その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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2話

ーーー 一番隊隊舎前 ーーー

 

一番隊隊舎に入るものを威圧するかの如く高くそびえ立つ門の前で浦原は頭をかいて立ちすくんでいた。

 

「本当に入っていいんスよね?」

「ああ、いいぞ。お前はもう隊長なんだ、何の問題もない。」

「そうは言っても……アハハハ。」

 

情けななく笑う浦原を見て隣にいる男は面倒臭そうにため息をつく。

その男はつい先日まで浦原の着ている白羽織を着ていた女性を思い出して恨めしそうに浦原をにらんだ。

 

「なんで曳舟ちゃんの次の隊長が女じゃなくて男なんだ。」

「そんなことボクに言われても仕方ないっスよ。文句言うなら総隊長サンに言ったらいいじゃないスカ、玄太郎サンならいつでも会えるでしょ?」

 

頭をかいてヘラヘラと笑う浦原の姿を見て玄太郎と呼ばれた男はこいつが隊長で本当に大丈夫かと心配になる。

今まで仕事上、全ての隊長を新任の儀の部屋へ連れてきた玄太郎だがここまで緊張感のない奴は始めてであった。

 

「ほらとっとと入った。もう他の隊長は夜一ちゃん以外みんな来てるんだ。急いだ急いだ。」

 

浦原の背中を押して無理矢理隊舎の中へと入らせる。

隊長羽織を着た男が、死覇装を着た男に怒られている。

明らかに立場が逆転しているのだが、これを無礼だと諌める人は一番隊にはいない。

浦原自身も立場など大して気にしない性格であるため特に怒ることもなく会話を続けていた。

 

「夜一ちゃんって……。あの人にそんな呼び方できるの玄太郎サンくらいっスよ。」

「そうだろうな。あいつと俺は運命で結ばれた仲だからな。」

 

そう言って自信満々に笑う玄太郎を見て、浦原はやはりこの人は只者ではないと心の中で思った。

 

 

永遠に続いているのではないかと思われるほど長い廊下を二人で歩いているとようやく目的の部屋に辿り着いた。

 

 

「そこを右に曲がってすぐの大部屋が隊首会の部屋だ。わかったらとっとと行った。」

 

浦原は背中を強めに押されてよろけながら進んで行く。

そして観念したのかゆっくりと、少しずつ歩き出した。

その姿を確認して玄太郎は自室、一番隊三席の席官室へ戻ろうとする。

浦原は曲がり角に到達すると突然その場に立ち止まり振り返って玄太郎に話しかけた。

 

「もうボクの実力はわかったんスカ?」

 

玄太郎も立ち止まり振り返って浦原に向き直る。

浦原の目はさっきまでの人の良さそうな優しいものではなくなっていた。

恐ろしいほどに感情の消えた瞳で真っ直ぐに玄太郎の姿を捉えている。

玄太郎は彼の評価を改めることにした。

浦原喜助はフラフラした頼りない死神などではない、決して底を見せない要注意人物であると。

 

「ああ、そうだ。出来れば何の問題も起こさないでくれよ。お前は敵に回すと厄介そうだ。」

「大変っスね。一番隊三席サンの仕事も。」

「そうだな。俺みたいな尸魂界始まって以来の天才じゃないと務まらないと仕事だろうな。」

 

険しい表情からまた自信満々の笑みに変化した玄太郎の顔が急にへこむ。

玄太郎はうめき声をあげながらうずくまった。

浦原は何が起こったのか分からず玄太郎に駆け寄る。

すると浦原の背後によく知る霊圧が一つ現れた。

 

「おう、喜助!なんじゃか天才という言葉が聞こえた気がしたのじゃが気のせいかの。」

「多分今、夜一サンが蹴りました。」

「はて、何を蹴ってしまったのじゃろう。」

 

夜一はとぼけて倒れている玄太郎を何度も何度も踏み潰す。

踏み潰される度に玄太郎の悲鳴が聞こえる。

最初は大きな悲鳴だったが徐々にその声は小さく弱々しくなっていく。

この苦しみを知っている浦原はさすがに玄太郎が可愛そうになり救出する。

玄太郎は鼻をさすりながらヨロヨロと立ち上がった。

 

