「助けたろか?」
その男は飄々とした態度でゆっくり日番谷の前に立つと脇差しと見間違えるほど短い斬魄刀を抜き切っ先を玄太郎に向けた。
「射殺せ『神槍』」
そして何の前触れもなく斬魄刀を解放した。
市丸の切っ先が玄太郎の心臓を射抜こうと突進してくる。
しかしこの程度の不意打ちでは玄太郎に致命傷を与えることは出来なかった。
横に飛び去り迫り来る刀を避ける、その右腕の死覇装はわずかに切り離されていた。
しかし身体までは届いていなかったのかそこから赤い染みが生まれることは無かった。
市丸はその事実を確認してにゅーっと狐のように目を細めた、まるで全てが予定通りだと言わんばかりに。
玄太郎の正面に再び砕蜂が現れる。
砕蜂の手には暗殺に特化した雀蜂ではなく、砕蜂の片手だけでは全く収まらない巨大な砲台があった。
「この卍解は暗殺にしては派手すぎる。故に二度と使うことはないだろう、ここでお前を殺したらな。」
雀蜂雷公鞭から放たれた一発の銃弾が玄太郎を襲う。
そのミサイルの威力は正に一撃必殺にふさわしい凶悪なものである。
「……っ!?」
玄太郎は霊圧を練り対抗策を練ろうとしていたが突如その動きを止める。
玄太郎は目の前の強大な霊圧の核弾頭を前にしても至って冷静だ。
回避しようと霊圧を上げた瞬間に異変を感じて動きを止めた。
自分の体が内側から何者かによって侵食されているのだ、初めて感じる体内を蹂躙される感覚に悪寒を覚える。
玄太郎の意識は激しい爆発音と目を焼かれるほどの閃光と共に消え去った。
激しい爆発音をともないあたり一帯が噴煙に包まれた。
噴煙が晴れると大きく窪んだ地形の中心には玄太郎の姿はない。
その場に居合わせた者たちには玄太郎が逃げ延びたのかそれとも死体もろとも消え去ったのか判断がつかなかった。
瀞霊廷内部で複数の隊長格が戦闘をすれば護廷十三隊の誰もが気付くのは当たり前だ。
やがて、総隊長によって派遣された隊士の一団が到着した。
「ハハッ。ハハハハ。やりました、やりましたよ、夜一様……。」
肩で息をしながら狂気じみた笑い声をあげる砕蜂を前にして隊士たちは皆恐怖を感じて身動きが取れなくなる。
「な、なにボケッとしとるんじゃ。はよう動かんかい。」
射場も目の前で起こった隊長格たちによる異次元の戦いを見て震えている自分を鼓舞するように隊士達に激を飛ばす。
射場は改めて自分という死神がとてつもなく弱い存在であることを痛感した。
「いやぁ。随分と派手に壊してくれたねぇ。補修工事が大変そうだ。」
微妙な緊張感の漂う現場の中でその男は散歩中の独り言のようにそんな事を言いながら現れた。
「京楽か。総隊長に言われて私を拘束しに来たのか?」
「そうだよ。瀞霊廷内での無断での卍解使用。しかもその目的が旅禍を倒すためじゃなく、護廷十三隊の隊士を殺すためだなんて、もう山爺はカンカンだよ。……できればすんなりとお縄についてくれると嬉しいんだけどな。」
京楽はいつものように軽い口調で話しているが笠から覗かせる瞳からは有無を言わさない圧がある。
「安心しろ。目的は達した。しかるべき罰は受けよう。」
この事件の後、砕蜂は十八日間の禁固刑が言い渡された。
「スゲーな、花太郎。」
「い、いえ……それほどでも。」
阿散井恋次との戦いで深手を負った一護は地下水道で花太郎の治療を受けていた。
すっかり完治した体をあれこれと動かして感覚を確かめていた一護は外敵の存在を感じ取って身の丈ほどもある斬魄刀に手をかけた。
一護の変化を見てまた敵が来たという事を感じた花太郎は邪魔にならないように一護の背後に隠れる。
遠くで様子を伺っていた岩鷲も敵の存在に気付き奇襲をかけるために息を潜める。
