その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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10話

これからの話は今から二千年以上前の話である。

護廷十三隊が発足し、優秀な死神育成のために山本元柳斎が真央霊術院を作った頃まで遡る。

 

 

「俺は護廷十三隊一の天才だ。天才は何にも縛られてはいけない。さらばだ!」

「待たんか!」

 

何かしら問題を起こした玄太郎が山本に追いかけられていた。

真央霊術院が出来てから毎日行われている事なのでもはや学生たちは何も驚かなかった。

 

「僕も大概山爺には怒られてるけど、玄ちゃんはそれ以上だね。凄いねぇ。」

「おい。先生たちをそんな呼び方するなよ。それに滝先生は俺たちを休ませるためにわざとやってくれてるんだぞ。」

 

ボロボロになっている竹刀を持つ手を見て浮竹は今さっき修行場から飛び出していった先生に感謝した。

しかし彼らに訪れた平穏は長続きしなかった。

帰ろうとした京楽と浮竹の行く手を一人の死神が遮った。

 

「貴方たちが真央霊術院の首席と二番目ですね。」

「おおー、噂通りすっごい美人だねぇ。」

「何を馬鹿なこと言ってるんだ。十一番隊隊長の卯ノ花隊長だぞ。こんにちは、僕が浮竹でこちらが京楽です。何かご用ですか?」

 

浮竹の問いかけに卯ノ花は答えることなく無言で険しい目で二人をジッと見つめた。

まるで二人を値踏みするかのように隅から隅まで見ていた。

浮竹と京楽は生きる伝説、剣八を目の前にして体が強張っていることを感じた。

 

「いや〜、美人からの熱い視線ってのはこんなに怖い物だとは思わなかったねぇ。ちびっちゃいそうだよ。」

「確かに……怖いな。」

 

卯ノ花は黙って二人を見ると咄嗟に修行場の隅で休んでいた学生から竹刀をもらった。

そして再び二人の前に現れるとようやくその重い口を開いた。

 

「二人一緒でいいでしょう。かかって来なさい。」

「そ、そんな!?卯ノ花隊長と手合わせなんて光栄ですが……」

 

京楽は尻込みする浮竹の肩を叩き、前に出て卯ノ花と対峙した。

そして浮竹にだけ聞こえる小さい声で学友を叱咤する。

 

「ここは戦わなかったら、さらに恐ろしい事になるよ。」

 

浮竹は京楽の言葉を聞き、少し平静を取り戻して目の前の女性を再びジッと観察した。

鬼神の如き威圧感はとても同じ死神とは思えないほど強く、この場を完全に支配していた。

 

「さぁ、早く構えなさい。戦いだけが我々死神の生きる道ですよ。」

 

その言葉は浮竹に戦意を持たせるのには十分な言葉だった。

 

 

『戦いだけが死神の生きる道』それは浮竹の持つ死神としての矜持と真っ向から相対する言葉だった。

死神が剣を振るう理由は二つ、誇りを守るためと命を守るためである。

決して戦いそのものに意味が訳ではない。

今、浮竹は剣を振るわなければならなくなった。

己の死神としての矜持を守るためにーーー

 

 

浮竹が構えたの見て、京楽は遅れながらゆっくりと木刀を構えた。

 

「さぁ、いっちょお戯れと行こうじゃないの。」

 

浮竹と京楽は一斉に卯ノ花へと向かって行く。

卯ノ花は獲物を前にした狼のように凶暴な笑みを浮かべて二人の攻撃を受け止めた。

卯ノ花は、男二人の全力の斬撃を涼しい顔で受け止めた。

その細い腕のどこからこれほどの力が出てくるのか浮竹は改めて目の前の死神の強さを確認した。

 

「数の利を不意にするなど愚の骨頂。とても戦いを楽しんでいるとは思えない。」

 

卯ノ花は二人を弾き飛ばす。

浮竹と京楽が体勢を立て直した時には既に卯ノ花は間合いに入っており、目で追いきれないほど速い太刀筋で斬りかかられた。

 

「くっ!?」

 

咄嗟に竹刀で身を守った浮竹は目の前で起きた現実が理解できなかった。

自分の手にあった竹刀が真っ二つに折られたのである。

京楽と浮竹、二人掛かりでもビクともしなかった竹刀がいとも簡単に折れた。

非現実的な光景を前に浮竹は背筋に悪寒が走った。

 

浮竹の顔に恐怖が現れたことを確認すると卯ノ花はつまらなそうに踵を返して帰ろうとした。

その後ろ姿を呆然と見送りながら京楽は疲れた声で小さく呟いた。

 

「助かったのかな、こりゃ……」

 