「やあやあ夜一ちゃん。今日もいつも通り可愛いな。勢い余って俺にぶつかってしまうくらい俺に会いたかったのか。なんとも可愛いな!大丈夫だ俺はどこにも行かない。さぁ俺の胸に飛び込んできな……いダダダ!?」

 

玄太郎はまくし立てるように言葉を発しながら夜一に飛びついたが夜一は玄太郎の鳩尾めがけて蹴りをいれる。

玄太郎はうめき声をあげながら再びその場にうずくまった。

 

「そ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんだ……ぞ。」

「行くぞ喜助。」

 

夜一は玄太郎を無視して呆然と立ち尽くしている喜助を引っ張りながら隊首会の部屋へ向かって行った。

 

「大丈夫なんスか?玄太郎サン。」

「ダメじゃろうな。あのバカはどうやったって治らん。」

 

玄太郎は他の一番隊隊士たちに抱きかかえられながら自室に戻って行った。

抱きかかえていた隊士たちが特に慌てていないのを見るとこれが日常なのだとわかり、浦原は改めて玄太郎を只者ではないと思った。

 

 

ーーー 八番隊隊舎 ーーー

 

 

浦原喜助が十二番隊隊長に就任した翌日、滝玄太郎は彼の表の仕事『定例報告』を聞きに八番隊隊舎にいた。

定例報告とは月に一回行われる、護廷十三隊各隊の一ヶ月の動きを確認する滝玄太郎の主な仕事のことである。

 

「今日は呑んで行かないのかい?」

「呑みたいのは山々なんだが今日中にあともう一つ済ませないと、元さんに怒られるんだ。」

「おーそれは怖いね。じゃあ仕方ない、リサちゃん付き合ってくれない?」

 

京楽は空中に爪を突き立て軽く払った。

すると、京楽の爪によって空間が引き裂かれてその中から赤縁の眼鏡を掛けた女性が姿を現した。

 

 

「却下や!男が呑みに誘う時は大概その後にすることが目的やろ!」

 

自分の盗聴がバレた八番隊副隊長『矢胴丸リサ』は反省した様子など一切なくそれどころかは謎の理論で京楽に食ってかかった。

 

「あのね、リサちゃん。いつも言ってるけど隊首会とか、定例報告を覗くのはいけないことなんだからね。」

「好奇心旺盛なんや。エエやろ。」

「はぁ……」

 

京楽とリサのやり取りを無言で見ていた玄太郎は肩を落とす京楽の横を通りリサに近づく。

そしていつものように自信満々の笑みを浮かべてリサを口説こうとする。

 

「俺はいいと思うぞ。むっつりスケベな女。そうだな、そんなに気になるなら俺と呑むといい。何から何まで教えてるぞ。さぁ行こう!」

「お前ははよ他の隊に行けや!」

「釣れないなぁ。だがツンツンした女も悪くない。むしろそういうところがいい。気が向いたら俺の部屋に来るといい。何から何まで教えてやるぞ!」

 

玄太郎はそう言うと瞬歩を使い二人からの目の前から消えた。

 

「あんなんが、死神統括官ってホンマに護廷十三隊は大丈夫なんか?」

「そんなに悪く言っちゃダメだよ。ああ見えても山爺の次に古参なんだ。そしてボクの……偉大な先生だからね。」

「確かに抜かりない奴やとは思う。ただアイツが死神の規範ではないやろ。」

「そうだねぇ……リサちゃんは一つ大きな勘違いをしているね。」

「?」

 

京楽はリサに一番隊三席『滝玄太郎』の話をする。

護廷十三隊が結成されてから一度も就任している人が変わっていない地位が三つだけある。

一つは総隊長。山本元柳斎重國は当代最高の死神としてこれまで、そしてこれからも君臨し続けるだろう。

2つ目は一番隊副隊長。雀部長次郎は卍解を習得していながら他の隊の隊長に就任することなく生涯山本元柳斎重國に仕えることを宣言している。

そして三つ目が一番隊三席である。滝玄太郎も三席でありながら卍解を習得している。彼の仕事は表向きは死神統括官。死神として取るべき行動、持つべき思想を提示し違反しているものを探し出して間違いを正す。これが表向きの彼の仕事である。

