その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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16話

「止まれ、雛森。誰に刀を向けてるのか分かってるのか!!」

「どいてシロちゃん!!どいてよ!」

 

雛森と日番谷の間で激しいつばぜり合いが行われる。

日番谷の実力なら雛森を無力化する事など雑作もないことなのだが日番谷に雛森を傷つけることは出来なかった。

そんな日番谷を葛藤から解放してくれたのは今しがたまで日番谷が庇っていた人物であった。

 

いつの間にか雛森の背後に回っていた藍染は手刀で雛森の意識を失わせる。

日番谷は支えを失った雛森の体を慌てて抱きとめた。

 

「済まなかった。日番谷隊長。」

「いや、大丈夫だ。」

 

日番谷は警戒心を露わにして藍染を睨んでいる。

藍染は自分が何故睨まれているのか分からないのか少し動揺した様子である。

 

「いつ、雛森の背後に回ったんだ?」

「何を言ってるんだい、日番谷隊長?僕は今さっきここに着いたんだけど。」

 

日番谷は言葉の意味が分からず混乱する。

そして何日か前に聞いた市丸の言葉を思い出した。

 

「……っまさか!?」

「君が僕だと思っていたものはどうやら僕じゃなかったみたいだね。」

 

藍染は険しい顔になる。

そして日番谷に背を向けるとどこかへ向かって歩き出した。

 

「待ってくれ。俺も行く。」

「駄目だ。君は雛森君を守ってくれ。今日の事を知ってしまった彼女もいずれ滝玄太郎に襲われることになると思う。」

「だが……」

 

腕の中で眠る大事な幼馴染を見つめ、葛藤に苦しむ若者に藍染は優しく諭す。

 

「君はまだ若い。これからの瀞霊廷を背負って立つべき死神だ。死神とは常に死と隣り合わせの存在だ。いずれ必ず君も命を賭ける時が来る。その時には君もこうして後世に伝えて欲しい。死神の意志を。」

 

藍染はそう言うと決意のこもった目でその場から姿を消した。

日番谷は何とも言えない不安に駆られた。

これが今生の別れなのかと思ってしまうほどの藍染の言葉を日番谷は胸に刻む。

次世代の死神を背負って立つ存在として決意を新たに日番谷は雛森を背負って歩き出した。

 

 

ーーー

旅禍の襲撃から一夜が明けて瀞霊廷には大混乱に陥った。

温厚な性格で人間性も優れており、隊士からの信頼も厚かった五番隊隊長の藍染惣右介が死体で発見されたのである。

ーーー

 

 

ーーー 翌日 瀞霊廷 藍染死体現場 ーーー

 

 

「イヤァァァァ!!」

 

藍染の死体の周りには騒ぎを聞きつけてやってきた多くの隊長格たちが揃っていた。

そして彼らに遅れること数分、四番隊の救護施設から抜け出した雛森が現場に姿を現した。

混乱する死体現場に雛森の悲鳴が響き渡る。

 

実際には雛森は前夜に玄太郎に斬られた藍染の死体を見ているのだが信じられなかった、信じたくなかった雛森はその事実を意識的に無視していた。

しかし雛森の現実逃避はいとも簡単に失敗に終わった。

長年近くで藍染を見てきた雛森は目の前を死体を見れば見るほどそれが藍染であることを確信できてしまった。

雛森の精神はもやはこの負荷に耐えることが出来なかった。

悲鳴とともに雛森の自我が崩壊する。

ついには視界に映った唯一の幼馴染に殺意向けてしまう。

 

「シロちゃん……昨日庇ってたよね……?」

 

光彩の消えた目で射抜かれた日番谷は驚きで目を大きく見開いた。

雛森は斬魄刀を抜くと己の斬魄刀の解放した。

 

突如膨れ上がった霊圧に現場の空気が一瞬で張り詰める。

 

「待て、雛森。こんなところで斬魄刀を解放するな!!」

「うるさい!シロちゃんも敵なんでしょ!!」

 

雛森の斬魄刀から炎が発せられる。

 

「ちっ。」

 

日番谷は軽く舌打ちするとその攻撃を避けて雛森を取り押さえようとする。

このまま雛森を放っておけば確実に懲罰を受けることになる。

その前に何としても雛森を落ち着かせなければならない。

 

日番谷が雛森を止める方法を模索していると突如雛森の背後に人影が生まれた。

雛森はその人影の手刀によって意識を失わされた。

 

「私情で副隊長のあるべき姿を見失うとは何とも情けないな。」

 

見下したような冷酷な目で雛森を見ているのは二番隊隊長『砕蜂』であった。

砕蜂は雛森をその場にいた吉良と松本に投げ渡す。

 

