その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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12話

玄太郎は斬魄刀を抜きその切っ先を卯ノ花へ向ける。

そこまで黙ってことの成り行きを見ていた卯ノ花は二千年以上我慢してきた自分の欲望をついに放つ。

 

「強い者と斬り合う。それこそが我が人生唯一の楽しみ。さぁ、思う存分楽しみましょう。」

 

心底嬉しそうに狂気じみた笑顔を浮かべた卯ノ花を中心として漆黒の液体のようなものが周囲を覆い始めた。

 

「卍解『皆尽』」

 

卯ノ花の刺すような視線を受けて玄太郎は肩をすくめると無造作に斬魄刀で地面を叩く。

玄太郎の斬魄刀は刀身に無数の穴の空いた鮮やかな青色の斬魄刀になっていた。

 

やがて玄太郎と卯ノ花の周囲を闇が覆い隠す。

玄太郎と卯ノ花に見えているのはお互いの姿だけで他は全て闇に支配されている。

視界には敵以外映らない。

極限まで殺し合いに集中できるような空間を作り上げた卯ノ花の卍解を見て玄太郎は愉快そうに笑った。

 

「本当に卍解ってのは使用者に似るもんだな。」

 

卯ノ花はそれには応じずに斬りかかった。

卯ノ花の斬撃は恐ろしく速くそして重い。

しかし玄太郎はその斬撃一つ一つを涼しい顔で受け流した。

玄太郎が受け流す度に激しい金属音が周囲にこだました。

卯ノ花はその音を耳にする度に全身に鈍痛が走った。

しかしそれらの傷は即座に回復して卯ノ花に戦いを促す。

 

傷付く度に卯ノ花の斬撃は速く、重くなって行った。

卯ノ花は己の身が生と死の狭間に晒されていることを感じて胸が高鳴った。

久しく感じていなかった戦場の感覚に卯ノ花体の剣八としての血が徐々に覚醒していく。

何度、皆尽に助けてもらっただろうか。皆尽がなければとっくに死んでいる程の傷を負いながら卯ノ花は遂に玄太郎の反応速度を上回った。

玄太郎の胸から大量の血が飛び散った。

普通なら致命傷になるような深い傷だ。

 

だがそのような深い傷も一瞬で回復されて玄太郎に戦うことを促す。

 

玄太郎は自分が致命傷を負ったという感覚に全身に悪寒が走った。

玄太郎は額の汗を拭っていつものように自信満々に笑う。

しかしその笑顔は明らかに無理をして作っているものだと分かった。

 

「なぜ卍解を解いたのですか?此の期に及んでまだ戦いを舐めているのですか?」

 

卯ノ花の目はもはや完全に光彩を失っていた。

 

「悪いな、俺の卍解は一騎討ちには向いてないんだ。それに気難しいお姫様が認めた相手にしか卍解は見せられないんだよ。」

 

玄太郎は大きくため息をつくとこの日初めて自分から卯ノ花に斬りかかった。

卯ノ花は期待に満ちた顔で玄太郎の次の一手を待ち受けた。

 

玄太郎の渾身の一太刀は卯ノ花に簡単に受け止められた。

しかし玄太郎の狙いは他にあったのだった。

斬魄刀同士が触れ合ったまま玄太郎は自身の斬魄刀をスライドさせた。

先程までよりも甲高い音が周囲に響いた。

今までよりも更に深い音の刃が卯ノ花を襲った。

 

初めて卯ノ花に焦りが見えた。

卯ノ花は狂気と狂喜の中で常人離れした判断を下した。

玄太郎の斬魄刀を手のひらで受け止めに行った。

当然、音姫は卯ノ花の肉を断ち切り体内に食い込んだ。

相当な痛みの筈だが卯ノ花にはそんなことはどうでもよかった。

目の前の男に勝ちたい。ただそれだけが彼女の頭を支配していた。

 

卯ノ花は右手に持った斬魄刀を高く振り上げる。

飛び去ろうとする玄太郎だが卯ノ花の左腕がそれを許さない。

 

ーーー間に合わない。

 

卯ノ花の斬魄刀は玄太郎の体を紙を切るようにいとも簡単に切り裂いた。

玄太郎の体にまた深い傷が生まれる。

しかしその傷は直ぐに再生を始めて玄太郎に戦うことを促す

ーーーはずだった。

 

