その音は月夜と共に   作:神光の宣告者

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3話

ーーー 二番隊隊舎 ーーー

 

 

一週間かかった今月の定例報告も何の問題もなく進んでいき残すところあと二番隊と十二番隊、五番隊だけとなった。

今日はどこから行こうかと考えていた玄太郎だったが、この三つの隊の中で玄太郎が最も気に入っている夜一がいる二番隊を真っ先に選んだ。

二番隊隊舎につくと門の前で小柄な女性が玄太郎を待っていた。

玄太郎は大げさに手を振ってその女性に挨拶をする。

彼女は玄太郎の姿を確認すると元々不機嫌そうだった顔をさらにしかめて、玄太郎を睨みつけている。

 

「これは珍しいこともあるもんだな。まさか砕蜂ちゃんが待っててくれるなんて。そうかお前もついに俺の魅力に気づいたか。嬉しいぞ。」

「ふん、くだらん。夜一様が任務から戻ってくるまでの間お前が何かしでかさないか監視しておくよう言われているのだ。さっさとついて来い。」

 

砕蜂はそう言うと玄太郎のことなど見向きもせずにそそくさと隊舎の中へと入ってしまう。

 

「相変わらずツンツンしているな。だがそれでいい。女とは一筋縄でいかないからこそ魅力的だ!」

 

玄太郎は自信満々に笑うと砕蜂の後をついて行った。

 

「貴様に言っておくが、私はもう始解を習得した。もし今後また夜一様にちょっかいを出せばこの雀蜂の最初の犠牲者になってもらうぞ。」

「おいおい、俺が夜一に夢中で構ってやれないからって嫉妬するなよ。……まぁ、愛憎入り乱れた関係というのも悪くないな。」

 

砕蜂は不機嫌そうにしながらもしっかりと客人である玄太郎にお茶を出してもてなしている。

玄太郎は満足そうにそのお茶を飲み、顔色を悪くして湯呑みを静かに置いた。

これ以降、玄太郎がそのお茶を飲む事はなかった。

 

「だいだい貴様はなぜ夜一様にそこまで付きまとうのだ?」

「どういう事だ?」

「貴様は尸魂界中の女を見境なく口説いている。その癖、口説いた女のことなどほとんど覚えていない。覚えていないという事はつまり最初から心などこもっていないという事だ。だが夜一様との間のことは決して忘れない。貴様は夜一様にだけは何か特別な感情を抱いている。」

「よく知ってるな?」

 

玄太郎はニヤリと意地の悪い笑みを砕蜂に向ける。

砕蜂は一瞬何を言われているのか分からず眉を寄せるが即座に顔を赤くして反論する。

玄太郎はそれを面白がりさらに弄る。

砕蜂がとうとう激怒し斬魄刀を取り出したところで玄太郎も平謝りをし事態は一応落ち着いた。

 

「そうやってまた誤魔化す……」

 

砕蜂は拗ねたように口を尖らせる。

玄太郎はその仕草を見て可愛いところもあると心の中で微笑んだ。

 

「そうだな、可愛かったご褒美に少し教えてやろう。」

「そうやってお前はまた!!」

 

声を荒げる砕蜂など全く眼中にないように玄太郎は目を細めて神妙な面持ちになる。

砕蜂もその場の空気を感じて大人しくなる。

 

「あいつの音楽は一番綺麗だ。四大貴族の当主という高い地位を持ちながらその地位に溺れずに自分を持つ強さ、何にも縛られない自由奔放さ、その全てが四鳳院夜一という死神を作り上げている。……貴族がみんな夜一みたいな奴ならもっと生きやすい世の中なのにな。」

 

そう話す玄太郎はいつもの軽い雰囲気とは違い何かを懐かしむような、悲しむようなそんな哀愁を漂わせていた。

 

 

✴︎

 

 

しばらくすると夜一が任務を終えて隊舎へと戻ってきた。

部屋に入り玄太郎の顔を見た瞬間に夜一は露骨に面倒臭そうな表情をする。

 

「会いたかったぞ夜一!……少し見ない間にまたさらに可愛くなったな。さすが俺の運命の女だ!さあ今すぐ俺の胸に……ッイダ!?」

「少し見ない間にまたバカが進行したのかの?」

 

いつもの如く玄太郎の鳩尾にキックを入れた夜一は疲れたようにドサっと座椅子に腰かけた。

 

