くよ」

 

 通話を切って端末をポケットに突っ込んだDr.は、ため息を吐きながら呟いた。

 

「藤丸君。僕にもお呼びがかかった。案内するから一緒に行こう」

 

 通話が来たということはそろそろだろう。余り気分は乗らないが大人しく追いていくことにする。

 荷物を置き、中から戦闘用のリュックを取りだし背負う。

 

「あれ、リュックは置いてかないのかい?」

 

「ええ、ひょっとしたら必要かなと思いまして」

 

「さっき荷解きするって…まあ君がいいならいいや」

 

 二人して小走りで部屋を出る。すると遠くから地響きが。いや正確には爆発音だろうか。

 

「な、何が起きたんだ!?モニター!」

 

 廊下に現れた光のモニターをDr.がなにやら弄りだした。さっきよりも酷い顔の青さが状況を物語っている。

 

「嘘だろ…?管制室との通信途絶…?」

 

 

「アーキマンさん急ぎましょう!我々で何かできるかも!」

 

「だが君は一般人だし…いやでも人手が…」

 

「いいからさっさと行きますよ!」

 

 バックパックを背負い直し、思い切り走る。僕が辿り着かなければ我が家の悲願も、マシュも、そしてなにより僕が死ぬ。何が何でも向かわねばならんのだ。

 

「藤丸君!そっちは食堂だ!」

 

 

 …勢いだけでは駄目な様だ。

 

 

 

 

 

 

「無事な方いらっしゃいませんかー!いたら声を上げてくださーい!」

 

 管制室に到着した後、Dr.は予備電源の操作に行った。今は僕一人で生存者を探している。

 …と言っても既に結果は分かりきっている。これでも死霊術士だ。周りに死体しか残っていない事など簡単に把握できた。それでも惰性で声をかけてしまう。ひょっとしたらの奇跡を信じているのだ。

 

 

「………………………、あ。」

 

 そして彼女こそが奇跡である。マシュ・キリエライトは辛うじて生きていた。しかしもう長くはないだろう。下半身が潰れている。パッと見では分かりづらいが脊髄もやられているようだ。

 

「……ご理解が早くて…助かります……だから…貴方は逃げて……ください…………」

 

「はい。できればそうしたいんですけどね。もう隔壁閉まっちゃいましたし。」

 

「…そんな………」

 

 彼女の顔が悲嘆に染まる。こんな目に遭ってまずするのが他人の心配とはこの娘はなんと健気なのだろうか。

 

「そう気を落とさないで下さい。諦めなければきっとなんとかなりますよ」

 

 自分でも驚く程薄っぺらい事を言ってしまった。泣いている人を宥めた経験なんてない。だから仕方ないと言えば仕方ないけれど、もう少し…もう少しくらい気の利いたことが言えたらいいのに。

 

「………フフっ……」

 

 彼女は笑っていた。

 

「貴方は…とっても不器用な……人なんですね…」

 

 …ああやはり。この娘はとても健気で。とても聡くて。今も僕の気持ちを汲んでくれた。苦笑いするしかない僕に。ただ静かに微笑んでくれる。

 

「あの……」

 

「どうしました?」

 

「手を…握ってもらって…いいですか……?」

 

 …こんな清らかで純粋な娘に僕が触れる?それは…冒涜ではないだろうか?この僕に。この俺に。触れる権利などあるはずが…

 

「藤丸さん…」

 

 彼女がこちらを視ていた。どこまでも透明で、混じり気のない、その綺麗な瞳で。

 目を合わせていると吸い込まれるようで、僕は、自然と、手を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──アンサモンプログラム スタート

  霊子変換を 開始します

 


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