「なん……だと!?」

玄太郎の傷は完全に塞がらなかった。

ある程度は回復しているため戦闘は続行できるが完全回復には程遠かったのである。

玄太郎は卯ノ花の罠にハマったのかと思い、卯ノ花の様子を観察しようと目を向ける。

玄太郎はさらに驚愕した。

卯ノ花もまた左腕の傷が塞ぎ切っていないのである。

それどころか、卯ノ花の左腕は激しく出血しておりとても使い物になりそうになかった。

 

「お見事。」

 

突如暗闇に支配された空間に亀裂が走った。

その亀裂はどんどんと大きくなりやがて、暗闇に一筋の光が差し込んだ。

それは卯ノ花の卍解が解けた事を意味していた。

 

「皆尽の能力は即時再生。ただその代償として霊圧を差し出すこととなる。先程の傷で私の霊圧は底を尽きました。あなたの勝ちです。」

 

卯ノ花は左手で掴んでいた斬魄刀を離して玄太郎を解放した。

そして覚悟したように静かに目を瞑った。

 

意図しない卍解の解除は所有者の死期が近い合図である。

卯ノ花は己の敗北を悟り、玄太郎に殺される事を望んでいるのだ。

しかしいつまで経っても最後の一撃は下されない。

卯ノ花は痺れを切らして玄太郎に詰め寄った。

 

「なぜ止めを刺さないのです!!私の卍解は解けた。これの意味するところが分からない貴方ではないはず。」

「いいんだよ、もう。十分、夜一の分はお仕置きしたからな。」

「これでも貴方は本気にならないと言うのか!!」

 

卯ノ花は怒りに任せて玄太郎を殴ろうとするが体の制御が上手くつかない。

足が絡まりその場で倒れてしまう。

 

「昔も言っただろ?女の子を傷付けるのは趣味じゃないってな。」

 

卯ノ花はその言葉を聞き一層怒りがこみ上げてくる。

そして絞り出すように苦しそうな声で玄太郎に訴えかけた。

 

「私が女であること。それこそが罪だと仰るのですか?」

 

玄太郎は空を見上げて真面目な顔になると冷たい声ではっきりと言い放った。

 

「ああ。そうだ。」

 

卯ノ花はその言葉を聞き、却って救われた気分になった。

もしここで玄太郎が下手に言い訳をしたならば卯ノ花は自らの手で命を絶っていたかもしれなかった。

卯ノ花は八千流から烈へと再び戻っていた。

 

「それでも私は戦いの中で生き続ける。それこそが私の死神としての矜持ですので。」

 

尸魂界の東半分を焼け野原にした、卯ノ花と玄太郎の殺し合い(片思い)に決着が着いた。

 

 

✴︎

 

 

「卯ノ花よ、四番隊は待機じゃと命じた筈じゃが。」

 

激闘が終わりようやく静寂が訪れた玄太郎だったが事態はさらに悪化していた。

 

烈火の如き霊圧を纏った一人の死神が玄太郎に対峙した。

その男こそ、千年以上も尸魂界最強の名を守り続けている当代最強の死神、『山本元柳斎重國』である。

 

山本の視線は真っ直ぐに玄太郎を射抜いていた。

山本は放出する規格外の霊圧のみで玄太郎の一連の行動を咎めていた。

 

「戦う気はあるのじゃろうな?」

 

玄太郎はゆっくりと斬魄刀を己の体の前へ持っていき無造作に地面に叩きつけた。

 

「悪いな、元さん。俺はまだ死ぬわけにはいかない。殺さなきゃいけない奴がいるし、それに……逢わなきゃいけない奴がいるんでな。」

 

音姫から放たれた音を聞き山本の目が大きく見開かれた。

音の波に乗った霊圧は山本に届くことなく、玄太郎を襲った。

 

双魚理(そうぎょのことわり)

 

浮竹は山本を庇うように前に立ち玄太郎の攻撃を跳ね返した。

 

「刀を収めてください。玄太郎先生!」

 

浮竹は普段からは想像も出来ないほどに強い口調で玄太郎に話しかけた。

玄太郎は一瞬驚いたがすぐさま自信満々の笑みを顔に貼り付けて二人に対峙した。

 

「貴方が理由もなく、護廷に背くはずがありません。何か理由があるのではないですか?」

「理由なぁ……。今の護廷十三隊に飽きたからかな。」

 

玄太郎は事もなげにさらりと言い放った。

浮竹は目を大きく見開いて信じられないといった表情である。

 

「そ、そんな筈は……」

「もう良い。お主の返答はしかと聞き届けた。」

 

