「未だ成果なし…嫌になるわね。本当に」
橋や学校などめぼしい場所は全て探索したのだが大した発見は無かった。二人とも明らかに沈んでいる。敵だらけの場所で希望もないのだ。無理はない。
…よし、ここはひとつ!
「まさに骨折り損のくたびれ儲けってところでしょうか…いや骨は沢山手に入ってるんですけど!」
「…」
「…」
あ。僕、俺また。空気が。俺のせいで
「…藤丸さんそれはな「アハハハハハハ!あなたなかなかやるじゃない!」
あれ?ウケた?
「…ふう。今のは忘れなさい。次はあの教会らしき場所に行くわよ」
よかった。所長が笑ってくれた。空気をしっかり変えられた。
キリエライトさんも笑ってる。うん。きっと笑ってる。よかった。
「ほら!貴方達は私のガードなんだから早くきなさーい!」
所長が呼んでる。行かなきゃ。歩いて、いや走って。誰より早く、所長の下に馳せ参じるんだ。そう、アキレスより速く。カメよりは遅いか?いやきっとそん
「あの…マスター?」
「…あ」
柄にもなくダジャレなど、どうやらまた発狂していたらしい。僕は時折発作のように正気を失うことがある。そこまで頻度は高くないのだが場所が悪い様だ。
我々以外に生者がいないこの異界は僕の精神にとって余りに相性が悪い。死霊術士としてはこの上なく素晴らしい場所なのだが。
「大丈夫ですか?今明らかに表情が…」
「いや大丈夫です。はい。ちょっと疲れてて」
「そう、ですか。では休憩にしませんか?」
キリエライトさんが怪訝な顔をしながらも心配してくれる。だが皆に迷惑をかける訳にはいかない。しっかりしなくては。
「はーやーくきーなーさーいーよー!!」
「ほら所長も呼んでます。休憩は後にしましょう」
「いえ、やっぱり心配です。ドクターロマン?」
キリエライトさんが呼びかけると、風景にそぐわない明るい声が飛んできた。
『はいはーい。どうしたんだい?』
「マスターのバイタルはどうでしょうか」
『至って正常だよ。元気溌剌ってとこだね』
当然だ。体は常に調整している。
「そうならいいんですが…ありがとうございます。ドクターロマン」
なおも怪訝そうなキリエライトさんだったが、僕は正気に戻ったのだ。完全な杞憂である。
「仕舞には泣くわよ!」
こっちに帰って来てまで所長が恨み言を吐いた。
「す、すいません。すぐに護衛を再開します」
キリエライトさんも無事切り替えたようだ。よかった
よかった。
教会跡までやってきた。一応中も調べたが何もかも燃えていた。あの罪深い地下室への扉すらなかった。何者かが人為的に破壊したのだろうか?
落胆し、帰ろうとしたいその時。ステンドグラスが割れる音が響いた。屋根に登れてガラスが割れる程の運動量を持つものとはつまり──
『皆急いで逃げてくれ!サーヴァントだ!』
少し遅れてDr.の声が響く。
「ちょっ!?しっかりモニタしてなさいよ!!」
「劣化していますが気配遮断です!アサシンだ!不意打ちに警戒してください!」
原作での立ち絵的におそらく呪腕さんだろう。宝具すら失ったシャドウサーヴァントの彼はダークの投擲だけが唯一の攻撃方法のはず。つまりそれにさえ気をつければ…!
