その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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尸魂界動乱編
13話


ーーー 一番隊隊舎 ーーー

 

朽木ルキアの処刑が決まってから半日が過ぎ、四十六室から新たな決定が護廷十三隊総隊長『山本元柳斎重國』に告げられた。

その報告を受けて山本は直ちに隊長格二十六名を一番隊隊舎に招集した。

 

十一番隊や十二番隊の姿が見えないがこの二隊が集合に参加しないのはいつもの事なので誰も口にはしない。

 

ほとんどの隊長、副隊長が集まった中、一番隊隊舎の中央にある固く閉ざされた扉が重い音を立てながら開いた。

隊長格は皆、一層緊張した面持ちになった。

 

扉の向こうは真っ暗で何も見えない。

完全なる暗闇から一つの人影が徐々に浮かび上がってきた。

足音はどんどんとこちらに近づいてきて、ついに死覇装に身を包んだ一人の男性が扉から出てきた。

 

砕蜂や東仙はとても険しい表情でその男の姿を見ていた。

多くの視線の中心にいながら一切動じずにその男はわざとらしく伸びをした。

 

無間から百年ぶりに釈放された大罪人、滝玄太郎を前に五番隊副隊長『雛森桃』は思わず自らが全幅の信頼を寄せる上司、藍染の背に隠れてしまった。

 

「大丈夫だ。君は僕が守る。」

 

雛森のそんな情けない様子を見て藍染は怒るのではなく朗らかに笑い頭を撫でた。

副隊長として情けない姿ではあるのだが、五番隊の隊風なのか隊士たちは皆、雛森を上司として認めていた。

そんな隊長と副隊長の微笑ましいやり取りを無言でじっと見ていた玄太郎はやがて大罪人とは思えないほどいい笑顔で周りを見渡した。

 

「ちょっと見ない間に随分と面子が変わったみたいだな。知り合いなんてほとんどいない。」

 

その言葉を聞いて砕蜂隊長が激怒して玄太郎に詰め寄った。

 

「貴様が殺したのだろ!!何故……何故夜一様達を殺した!!答えろ!!」

 

砕蜂は強い口調で玄太郎に掴みかかった。

玄太郎は頭の中で何やら考えている様子だったが突然、不敵な笑みを浮かべた。

 

「何故ってそりゃ……あいつらは死神の秩序を乱したからな。」

 

その言葉を聞きさらに激昂し斬魄刀に手をかけた砕蜂を東仙が制止した。

まだ怒りが収まっていないのは明白だが一旦玄太郎から離れて行った。

このやりとりを無言で見守っていた他の隊長格たちは東仙の冷静沈着さに改めて敬意を表した。

 

「貴様に秩序を語る資格はない。」

 

だが東仙も砕蜂と変わらず、その体からはとてつもない殺気が漂っていた。

玄太郎は東仙の肩に手を置くと二人にしか聞こえないほど小さな声で何かを行った。

その言葉を聞いて東仙は明らかに怒りの表情で玄太郎を睨んだ。

東仙を無視してゆっくりと歩き藍染の前にやってきて立ち止まった。

 

「久しぶりだな、藍染。」

「黙れ。」

 

普段の藍染からは想像できないほど冷たい声音で後ろにいた雛森は怖くなった。

しかし次の言葉を聞いて雛森の心を支配していたものは恐怖から殺意に変わった。

 

「反逆者が呑気に隊長か。」

 

藍染隊長を侮辱された感じた雛森は我を忘れて斬魄刀を抜き玄太郎に斬りかかった。

他の隊長格たちが一斉に驚いて止めようとする。

しかしもう止めることはできない、その斬撃は玄太郎の右腕に深く食い込んだ。

 

「見てないで誰か止めてよ。」

 

右腕から大量の出血をしているにも関わらず軽い調子で言葉を返す目の前の玄太郎にその場にいた皆が得体の知れない恐怖を感じた。

 

