その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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プロローグ
1話


ーーー二番隊 隊舎ーーー

 

 

「夜一サン、今日はさすがに勘弁して下さいよ。」

「何を言うとる、お主の隊長就任祝いに今日は儂が奢ってやろうと言っておるのにお主はそれを無下にするのか?お?」

「夜一サン、それはもうお祝いというより立派なパワハラっス。」

 

隊首室で偉そうに踏ん反り返っている褐色の麗人、四楓院夜一は面白くなさそうに顔をしかめながら目の前の男、浦原喜助に話しかけていた。

 

「まだ荷物の整理が済んでないんスよ。だから今日だけは勘弁してくれないスカね?」

「ダメじゃ。儂は今日お主を祝いたのじゃ、他の日は気が乗らん。」

「それって単純に夜一さんが今日呑みたいってだけなんじゃ……イタタタ!?」

 

夜一は浦原に強烈な踵落としを食らわせ、そのまま足で押さえつける。

浦原は地面とキスをした状態で身動きが取れずもそもそともがいている。

隊首室の前を通った二番隊隊員たちは浦原の悲鳴をみんな聞いているのだがまたいつもの痴話喧嘩が始まったと思い皆誰も浦原を助けようとはしない。

 

「わ、わかりました。お付き合いしますから取り敢えずその足をどけてくれませんか?」

 

生命の危機を感じた浦原は部屋の整理を諦める選択をした。

浦原の言葉を聞き、ようやく足を離した夜一は機嫌が良さそうにニヤリと笑顔になる。

 

「全く、お主がゴネておるせいで遅くなってしまった。今から貴族街に行くのは遠いの。仕方がない、いつもの場所でやるぞ。」

 

夜一は理不尽な言いがかりを浦原につけて隊長室から姿を消した。

浦原はゲホゲホと咳をしながら不足していた酸素を補給する。

平静を取り戻すと、ここのまま自室戻ろうかという考えが頭をよぎったが後が怖いのでその案を却下し、仕方なく双極の丘へと向かった。

 

 

ーーー双極の丘ーーー

 

 

双極の丘は尸魂界の外れにある。そこには大罪人を処刑するために使われる双極というものが存在している。

その地下深くには浦原喜助と四楓院夜一が秘密裏に作った、隠し部屋のような空間がある。

浦原と夜一はその空間を『修行部屋』と呼び、二人だけの秘密の場所として使用していた。

 

なぜそんなに広大な空間が誰にもバレていないのかというと、双極の丘には普段はほとんど人が寄り付かないからである。

それもそのはず、双極を使用するほどの大罪人は滅多に現れるものではない。双極以外何もないこの丘に頻繁に来る者は浦原と夜一だけなのである。

 

夜一は瞬神と言われている当代随一の瞬歩を駆使して、二番隊隊舎からものの10秒で双極の丘へと辿り着いた。

夜一は地下へ向かおうと前に出した右足を突如止めた。

 

自分以外には誰もいないと思っていた丘の中心に一つの人影があったのだ。

顔が暗闇に隠れていてその男が何者なのかは夜一には分からなかった。

しかしその服装は黒い死覇装であるため、隊長格ではないことだけが分かった。

下手に動いて修行部屋がバレるとやっかいだと考えた夜一は男がいなくなるまで待つことにした。

 

物陰に隠れて様子を見ているとその男は空を見上げて月を見ていた。

その男は月を暫く見つめているとおもむろに懐から青色の棒状のものを取り出し、そしてそれを口元へと持って行くと、その口元から音が生み出される。

その音は徐々に繋がっていきやがて一つの曲へと姿を変えた。

 

 

その曲はなんの抵抗もなく夜一の心の中へ入って行った。

神秘的なようで儚いそんなどこか物悲しさを感じさせるような曲だった。

 

 

夜一は感嘆の声を上げる。

夜一は尸魂界の五大貴族の一つ、四楓院家の当主であるため、子供の頃から演奏会や演劇などありとあらゆる芸術を見てきた。しかし夜一にはそれらはただただつまらないものでしかなく、その良さは一切分からなかった。そんな夜一でさえもこの曲に魅了されてしまっていた。

 

その男の演奏は見事な余韻を残して終了した。

その男は笛のような物を懐にしまうとおもむろに夜一のいる方向に顔を向けた。

夜一はようやく我に帰り慌ててその場を離れようとする。

しかしその男は夜一に向かってニコリと微笑むとその場から姿を消した。

 

「どうしたんスカ、そんなところで突っ立って……ッイタ!?」

 

今の出来事はほんの数秒の事だったのかそれともとても長い時間が経過しているのか、時間感覚さえ狂わされるほどその曲に魅了されていた夜一はいつの間にか背後にいた浦原の存在に気付かず、長年の戦闘で培われてきた戦士の直感で浦原を殴ってしまった。

 

「お、す、すまん。少しボーッとしておったのじゃ。」

「どうしたんスカ、いきなり……」

「気にするな!さっ、早く呑みに行くぞ!」

 

夜一はそう言うと浦原の胸ぐらを掴んで強引に引きずっていく。

浦原はその夜一の顔が赤く染まっていることを見逃さなかった。

 

 

男は月が綺麗な夜に静かな場所で演奏がしたかった。

女は誰もいない秘密の場所では酒が飲みたかった。

その両者は偶然出会ったに過ぎない。

今はまだ……




初投稿です。

読み辛いところたくさんあると思うけどよろしくお願いします。

この作品予定通りに進めば途中で鬱(?)展開になるので注意です。
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