無防備に足音を響かせながらやって来た男の姿を見て最初に声を上げたのは奇襲をかけようとしていた岩鷲ではなく、花太郎だった。
「た、滝三席!?」
玄太郎の着ている死覇装はボロボロに破れており本人も体中が傷だらけで立っているのが奇跡という状態だった。
「お、お前は確か……山田はなたれ小僧か。」
「山田花太郎です!!」
花太郎は文句を言いながらも玄太郎に近づいて優しく寝かせると回道で応急処置を始めた。
その様子を見ていた岩鷲が慌てて花太郎を止めに行く。
「おい!お前なんで敵を治療してんだよ。回復されたら厄介だろ。」
「え、でも……このままじゃこの人死んじゃいますよ。」
岩鷲を手で制して一護が玄太郎と花太郎に近づいた。
「頼む、助けてやってくれ。」
「……はいっ!!」
一護の言葉を聞いて岩鷲はなんと甘いやつなのかと呆れたがそういう所が一護らしいのだと思い何も言わずに見回りに戻った。
✴︎
「よっ!目覚めたか?」
花太郎の治療が終わり、数時間がたち玄太郎は意識を取り戻した。
玄太郎は虚ろな目で周りを見ると一護の姿を確認して自信満々の笑みになる。
「あの緑の奴の言う通りだぞ。なんで俺を助けた。」
「理由なんかねーよ。ただ、目の前で死なれるのは何となく気分悪いだろ。」
明後日の方向を向いて不器用に答える一護は明らかに照れ隠しであることがわかった。
「お前、旅禍だろ?」
「そうだけど。」
「浦原喜助と四鳳院夜一を知らないか?」
玄太郎の言葉を聞き一護は眉を顰めた。
なぜ浦原喜助のことを知っているのか。斑目一角もそうだったが浦原喜助は尸魂界でそこまで有名なのか。
有名ならばなぜあの人は現世にいるのか。
様々な疑問が一護の頭の中を巡った。
「知らないのか?」
玄太郎の言葉で我に戻った一護は返答する。
「確かに俺たちは浦原さんに助けてもらって尸魂界に来た。だが、夜一という人は知らない。」
「なに……!?」
玄太郎は身を乗り出して一護に詰め寄った。
まだ傷が塞がっていないと制止しようとする花太郎を振り払う。
「夜一は現世にいるんじゃないのか?」
「だから知らねぇって言ってんだろ。」
玄太郎は今度は動きを止めてブツブツと一人で考え事を始めた。
目まぐるしく変化する玄太郎に完全に置いてけぼりとなった一護と花太郎はどうすることも出来ずにただ玄太郎が戻ってくるのを待つばかりだった。
「だからその……夜一様は百年前に亡くなったんですって!」
花太郎は意を決したように大声で玄太郎に告げた。
しかし玄太郎はその言葉を意図的に無視しているのか単純に聞こえていないのか一切反応を示さない。
「あいつは生きてる。何故なら俺と夜一は運命で結ばれているからな。」
やがていつもの調子に戻った玄太郎は自信満々の笑みを浮かべた。
「世話になった山田はみだし太郎。」
「ちょっと待ってください。まだ傷が治りきって……そんなっ!?」
花太郎は今さっき塞いだ玄太郎の傷が既に癒えていることに気付いて驚愕した。
玄太郎が動き出したのを確認すると黒崎も立ち上がった。
二人とも瀕死の重傷を負っていたとは思えないほど元気に動いている。
花太郎は目の前の二人の常人とは思えないほどの回復力に恐怖を感じた。
「あんた、護廷十三隊の隊士なんだろ、俺たちを捕まえなくていいのか?」
「馬鹿な事を聞くな。お前らと鬼ごとをしてるほど俺は暇じゃない。夜一と一刻も早く会わなければならない。それに……一番隊三席としての仕事もしなきゃいけないしな。」
そう言うと玄太郎は姿を消した。
「なんか変な奴だったな。」
岩鷲はその場に取り残された三人の感想を端的に代弁した。
原作主人公と初邂逅を果たしましたけど、この先あと何回この2人は絡めるのだろうか……?