その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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20話

ーーー 双極の丘 ーーー

 

 

尸魂界の各地では護廷十三隊の下級隊士たちが二つの群れに分かれて闘っていた。

同じ釜の飯を食い幾多の修羅場を共にしてきた戦友が敵同士となり斬り合っている。その場にいた全ての隊士がどうしてこうなってしまったのかと嘆き混乱していた。

 

「なんとも趣味の悪い卍解じゃな。」

「そんな褒めんとってや。こいつから名前聞き出すんごっつ大変やってんで。」

 

平子はグルグルと自分の斬魄刀を回しながら双極の丘へと目をやる。

双極の丘では朽木白哉と黒崎一護が死闘を演じていた。

結局卍解は間に合わなかったが、最悪一護には奥の手がある。

勝算はしっかりと立っている。

 

「ルキアちゃんも確保できたしもう安心や。」

 

精神的に相当消耗しているのだろう、平子に支えられているルキアはぐったりとしていてピクリとも動かない。

 

「後は茶渡君と平子さんの友達を助けるだけだね!」

「こんなデタラメな能力……本当にインチキだな。」

 

井上と石田も重症から回復している。しかし、石田にもう滅却師の力は無く、織姫も戦力としては計算できない。平子は独力で残りの仲間たちを探し出さなければならない。そして百年前の部下への挨拶という特大の用事が残っている。

 

「そろそろ行かんでええんか?」

 

昔からよく知る規格外な霊圧を感じて平子は夜一に問う。

 

「あれは四十六室の方かの。」

 

夜一は猫の姿で器用にオレンジ色の服を口に咥えて霊圧のある方に真っ黒な瞳を向けていた。

 

「その服はなんや?」

「あやつに会う時に、はしたない姿は見せられんからな。」

 

どうやら人の姿に戻った時に着る服のようだ。そんな面倒くさいことをするくらいなら最初から人の姿で行けばよいのではないかと思うがどうせまた長い惚気が始まると思い口をつぐむ。

 

「モフモフだぁ〜。やっぱり我慢できない、触ってもいいですか。触ります!!」

「こら触るな。毛並みが乱れるじゃろ!」

 

織姫が夜一を追いかける。石田も何度も後ろからさりげなく触ろうとして夜一に注意されている。

全くこんな状況でも緊張感の無い奴らである。しかしこういう雰囲気が平子は妙に心地よかった。

 

「ほな、四十六室には後から行くわ。平子親衛隊の出陣や!」

 

平子は数百人の面識のない仲間を引き連れて双極の丘から瀞霊廷へ続く道を塞ぐ下級隊士の軍団へと突っ込んで行った。

「儂も行く。お主らはここでルキアを守っておるのじゃぞ。」

 

夜一も四十六室へと向かおうとしたその瞬間だった。

先程まで肌がひりつくほど強大だった大きな霊圧が突如不安的に揺らぐ。

 

「まさかっ!?」

 

焦りと恐怖が入り混じった感情に体が支配される。いても立ってもいられない夜一は全速力で四十六室へと駆け出した。

 

 

ーーー 中央四十六室 ーーー

 

 

「何とも趣味の悪い筋書きだな。映画としては零点(ゼロテン)だ。」

 

怯えと驚きの混ざった複雑な感情に押しつぶされて今にも倒れそうな雛森桃。藍染に致命傷をを喰らい虫の息になりながらも憎しみのこもった目で真っ直ぐに藍染を睨みつける日番谷冬獅郎。

 

二人の若き隊長格を守るように護廷十三隊の古株が前に立つ。

卯ノ花に日番谷の治療を任せて玄太郎は藍染と対峙する。

 

「随分と遅いご到着だったじゃないか?」

「お前の蒔いた種のせいで俺はすっかり極悪人扱いだ。お陰で自由に動けなかった。」

「それは何よりだ。」

「だがどうやら間に合ったみたいだ。お前が思っている以上に死神たちは己の矜持を信じる生き物らしい。」

「矜持か……。素晴らしい。」

 

藍染はそう言うと人を見下したような笑い声をあげる。

 

「そんな価値のないものにすがれるというのは素晴らしいことだ。いかにも矮小な存在のすることだ。」

「その矮小な生き物に負ける気分はどうだ?」

「負ける?言った筈だ。百年もあれば貴方を抜けると。」

「ほう、なら試してみるといい、俺を超えれたかどうか!!」

 

玄太郎が踏み込む。

割り込んできたギンとの斬り合いになる。刀が『音姫』から放たれる金属音が市丸の体を傷つけて行く。

斬り合いながら玄太郎は違和感を感じる。

 

こいつ本気じゃないーーー

 

とんだ茶番をやらされている気分だ。斬ろうが斬ろうがギンはそれをギリギリのところで受け止める。

斬撃の速度を上げようが下げようが綺麗にギリギリのところでそれを受け止める。

まるで劣勢を演じているようだ。

 

「何のつもりだ?」

「はて、何のことやら。」

 