「今日は任務で疲れておるのだ。さっさと用事を済ましてくれんかの。」

「塩対応もなかなかそそる物があるな。いいぞ!」

 

定例報告は何の問題もなく進んで行った。

面倒臭そうに副隊長が仕上げた報告書を、書類の山から取り出して無造作に玄太郎に渡す。

 

「ところでお主、一つ聞きたいことがあるんじゃが。」

 

夜一は咳払いをすると、彼女にしては珍しく一度かしこまり玄太郎に質問する。

玄太郎は夜一のそのわずかな変化を感じとったが、平静を装いつついつも通りに返事をする。

 

「なんだ夜一?お前の質問なら何でも答えてやろう。好きな女のタイプか?それとも俺の好きな料理?はたまた好きな酒の銘柄か?」

「……疲れていると言うたじゃろ。そんな下らぬ事ではない。護廷十三隊で尺八や笛をやっとる奴を知っとるかの?」

 

玄太郎は書類をめくる手を止めて夜一を見る。

 

「ただ演奏する奴ならいくらでもいるだろ。」

「ただ演奏できる奴ではない。恐ろしく上手な奴じゃ。そうじゃな、おそらく尸魂界で一番上手な奴じゃ。」

 

玄太郎は夜一を見つめると自信満々の笑みを浮かべて夜一に近づいていく。

 

「そうだな。ただ演奏できる奴ならいくらでもいるだが、真に演奏家と呼べる奴は一人しか知らない。」

「誰じゃ!?」

 

夜一は身を乗り出して玄太郎に問いかける。

玄太郎は夜一のそんな様子を見て一層笑顔になり夜一に人差し指をビシッと突き立てた。

 

「それは……俺だ!」

 

その瞬間、玄太郎の顔に夜一のキックがヒットする。

 

「それだけは有り得ぬ。」

「……いーやそれは俺だ。」

「なら演奏してみせろ。お主が本当に尸魂界で一番の演奏家か判断してやろう。」

 

玄太郎は鼻をさすりながらヨロヨロと立ち上がると、再び自信満々に笑う。

そして懐に手を伸ばしてゴソゴソと何かを取り出そうとする。

夜一は既視感のあるその仕草を見て、ゴクリと唾を飲む。

まさか本当に昨日の男がこいつなのか、このようなバカに自分は心を奪われていたのかと複雑な気持ちになる。

玄太郎は懐から手を出す。その手は何も持っていなかった。

 

「……いや、今はやめておこう。」

「は?……なんじゃやはり、はったりじゃったのではないか!全く緊張して損したわ!」

 

夜一はハハハハとわざとらしく笑った。

 

「今は弾くべき時ではないと思っただけだ。」

「なんじゃ言い訳か?お?見苦しいぞ!」

「というかそもそもなぜお前はそんな事を俺に聞いた。お前は音楽とは無縁の女だと思っていたんだが。」

 

夜一は昨日、双極の丘で出会った男の話を玄太郎にした。

話を聞き終わると玄太郎はニヤニヤと笑い夜一を見てくる。

 

「なんじゃ気持ち悪い。」

「その男に惚れているのか?」

「ばっ!?そ、そんな訳がないじゃろ!?」

「隠すな隠すな。恋する女は見ていて可愛い。そうだな、お前に一ついいことを教えてやろう。あと三回その男とお前が出会ったなら、その男はお前にとって運命の男だ。」

 

夜一は玄太郎の言っている意味がよく分からず眉をひそめる。

玄太郎はそんな夜一の様子を一切気にせず自分の世界に入って言葉を続ける。

 

「一度目偶然、二度奇跡、三度目必然、四運命だ。」

 

カッコいい台詞を決めて余韻に浸っている玄太郎を、夜一は冷めた目で見ている。

 

「お主……さらにバカが進行したか?」

「まぁ、そう言うな。頭の片隅にでも置いておけ。」

「ふん。バカバカしい。儂は今日、呑む約束をしておるのじゃ。用事が終わったら早く帰ってくれるかの。」

 

 

その言葉の通り、夜一とその男は今後三度会うことになるのだがそれはまだ少し先の話である。




しばらくは伏線も兼ねてこんな話が続きますがお付き合いください。

ところで「一度目偶然、二度奇跡、三度目必然、四運命だ。」はとあるキャラクターの台詞を貰ってきたのですが、この作品はこの台詞中心に展開していくので注目してみてください。
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