 

「表向き……?」

 

ここまで聞いてリサは京楽の言い回し違和感を覚える。

 

「そうだよ。さすがリサちゃん、理解が早いね。死神統括官は彼の表向きの仕事。彼の本当の仕事はね……」

 

まだ夜でもないのに急に辺りの気温が下がったように感じる。

京楽の淡々とした語り口にリサは得体の知れない恐怖を感じた。

 

「な、なんやねん……」

「隊長格の死神の監視及び、裏切り者の処刑だよ。」

 

京楽は目を細めて昔話を懐かしむように語り出した。

 

「最近は護廷十三隊も大分落ち着いたから、隊長が変わる理由は専ら引退が多いよね。でもリサちゃんが死神になるちょっと前までは護廷十三隊は隊とは名ばかりの戦闘狂集団でね。反乱を起こす隊長も少なくなかったんだよね。でも護廷十三隊は発足以来ずっと山爺が取り仕切っている。……この意味がわかるよね?」

 

リサは先程、自分を口説いてきた男の自信に満ち溢れた笑顔を思い出す。

さっきまではその笑顔がただのナルシストのものだと思っていたが、今はその笑顔を思い出すだけで身震いが止まらなかった。

 

 

ーーー 九番隊隊舎 ーーー

 

 

八番隊を後にした玄太郎は次の定例報告を聞きに九番隊へ向かった。

 

「一番隊の滝だ。拳西君いる?」

 

玄太郎の声が聞こえると九番隊隊士たちは皆、顔を真っ青にして自分たちのしていた仕事を放り出して部屋の中に入って行ってしまった。

九番隊隊舎が静寂に包まれる。しかしその静寂はすぐに破られることになった。

ドタドタと激しく噴煙を撒き散らしながら一人の女の子が玄太郎に向かって走ってきた。

 

「ヤッホー、玄ちゃん。お菓子ちょーだい!」

「お!今日も相変わらず元気だな。ほら、雀部の部屋から盗んできたチョコレートとかいうお菓子だ。」

 

九番隊副隊長『久南白』は、文字通り怒涛の勢いで隊舎内を走って玄太郎を出迎えた。

玄太郎から貰ったチョコレートを白は目を輝かせながら口の中に放り込むと言葉にならない奇声を発してその場を転がり回った。

 

「おいしい〜。いつもありがとう!玄ちゃん大好き!」

「俺もお前のようないつまでも子供の心を忘れない無邪気な女は好きだぞ!」

 

白の言う『好き』と玄太郎の言う『好き』は全く意味が違うのだが当の本人達は全く気付いていない。

 

「こら、白。危ないから隊舎内は全力疾走するなっていつも言ってるだろ!」

 

白に拳骨を食らわしながら九番隊隊長『六車拳西』が姿を現した。

 

「おいおい、拳西。女の子に手をあげるのはよくないぞ。女の子には優しくしなきゃ。」

「そうだそうだー!拳西のバーカバーカ。」

 

白はいつの間にか玄太郎の背後に隠れて顔だけ出して拳西に抗議している。

 

「滝さんはあんまり白を甘やかさないで下さい。こいつすぐ調子乗るんで。」

「女の子は少し生意気なくらいが可愛いんだ。」

「ホント昔から滝さんのそういうとこ変わらないっすね。おら白、お前はどっか行ってろ。」

 

拳西はがっくりと脱力しながら、玄太郎をを自室に招いた。

拳西の後をついて歩く玄太郎の後ろ姿を一言も発さず静かに見つめる一人の死神がいた。

 

「お前では秩序を保つことはできない。」

 

彼は誰にも聞こえないほど小さな声でぼそりと呟いた。




今回はオリ主の設定や立ち位置の紹介でした。

一応まとめておきます。

滝玄太郎
役職:一番隊三席
趣味:不明
始解:不明
卍解:不明
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