半分になった竹刀を無言で見つめていた浮竹は突然、竹刀を持つ手に力を込めてゆっくりと立ち上がった。

異変を感じ取った京楽が珍しく、驚いていた。

 

「浮竹!?止めるんだ!」

 

京楽の言葉は浮竹には届かない。

浮竹には己の死神の矜持しか見えていなかった。

必死で走って卯ノ花に向かう。

しかし浮竹が間合いに入るよりも早く、卯ノ花は振り返り、面倒臭そうに竹刀を雑に振るった。

その竹刀は浮竹の右目を貫こうとした。

まともに食らえば浮竹は失明する。

しかし浮竹の右目から光が失われることは無かった。

 

卯ノ花の竹刀は激しい炸裂音とともに真っ二つに折られていた。

卯ノ花は驚きと喜びの混ざり合った複雑な表情になった。

卯ノ花の視線の先には竹刀を肩にかけて自信満々の笑みを浮かべた玄太郎が立っていた。

玄太郎は浮竹を庇うように前に立ち卯ノ花に対峙した。

 

「元ちゃんの秘蔵っ子を傷付けちゃったら大目玉だぞ。」

「それで、総隊長と戦えるのならそれも良いかもしれませんね。」

「あのなぁ……」

 

玄太郎は頭をかいてどう説得すればいいのか思案を巡らす。

しかし、卯ノ花はもう待ち切れないのか鞘から斬魄刀を出して突進して行く。

道場内の空気が一気に張り詰めた。

玄太郎も竹刀を投げ捨てて斬魄刀を抜き対応した。

激しい金属音が修行場に響き渡った。

隊長と三席が斬魄刀で斬り合う。

まだ実戦を知らない学生達にとっては初めて見る実戦がこの二人というのは幸か不幸か。

おそらく尸魂界で五本の指に入る実力者二人の一騎打ちである。

 

激しい金属音が何度も響き渡った。

数十回金属音が鳴った後、二人の剣鬼は一度距離をとった。

卯ノ花は霊圧を一気に放出して自分の不満の大きさを示した。

卯ノ花の霊圧にあてられて、その場にいた学生達は浮竹と京楽以外みんな意識を失っていた。

そんな霊圧の中でも玄太郎は飄々とした様子でいる。

 

「なぜ、貴方から切ってこない。守るだけが戦いな訳がないでしょう。」

 

卯ノ花の言葉に玄太郎はまた自信満々の笑みで気取った様子で答えた。

 

「女の子を傷付けるのは絶対にしてはいけない事だ。」

 

その言葉を聞き、卯ノ花はさらに霊圧を放出して玄太郎に斬りかかった。

玄太郎は卯ノ花の斬撃一つ一つを丁寧に受け流した。

しかし自分から攻撃することは絶対にしない。

玄太郎は卯ノ花の懐に入り強く抱きしめた。

 

「女の子はそんな物騒な物なんか持たずに俺に抱かれとけ。」

 

卯ノ花は玄太郎の顔に強烈な殴りを入れた。

玄太郎は悲鳴とともにその場に蹲まった。

 

「今宵はもう興ざめです。次、剣を交えた時は本気で殺します。」

 

卯ノ花は腹立たしそうな顔で玄太郎を一瞥するとその場から消え去った。

 

「棘のある女も中々だ。……そう思うだろ京楽も?」

「僕はお断りしようかなぁ。玄ちゃんに譲るよ。」

 

玄太郎は鼻をさすりながら立ち上がると膝立ちで崩れている浮竹の元へ行き強引に立ち上がらせた。

 

「正義と蛮勇は紙一重だぞ。俺たちは死神であって神ではない。俺たちは俺たちの手の届く範囲の平和を守るんだ。それが……死神だぞ。」

 

普段の玄太郎からは想像もつかないような真面目な言葉に浮竹は驚いた。

 

ーーーだからこの人は元柳斎先生の右腕なのか。

 

 

暖かい雰囲気を壊すようにこの日五本目の竹刀が破壊された。

激しい音ともに浮竹の隣にいた玄太郎は悲鳴とともにその場を転げ回った。

 

「馬鹿ものが!!儂から逃げられると思ってか!!」

「変な音したぞ!?頭割れてる、絶対割れてる。」

 

いつもの姿に戻った玄太郎を見て浮竹は僅かに顔を綻ばせた。

 

その日以来、卯ノ花が玄太郎に一騎討ちを挑むことはなかった。

しかし、二人の再戦の時は近い。

そして卯ノ花の言葉通り、二人は本気で殺し会うこととなる。




完全にプロローグの時に書けって感じの話ですね……

ただ、どうしても卯ノ花と玄太郎に因縁つけとかないとこの先の展開が燃えないだろうなと思い書きました。

この辺の構成の甘さは追い追い直していきたいです。
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