「キリエライトさん!今まで通りで!」
待機していた骸骨達を走らせる。速攻だ。何も出来ない内に畳み掛ける。
敵は一斉に飛びかかった骸骨に纏わりつかれ、思うように動けていない。案の定面制圧が出来る攻撃は持っていないようだ。
キリエライトさんも合流し袋叩きにする。最初のうちは抵抗を続けていたが、結局悲鳴をあげることすらなく消滅していった。
「…なんか随分とあっけなかったわね」
「アサシンなのにわざわざガラスを割って突っ込んでくるんです。思考もスペックも相当劣化していたと見て間違いないでしょう」
技で戦うタイプが技を失っていた上に数で押せた。だからこそ楽に勝てたのだ。本物があの程度で済む筈がない。きっと包囲を掻い潜ってマスターの僕を狙い射つだろう。
『安心してるところ悪いけどもう一体だ!備えてくれ!』
今度はパワータイプの弁慶さんが攻めてきた。冬木式聖杯戦争なのに何故現界しているのかは置いておくとして、彼は敏捷がとても低い。骸骨で囲めば数に呑まれて終わりだろう。
「ははははははははは!!!!!!!!」
「えっ、骸骨が消えて…」
謎のハイテンションを見せる影弁慶さんが笑い声をあげると骸骨達は煙の様に消えていった。
そういえば彼は仙人だった。劣化しようが亡者程度はなんとかできる、という事だろうか?
「キリエライトさん!支援は無理そうです!」
「了解しました!所長をお願いします!」
言われた通りに所長の護衛に専念する。しかしこのままいけば…
「マズイわね…マシュ、押されてるわ…」
そもそも彼女はシールダー。守る者であって攻撃する者ではない。さらに戦闘経験も少ない。ジリ貧なのは明らかだった。
「藤丸!なんかないの!?」
「アレは獲物からして恐らくランサー。耐魔力持ちです。物理干渉ができるアンデッド系が無効化される以上、僕と所長は何も…」
「そんな…」
「つまり耐魔力を超える魔術を使えばいい訳だ」
若い男の声と共に敵が燃え盛る。
「誰よ!?」
「味方だよ。嬢ちゃん!少し時間稼いでくれ!」
「っ!は、はい!」
教会の中を詠唱が響き渡る。賛美歌にも聞こえるそれが終わった時、影弁慶さんは半径3mはある炎の柱に呑まれて消えていった。
「人間業じゃない…サーヴァント…?」
「のようですね。大方キャスターでしょう」
工場長ならあれ位できそうな気もするが、協力してくれたのは間違いなく我らが兄貴、クーフーリンだろう。
その証拠に物陰に青いモコモコとした裾が見えている。
「助かりました!あのお名前は…?」
「盾の嬢ちゃん。聖杯戦争ではな、クラスで呼び合うもんだ。俺の事はキャスターと呼べ」
ゆっくりと姿を表したキャスター。目深に被ったフードからは人懐っこい笑みが漏れている。
所長が若干怯えながらも話しかける。
「貴方、マトモなサーヴァントなのね」
「俺は泥から逃げきったからな。アイツらと違って堕ちちゃあいねえ」
「なら、話は早いわ。我々は人理継続保証機関カルデアの者で」
「まどっこしいのは止めだ止め。どうせおたく等はこの異常を解決しに来たんだろ?協力してやるよ」
「そ、そうよ。承諾、感謝するわ」
相手が協力者だから強く出れないのか、らしくもなく非礼に耐える所長。その口は引きつり、まぶたはピクピクと震えていた。
「この異変の原因は大体分かってる。セイバーの野郎だ。奴さん、泥に呑まれてから大暴れしてな。俺以外は皆死んじまった」
「セイバーを倒せば僕達は異変解決。キャスターさんは優勝でWIN-WINという事ですね」
「お、坊主察しがいいじゃねーか。マスターが優秀だと楽でいい」
「つまり自分の為じゃない!折角敬意を表して接したのに!」
我慢できなかったのか所長が激憤する。しかしキャスターさんは全く気にかけていない様だ。
「いいじゃねーかお互い得すんだから。坊主、契約だ」
そう言って魔力パスを投げてくる。頷き、令呪を通して契約をした。
「はい、確かにっと。まあこんなとこで話すのもアレだ。あんた等の寝床に行こうや」
「ではご案内します。いいですよね所長?」
「ええ!不本意だけどね!」
案内を始めたキリエライトさんに着いていくキャスターさんと所長。
所長は未だに噛み付いているがキャスターさんは飄々と受け流している。
だいぶ騒がしくなってきた様だ。