ギンは貼り付けたような笑みを浮かべて軽々と玄太郎の斬撃を受け続ける。

強引に斬り捨ててもいいがギンの態度が妙に引っかかる。

玄太郎は『音姫』を握り直して攻め手をかえる。

力一杯振り下ろした一太刀は一際甲高い音を放つ。

その音の刃はギンを傷つけることなくその後ろで悠々と戦況を見届けていた藍染の右腕を切り裂いた。

 

「音姫遊郭。感謝しろお前だけに届く特別な音楽だ。」

 

激しく出血した右腕を見ながら藍染はピクリとも表情を変えない。

すぐさまにでも追撃を入れたいが体が言うことを聞かない。

砕蜂と戦った時から力を使うたびに体の内側から自分が何者かに喰らい尽くされる感覚に陥る。

最初は大したことはないと無視していた玄太郎だが、その感覚は加速度的に大きくなりさすがの玄太郎でも無視できないほどになっている。

「百年も寝てたから体がなまったのか?」

 

玄太郎は唇を噛んで自分を鼓舞すると再び、ギンに斬り込む。

その次の音で藍染の息の根を止める。止めるしかない。

しかし玄太郎の目論見は三人目の乱入者によって外されてしまった。

 

「まだ生きていたとはな。」

 

玄太郎は目を大きく見開く。白の隊長羽織、その背中には二の文字が刻まれている。

二番隊隊長『砕蜂』は憎しみに身を焦がしながら真っ直ぐに玄太郎を見据えていた。

 

「どけろ。ここはお前が来るところではない。」

 

玄太郎の呼びかけに砕蜂ではなく藍染が答える。

 

「何を言ってるのですか。彼女は立派な主役ですよ。今回の事件のね。」

「なん……だと!?」

 

玄太郎は最悪の事態を考えて音姫を持つ手に力がこもる。

砕蜂は虹彩の消えた瞳で真っ直ぐに玄太郎を見据える。

 

「私はお前を殺す。例え悪魔に魂を売ろうとな。」

 

例え自分に憎しみを持とうと尸魂界を守りたいという信念だけは同じであるとそう信じていた。

「誰を守っているのか分かっているのか!?藍染は反逆者なんだぞ!」

 

これは砕蜂の作戦だ。こうして藍染を欺いて機を見て暗殺を目論んでいるのだ、そうに違いない。

 

「黙れ。貴様と話すことなどは何もない。夜一様のいないこんな世界私にとってはもはやどうでも良い。」

「砕蜂……。」

 

そう語る砕蜂はもう玄太郎の知る夜一に憧れて秩序を重んじる真面目な百年前の彼女では無くなっていた。

彼女をここまで追い込んでしまったのは全て自分の責任だ。

玄太郎は自責の念に駆られる。

自分中で感情が爆発するのと同時に玄太郎の体に異変が起こる。

 

「そろそろだろう。」

 

藍染は血だらけの腕を真っ直ぐに玄太郎へと突き立てた。

突如玄太郎の手から『音姫』が滑り落ちた。

藍染の顔が愉悦で歪み、ギンが目を伏せる。

一瞬の静寂の後、四十六室には獣の如き霊圧の咆哮がこだました。

治療に当たっていた卯ノ花も何事かと玄太郎を見て、静かに呟く。

 

「このままでは尸魂界が滅ぶ……!」

 

頭が思考するよりも先に反射的に体が動く。

卯ノ花は冬獅郎の治療を中断して斬魄刀を抜いて玄太郎に斬りかかった。

強大な霊圧と霊圧が激突して建物が激しく軋んだ。

この建物も長くは持たないだろう。

 

「砕蜂は要の所に行ってくれ。崩玉を回収する。」

「私に命令するな。」

 

宿敵の死神としての最期を見届けながら砕蜂は四十六室を出て行った。

復讐を遂げた彼女が胸の中で何を思っているのか知るものは誰もいない。

 

「こりゃ、凄い。僕らもはよ行きましょう。巻き添い食らったら大変や。」

「……」

 

ギンに呼びかけられた藍染は静かに興奮していた。

その理由は二つあった。一つは求め続けていた崩玉がついに手に入ること。そしてもう一つは最強の死神が虚になればどうなるのかという研究者としての百年越しの実験がついに身を結んだことへの興奮だった。

滝玄太郎という死神として既に規格外の能力を持つ男のリミットを外してやる。限界の無くなった彼がどこまで上り詰めるのか藍染はその終着点に敵としてではなく一研究者として興味を抱いていた。

 

「はよ行きましょ。援軍の到着みたいや。」

 

再びギンに促されてようやく藍染は名残惜しそうに双極の丘へと向かった。

己の目的の達成のために。




砕蜂闇堕ち&玄太郎虚化で尸魂界編も原作から大きく逸脱して来ましたね。

尸魂界編もついに残すところあと2話となりました。長い間お付き合い頂きありがとうございます。

話の都合上仕方無いのですけど、滝玄太郎の勝率があまりにも悪すぎますね。
なのでもしかしたら尸魂界編が終わったら破面編に入る前にサイドストーリーを一つ入れるかも知れないです。
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