「……そろそろ抜いてくれない?」

 

玄太郎の言葉で我に返った雛森は慌てて斬魄刀をおさめる。

そして周りの隊長格の視線から自分のしてしまったことの重大さを感じて強い罪悪感を感じる。

 

「も、申し訳ありません。」

 

不本意ながらも頭を下げて謝る雛森を玄太郎は大笑いしながら撫でてきた。

 

「いいぞ、いいぞ。普段は大人しいのに怒ると何をするか分からなくなる。そういうところは可愛いな。」

 

雛森は何を言われているのか分からなくなり戸惑った。

抵抗もできずされるがままになっている雛森を見て十番隊隊長『日番谷冬獅郎』が怒りの声をあげた。

 

「おいテメェ!!」

 

日番谷の怒声がこだました。

砕蜂や東仙も霊圧を急速に発して怒りを露わにする。

異様な雰囲気の隊長たち、そしてその中心に自分がいる事に雛森はとても困惑した。

 

突如雛森の頭を撫でる手が止まった。

 

「私の部下にちょっかいを出すのはやめて下さいますか?」

 

藍染が困惑する部下を見かねたように玄太郎の手を掴んだ。

 

「部下とは随分と偉くなったようだな。」

「ええ、貴方のいない百年間で全ては変わったのですよ。」

「……そうか、そりゃ楽しみだ。」

 

他の隊長格には良く意味のわからない会話を終えると玄太郎はまたゆっくりと歩いて行き、次は卯ノ花の前で立ち止まった。

卯ノ花は玄太郎を前にしても一切表情を変えず目を瞑っていた。

玄太郎はこの張り詰めた雰囲気に似つかわしくないほど軽い調子で話しかける。

 

「見ての通り怪我しちゃった。直してくれるよね、烈ちゃん?」

「……」

 

卯ノ花は大きくため息をつくと瞬歩でその場から消えた。

その後を追うように玄太郎もその場から姿を消した。

 

今にもはち切れてしまうほど張り詰めた空気がようやく少し和らいだ。

隊長達は皆、一番隊隊舎を出て自分の持ち場に戻っていった。

緊張の糸がとけた雛森は予想以上に疲れていることに気付いた。

疲れがどっと押し寄せてきてその場に倒れこみそうになる。

そんな雛森慌てて支えた藍染はいつものように朗らかに笑った。

 

「ありがとう。僕の為に剣を振るってくれて。でももう二度とあんな無茶はしないで欲しい。あいつは……危険だ。」

 

そう言った藍染の声はとても冷たく恐ろしかった。

 

 

ーーー 十番隊隊舎 ーーー

 

 

「んもー、隊長そんなにカリカリしないで下さい。あれは典型的なプレイボーイですよ。あの言葉に深い意味はないですよー。」

「……」

 

隣で見当違いのフォロー入れてくる十番隊副隊長の『松本乱菊』を無視しながら日番谷は先程の出来事を思い出して整理する。

 

『隊長・四十六室殺しの大罪人、滝玄太郎』

 

滝玄太郎は無間に入れられた死神の中では一番最近収容された死神だった。

百年前に突如暴動を起こし当時の隊長六人を殺害した後、四十六室までもを全員殺害したといわれている。

そんな規格外の反逆者がどうして捕らえたのかというとあまり詳しい情報は与えられていない。

総隊長と一騎打ちをして破れたとしか聞いていない。

その後、四十六室は双極による滝の処刑を要請したが山本がそれを固辞した。

結局、双極による処刑は見送りとなり無間で刑期、一万年が言い渡された。

 

しかし、事態は一変。急遽四十六室が玄太郎の釈放を決定した。

理由は旅禍の進行に備えた戦力増強と発表されたが、わざわざそんな大罪人を釈放する必要はないというのが隊士たちの総意だった。

 

日番谷が最も気になっているのはなぜ総隊長は滝玄太郎の処刑を拒んだのかである。

玄太郎の過去の来歴は一切消去されており、同じ時を過ごした死神にしか彼がどんな死神であったか分からないのである。

 

