Ewigkeit Schlacht   作:羽月天夏(ユキア)

1 / 8
プロローグ

「東西戦争」の際に発生した、二つの未来。

 東西の子供達が、お互いを刺して死んだ未来。

 お互いを刺さずして戦いが起こらなかった未来。

 これは、刺さなかった未来の、数ヶ月後の物語。

 

 永遠。

 それは、誰しもが一度は求める時の果て。

 老いることも死ぬこともなく、このままの姿で生きることを望みたい。

 愛する人と末永く幸せでありたい。

 そのような純粋な願いが、いつしか永遠を求めるようになっていった。

 だが同時に、永遠とは限りなく不確かなものだ。

 人間は未来を見据える力を持っていない。だから全てのことが永遠に思えてしまっても、いつの日か必ずそれは終わりを告げる。

 そして宇宙から見れば、人間はひどく短命だ。人間にとっての一年は、もしかしたら宇宙にとっては眠りの間に見る夢のように、長いように思えて短いのかもしれない。

 永遠。

 それは、不確かな存在の象徴そのもの。

 

 

 闇に染められた部屋に佇むのは、ただ一人の少女。

 ある少女の目には、微かに光を放つ一体の人形が映り込んでいた。

 透明で奥深い、真っ赤なドールアイ。一本一本が繊細に作り込まれている真っ白なドールウィッグ。高級感溢れる素材で作られた、白いドレス。

 そして人形は光を帯びていた。まるで、少女に見つけられることを望んでいるかのように。

 小さな人間とも受け取れるその人形を目にした少女は、その場で固まっていた。同時に、哀れな目付きをした。

「……可哀想……こんな暗いところに閉じ込められて。今すぐ連れて行ってあげるね」

 人形に話しかけても、当然ながら人形は何も答えない。ただ無造作に転がされているだけだ。

 それでも少女は、人形に対して笑いかけながら、人形の方へと歩み寄る。

 ────少女が人形を抱きあげようとした、その瞬間。

 バアン、という痛い音と共に、外から大量の光が差し込んできた。

 人形を即座に抱き上げた少女の姿が明確になる。雪のように白く長い髪、純白のワンピース。黄金のように煌びやかな金目。

 そんな少女を、乱暴に開け放たれたドアから威嚇する者がいた。

「そこで何をしてるの?」

 金髪を紺のリボンで二つに束ねた青眼の少女────アイユキアリス、もといユキアが、少女の腕の中にある人形を睨みつけながらそう問いかけた。

 白髪の少女は、人形を力強く抱きしめた。我が子を離さんとする母親のように。

「……あなたは、誰?この子を奪いに来たの?」

 少女の身体は小刻みに震えている。恐怖に襲われていないとは、到底言えなかった。

 だが、少女は弱々しい風貌をしていながらも、ユキアのことを睨めつけていた。

「その人形は危険物なんだよ。そいつをここに置いて、大人しくしてなさいな」

 片手を腰に当てて、ユキアはもう片方の手に黄金の剣────戦女神の神剣を構えた。

 ユキアは普通の人間の姿をしているが、実際は何万年も生きている戦女神であった。人間の姿のままでも戦闘力はあまり変わりない上、戦女神の時よりも動きやすい。その為に、ユキアはほとんど神の姿にはならない。

 目の前にいる少女が何者なのか、ユキアは知らない。彼女からすれば白髪の少女は、危険物である人形を持ち出そうとした、いわば犯罪者である。こんないたいけな少女が人形を持ち出そうとするとは、ユキアも半信半疑だった。

「…………」

 少女は人形を離そうとしない。両腕に抱えて、じっと動かない。

 はぁ、とユキアは大きくため息をついた。

(……もう、やるしかないかな)

 こんな幼子を手にかけるのは、さすがにユキアも気が進まなかった。当然のことだ。端から見ても、この少女が犯罪者だなんて誰も思わないだろう。

 だが、この少女を見逃してやったところで、いいことなんて一つもない。むしろ状況が悪化するだけだ。

 少女の持っている人形が、どれだけ危険なものかを知っているから。

(……やむを得ないよね)

 念を押すように心の中で呟いて、ユキアは剣を握りしめる。それもまた、意を決するために自分を追い込む行為だ。

 一瞬で終わらせて、あの人形をあの子の手から離してしまおう。そうすれば、何も困らない。

 それはあまりにも浅はかな考えだった。

 

 ────一歩踏み出した、その時だった。

 

「ッ!?」

 ユキアが剣を振り上げた時、刃の先には誰もいなかった。おかしい、そこにはあの子がいた。確かに彼女を狙った。

 なのに、何故?

 瞬間移動、透明化。あらゆる事象を考えてみるも、ユキアには断定できない。

 彼女が何者か知らない。だから、彼女が何の能力を操るのかを知らない。これぞ負のスパイラルだ、とユキアは焦り始めた。

(どこ……!?)

 不意を突かれたら、こちらの調子が崩れる。それだけはなんとかして避けなければ。そう思い、ユキアは辺りを見回す。

 しかし、見えない力のようなものが、ユキアの運命を一瞬で変えた。

 ────ユキアの背中を、ドン、という小さな衝撃が押し出した。

 目の前には、ブラックホールに似た漆黒の穴が現れる。

「えっ……!?」

 抵抗する暇も与えられず、ユキアは穴の中に放り込まれる。穴はユキアごと、闇に吸い込まれるかのように消えていった。

 人形を強く抱き締めて、少女は薄く笑う。

「────私はまだ、終わりたくないの」

 その呟きが誰に向けられたものなのかは、少女以外の誰にも知る由はなかった。

 

 

 何一つ輝くことのない闇の中で、誰かが平面に寝そべっていた。暗闇に支配された世界の中で、双眸を静かに見開いている。

 四肢を広げ、平面に身を投げ出すのは『少年』だった。

 彼は、僅かに口を開く。

「さあ……終わりの始まりだよ」

 何も見えない世界で、少年は微笑を浮かべた。

 その言葉の意味を知る者は、少年以外には誰もいなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。