山本の言葉が合図となり雀部は卯ノ花を抱えてその場を離れて俯瞰の視点から三人の戦いを見守ることにした。

 

山本は杖を一本の斬魄刀へと変える。

 

「万象一切灰燼と為せ『流刃若火』」

 

山本の斬魄刀を中心として炎が発生する。

その炎に照らされて周囲の温度が急激に上昇しする。

夜だというのに玄太郎たちのいる場所だけが明るく照らされていた。

 

「やれやれ。その額の傷もう一本増やしてやろうか?」

 

山本の一振りで恐ろしいほどの質量を持った炎が玄太郎めがけて放たれる。

玄太郎は余裕の表情で音姫を強く地面に叩きつけた。

最初の攻撃よりもさらに大きく低い音がする。

その音は霊圧の壁となって玄太郎を炎から守る。

 

「大きさ、高さによって矛にも盾にも姿をかえる音。やはりお主らしい雅な斬魄刀じゃな。」

「褒めてくれるならこのまま見逃してくれない?」

「たわけ!!」

 

山本の霊圧が一層大きくなる。山本が刀を振るうたびにいくつもの炎が生み出され玄太郎へ向かって飛んでくる。

玄太郎はそれらを器用に避けながら間合いを詰めていく。

そして斬撃圏内へと入ると強く踏み込み山本に斬りかかった。

鉄と鉄の激しくぶつかり合う音が周囲に響き渡った。

山本の隊長羽織が傷だらけになる。

しかし山本の体には軽い傷しか付いていなかった。

玄太郎は飛び去り一度距離を取ろうとした。

 

「あんだけデカイ音立てて、かすり傷ってどんだけ硬いんだよ。」

「二千年以上生きたせいで忘れたのかの?儂にしてみればいつまでもお主は童でしかはないわ!」

 

山本は逃げられる前にさらに強い、大量の炎を玄太郎に対して放つ。

玄太郎は霊圧で厚い壁を作り上げてそれらを防ごうとした。

一般的に言うところの縛道の八十一『断空』である。

 

最初の炎が断空に激突したのを皮切りにいくつもの炎が断空に対して突撃していく。

激しい噴煙を上げて浮竹や山本からは中の様子が完全に見えなくなった。

 

「元柳斎先生、お引き下さい!」

 

爆煙を払うように音の牙が山本たちに向かって放たれた。

流刃若火の爆発音を利用した、さっきまでの音とは比べものにならないほどの大きな攻撃である。

浮竹は怯むことなく山本の前に立ちその攻撃を受け止めようとする。

 

双魚理(そうぎょのことわり)

 

音は霊圧に姿を変えて浮竹の斬魄刀に吸収されていく。

しかし、その霊圧は双魚理の許容量を完全に超えていた。

山本が咄嗟に浮竹を庇い背中で音姫の斬撃を受け止めた。

死覇装が完全に破れ去り上半身が露出した。

 

「中々のものじゃな。」

 

山本の背中に深い傷が刻まれた。

この傷は山本の生涯消えることのない三つ目の傷になる事となった。

 

これほどの傷を負いながら未だに立っていられる山本の人外じみた強さに浮竹は震えた。

 

玄太郎は上空から徐々に降下している。

 

「……ッ!?」

 

玄太郎は地面にたどり着く前に周囲に血飛沫を飛び散らした。

月明かりに照らされて怪しく赤く光る血だまりの中心に玄太郎はうつ伏せで倒れる。

 

影から伸ばされた刀の持ち主は影のある表情で姿を現した。

 

「きょ、京楽か……。」

「あまり喋らない方がいいよ。肺を貫いたから。」

 

玄太郎は苦しそうに咳き込みながら立ち上がろうともがく。

しかし流石の玄太郎は卯ノ花との連戦で体に限界が来ていた。

 

「恨まないでよ。玄ちゃんが教えてくれたんでしょ。戦場に華など存在しない、そこにはあるのは絶望だけだ。だからどんな手を使ってでも生きたものこそが正しいのだと。」

「そんなこと……言った覚えないけど。」

「玄ちゃんの背中から僕が勝手に学んだのさ。」

 

京楽の言葉を最後に玄太郎の意識はプツリと途切れた。




前回、しれっと卍解してたんですけど気付いてくれました(笑)?

卍解の名前は『音姫月下上演』。
本当の能力はまだ明かさないのですけど名前は披露しました。

卯ノ花の卍解の能力はオリジナルで補完しました。
ブリーチの設定集欲しい……。
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