玄太郎は虚化が解けてから1週間、死んだように眠った。
その間に自分の深層世界の中で起こった出来事を玄太郎は誰にも語らなかった。
正確には誰にも言えなかったのだがその事は本人しか知らないことだった。
長い眠りから覚めて今は夜一に眠っていた時に起きたことを聞いている。
五番隊隊長『藍染惣右介』、三番隊隊長『市丸ギン』、七番隊隊長『東仙要』、そして……二番隊隊長『砕蜂』が尸魂界に反旗を翻し、虚圏へ行ったこと。
それを受けて朽木ルキアの処刑が取り消されて、十三番隊への復隊が決定したこと。
また、一連の事件を受けて黒崎一護が死神代行として空座町を守る役割を得たこと。
「砕蜂が反逆者か……。」
玄太郎は悔しそうに唇を噛む。
夜一も目を伏せた。
「砕蜂を藍染たちの問題に関わらせたくなかったから敢えて距離を置いていたのじゃが、こんな結果になると思わなかった。」
「一人で抱え込むな。あいつをあそこまで追い込んだのは俺の所為でもある。俺たちで何としてでも連れ戻さなきゃならないな。」
「そうじゃな。説教してやらねばいかん。」
玄太郎と夜一の間に気まずい沈黙が流れる。
百年ぶりの再会は本来喜ばしい事だが状況が状況でありお互いに口が重くなっていた。
「ところで俺はまだ死神なのか?」
「そのことは後で喜助から聞くと良い。」
「そうか……。」
夜一の口ぶりから自分が純粋な死神では無くなってしまったことを悟る。
「元ちゃんから何か連絡はあった?」
「いや何もない。隊長を四人も失って護廷十三隊も大変なのじゃろう。」
「そうか……。」
「まぁ、今は俺の出る幕じゃないな。」
隊長が四人欠ける、護廷十三隊発足以降で1、2を争う緊急事態だが玄太郎はそれほど慌ててはいない。
護廷十三隊が発足してから山本元柳斎重國が総隊長を守り続けているのは、その規格外の武力に加えて、中央四十六室をはじめとする気難しい貴族との利害調整もそつなく政治力の両方が飛び抜けて高いからなのだ。
武力を支えていたのが滝玄太郎なら、政治を担当していたのは雀部だ。
昔はむさ苦しい隊士という印象だった雀部は一番隊副隊長に就任し、中央四十六室と話す機会が増えるようになり、服装を変えた。
本人曰く、貴族に舐められない為にはまず身なりから変えなければいけないらしい。
貴族然としたその見た目は当然、隊士たちから批判されることも多くあったが雀部は全く気にしていなかった。
『ノ字斎様の支えになれるなら周りの見聞などどうでもいい。』
何事に対しても適当な玄太郎とは正反対であるが故に衝突の絶えない二人だが、玄太郎は雀部に護廷十三隊の誰よりも信頼を置いていた。
その内落ち着けば、雀部から怒りの呼び出しが来るだろう。
呑気に考えていた玄太郎は体を起こして、改めて夜一を見つめた。
百年ぶりに見る夜一の顔は、髪が少し伸びていたが全く色褪せていない。
「また会えたな。」
「お主曰く、儂らは運命で結ばれておるのじゃろ?」
「その通りだ。ようやくお前も認めたようだな。……結婚するか?」
玄太郎らしい、唐突な求婚だった。しかし夜一は特段驚く様子もなく、極めて落ち着いて玄太郎の申し出を受け入れた。
驚くほどあっさりと結婚することになった二人だが、そんなことに全く違和感を感じていないようだ。
「さてと、いつまでも寝てたら体がなまってしまうな。」
玄太郎は布団から飛び起きてすぐさま部屋から飛び出す。夜一も慌てて玄太郎のあとをついて行った。
「元ちゃんからの連絡が来るまでは休暇という事にしておこう。せっかくだ、現世の街でデートと行こうじゃないか。どんな店が流行ってるんだ?確か百年前は帝国華撃団とかいうのが人気と聞いたことがあるぞ。」
「そんなものは今は無い。」
「そうなのか!?俺としたことが流行に乗り遅れるなんて……ならどこに行こう?」
「どこでも良い。」
『お主となら』
最後の言葉は夜一の心の中にしまわれたまま、発されることは無かった。
長かった尸魂界動乱編もついに終わりです。お付き合いありがとうございます。
個人的に尸魂界動乱編は反省点ばかりなので破面編では改善していきたいと思っています。
〜次章予告〜
再編された護廷十三隊
しかし死神でなくなった事実が玄太郎の中で罪悪感を呼び起こす
傷心の玄太郎に近づく破面の存在が玄太郎を変えた
次章『破面編〜薔薇と翁草〜』
この次も、サービスサービスゥ!