おそらく当時から隊長をやっていた卯ノ花や京楽、浮竹ならなにか知っているのだろうが、日番谷の頭の中に何人かの古参隊長たちの姿が浮かんだ。

こうして椅子に座って思考を巡らしていても何も進まない。

心のモヤモヤを振り払うように日番谷は勢いよく椅子から立ち上がった。

 

「隊長……どうされました?」

 

目を丸くする松本はやがて子供を見るような生暖かい目で日番谷を見る。

日番谷はどうせまた失礼なことを考えているのだろうと思い、松本を無視して隊長室を出て行った。

 

 

ーーー 穿界門 内部 ーーー

 

 

穿界門の中を駆け抜ける五人の影があった。

 

「ええか耳かっぽじってよう聞きや。お前らじゃ隊長格には歯が立たん。会ったら絶対に逃げるんや。生き残ることこそが最重要任務や。」

 

四人は関西弁の口の悪い男、平子真子の忠告を真剣な顔で聞いていた。

オレンジ髪で身の丈ほどの大剣を背負っている男、黒崎一護は先頭を走る平子に同じく喧嘩口調で話しかける。

 

「おい、あんたの目的は別にあるって言ってたけど何なんだよ?」

「あ?そんなこと聞いて何になんねんハゲ!」

「ハゲてねぇって言ってんだろ、コラァ!」

 

またいつもの口喧嘩が始まった。

お互いに口の悪い平子と黒崎は事あるごとに喧嘩を繰り返していた。

 

「あの平子さんも黒崎くんも落ち着いて?ね?ね?」

 

喧嘩する黒崎と平子の間でオロオロしている美少女の名前は井上織姫である。

 

「井上さん、もう諦めるんだ。この二人はバカだから学習する事を知らないんだ。」

「「うっせ(うっさいねん)石田ァ。」」

 

井上を励ましていた石田も二人の喧嘩に巻き込まれてしまう。

 

「だいたい何やねん。その訳の分からん服は。あぁ?仮装パーティーしに行くんとちゃうぞ!!」

「全くだ。その服のセンスはどうかと思うぞ。」

 

二人に自慢の服を集中攻撃を喰らい石田の心は既にズタボロであった。

 

「仲がいいのか悪いのか……」

「真っ白だな。」

「茶渡くんまで……」

 

石田を攻撃して二人ともスッキリしたのか喧嘩はいち段落して黒崎が改めて落ち着いたトーンで聞いた。

 

「改めてあんたの目的も教えてくれ。目的を知ってたら俺たちが手助けできるかもしれないだろ?」

 

平子は真面目な顔になり黙って走り続けた。

黒崎達は促すことなくひたすら平子が自分から話すことを待った。

やがて平子はその重い口を開いて黒崎達に自分の目的を伝えた。

 

「昔の知り合いを助け出しに行くんや。五人全員まとめてな。」

「五人?」

 

黒崎は平子の目的が自分達と似たものであることにまずは驚いた。

そしてその次にその人数の多さが気にかかった。

確かに平子は自分達の中で一番強い、それでも十三人いる隊長格全員を相手に出来るほど強いのかは分からない。

普通に考えて護廷十三隊を敵に回すとは自殺行為に等しいことだ。

にも関わらず危険を顧みずに尸魂界に乗り込んでいく。

平子をそこまでさせる人とは一体どんな奴なのか黒崎は純粋な興味を持った。

 

思考の世界に入り現実から離れていた黒崎を現実に引き戻したのは背後から迫る巨大な追跡者の存在だった。

 

「おい!?なんか後ろから来てるぞ!?」

「拘突や。逃げるで……走れ!!」




過去編では色々なところが描かれずに終わりましたが百年振りに出てきた玄太郎と同じく浦島太郎な状態を楽しんでもらえると嬉しいです。
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