「未だ旅禍は一人も捕まえられていないのだぞ。隊長格達がこんな所で油を売っていて良い訳がないと思うのだが?」

 

砕蜂の介入によって騒動はいち段落して死体の撤収作業が始まると思われていたが新たな介入者により現場は再び混沌とすることになる。

 

「ちょっといいか?」

 

音もなくその場に現れた新たな死神の姿を見て砕蜂は苦々しくその名前を口にした。

 

「滝……玄太郎。」

 

玄太郎は再び張り詰めた空気の中でただ一人いつものように軽い調子で自分の用件を話し始める。

 

「そこのチビ隊長、聞きたいことがある。……なぜ昨日、俺を助けた?」

 

藍染の斬魄刀の能力を知らない玄太郎からしてみればそれは非常に気になり、そして重要な情報であった。

しかし市丸から玄太郎の斬魄刀について嘘の情報を聞かされている日番谷からしてみればその質問は自分を馬鹿にされているようにしか聞こえなかった。

 

「……黙れ。

ーーー蒼天に座せ『氷輪丸』」

 

周囲の空気が急激に低下していることが体感でわかる。

始解で環境に影響を与える斬魄刀。これが最年少で隊長にまで上り詰めた天才の持つ氷輪丸だ。

しかしそれに対峙する死神もかつては最強と言われて多くの死神から信頼され恐れられていた化け物である。

至近距離で解放された斬魄刀を前にしていつものように自信満々の笑みを浮かべると霊圧を炎の形で放った。

 

炎となった霊圧は氷輪丸と激突し急激に冷やされ水滴という形に姿を変えた。

一連の戦いを見てその場に居合わせた隊長格達は皆舌を巻いた。

 

「あれが日番谷隊長の氷輪丸。噂には聞いてたけど噂以上の威力だ。」

「それとあの滝三席の蒼火墜、ただの詠唱破棄じゃなかったわよね?」

「おそらく蒼火墜なんだろうけどあの威力は三十番台の鬼道のものじゃないよ。」

 

日番谷と玄太郎は最初の斬り合いを終えてお互いに次の一手を模索している。

 

隊長格に匹敵する実力者と隊長の戦いなどこんな瀞霊廷の中心でやって良い筈がなく本来は止めなければならないのだが副隊長クラスの者が止めに入っても自分が深手を負うだけなのが目に見えているため誰も介入出来なかった。

この場で唯一この戦いに介入できる存在である砕蜂はその綺麗な瞳に烈火の如き激しい憎しみを携えて玄太郎の背後に一瞬で移動した。

 

百年前に隠密機動を束ねていた瞬神『四鳳院夜一』の後を継いだ砕蜂の瞬歩は当代随一である。

玄太郎と言えどもその速度に反応することは出来ない。

砕蜂の斬魄刀の始解『雀蜂』が玄太郎の背中を突いた。

玄太郎の体に大きな蜂紋華が刻まれる。

これは死の宣告であり、再びこの位置に雀蜂が突かれると玄太郎は死ぬことになる。

これこそが砕蜂の斬魄刀の能力、『弐撃決殺』である。

 

振り返った玄太郎に対して憎しみを隠そうともしない砕蜂は一気に決着を付けようと次の攻撃を開始した。

砕蜂が徐々にその数を増やしていく。

これは瞬歩の応用のようなものであり、高速移動することで残像を大量に残す高等技術である。

 

「夜一様の仇だ!!」

 

無数の砕蜂が一気に玄太郎に襲いかかる、それに合わせて黙って戦況を見ていた日番谷も氷輪丸で玄太郎に攻撃する。

背後からは氷の龍が、前方からは無数の暗殺者が、360度敵に囲まれた玄太郎はそれでも自陣満々な笑みを崩さずに己の斬魄刀を解放した。

 

「威を示せ『音姫』」

 

地面に強く振り下ろし、音姫から大きく低い音が響き渡る。

その音は凶悪な刃となり、砕蜂たちに襲いかかる。

無数の砕蜂の分身たちは同時に切り刻まれて姿を消して、傷だらけの砕蜂だけが転がっていた。

氷の龍も全身にひび割れが走り消失した。

 

圧倒的な強さを前に吉良と乱菊は言葉を失った。

隊長格二人を何の苦もなくあしらう三席など存在していいのか。

乱菊と吉良は自分たちの知っていた世界が何と小さく狭い物だったのかを痛感させられた。

 

 

再び事態が収束に向かおうとしていた時に三度、介入者が現れる。

 

「助けたろか?」




尸魂界編は視点が多いので書いてる自分が混乱してきました(笑)
皆さんは混乱していないことを願います。
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