5話
浦原が十二番隊隊長に就任してから九年がたった。
その間特に大きな事件もなく尸魂界は平和そのものであった。
死神にとって九年と言う時間は大して長い時間では無い。
護廷十三隊の者たちにも大きな変化があった者はおらず九年前と変わらない毎日を送っていた。
「なぜお主がここにおる?」
任務から帰って来た夜一は二番隊の女性隊士を口説いている玄太郎を見つけうんざりしていた。
「おぉ、夜一。お前は運命の女だ。さ!今すぐ結婚しよう。」
「寝言は寝て言うのじゃ。」
玄太郎の顔に足がめり込む。
この光景もここ九年間変わらないやり取りであるため周りの隊士たちは少しも驚く様子もなく淡々と作業を続けていた。
玄太郎は何事もなかったかのように軽く飛び起きると、二番隊の隊長室へ向かって一人で歩き始めた。
「おい、勝手にどこに行く?」
「仕事だ。ついて来い。」
玄太郎は振り返るといつものように自信満々の笑みを浮かべて言い放った。
「なるほど、魂魄消失事件か……」
「そうだ。文字通り魂魄だけが消えるらしい。」
玄太郎の話を聞き夜一は即座に調査隊のメンバーを考える。
ーー副隊長の大前田と、経験を積ませる意味もこめて砕蜂かの。
「おいおい、はやまるな。二番隊はまだ何もしなくていい。現地調査には九番隊を向かわせるつもりだからな。」
「そうなのか?じゃがならなぜわざわざ直接言いに来たのじゃ?ただの連絡なら地獄蝶を使えば良かろう。」
「そりゃ〜、夜一ちゃんに会いたかったから……イタ!?」
例の如く玄太郎の顔に夜一の拳がめり込む。
鼻をさすりながら『いつも通りいいパンチだな』などと呑気に話していた玄太郎を夜一は睨み声を小さくして問う。
「それで本当は何が目的じゃ。」
「……全く釣れないな。夜一に会いたかったのは本当だがもう一つ目的があってな。……忠告しに来た。」
「忠告……じゃと?」
玄太郎はいつもの人懐っこい笑みを消して、夜一にしか聞こえない程小さな声で言った。
「五番隊の連中と……浦原には注意しとけ。」
夜一は玄太郎の言葉を聞き鋭い目つきで玄太郎を睨んだ。
隊長室には雷の如き激しい霊圧で満たされる。
規格外の霊圧に晒されながら玄太郎は余裕の笑みを浮かべて夜一の肩を叩く。
「可能性の話だ。お前と浦原の関係は知っているだがその信頼は時に盲信に繋がる、注意しとけ。」
「お主の忠告など必要ない。」
夜一は吐き捨てるように言った。
「お主と話すことなど何もない。早く立ち去れ!」
夜一の怒鳴り声を聞いて玄太郎は肩をすくめると素直に隊長室から出て行こうとする。
玄太郎はふと夜一の机にある紙に目がいった。
それは現世で言うところカレンダーというものであった。
そのカレンダーには定期的に赤い丸が打たれていた。
丸の付いている日はどれも満月の日であった。
ーーーこんなに想われているというのはやはり嬉しいものだな。
九年間で変化したことは特になかったが新しく生まれたものはあった。
その内の一つが四鳳院家の当主の想い人という噂話である。
夜一は本来せっかちな性格であるため次その男に会った時には意地でも捕まえると意気込んでいた。
しかし満月の夜、京楽と浦原と呑んだ時に演奏を聴いて以来、一度もその男が夜一の前に姿を現す事はなかった。
高貴な貴族でありながら、類い稀な死神の素質も持ち合わせていた夜一は今まで欲しいと思ったものはなんでも手に入れることが出来た。
しかしどうしても手に入れることが出来ないその男のことを夜一は自分でも知らない内に思い焦がれるようになっていた。
普段から仲のいい浦原から何度もそれは紛れもなく恋だと言われたにも関わらず夜一はそれを頑な認めようとはしなかった。
男性隊士の間では男勝りな夜一の乙女な一面として大層人気な噂話である。
しかしほとんどの隊士にとってはただの噂話に過ぎずこの噂が本当であることは一部の隊長格しか知らず、さらにその相手が玄太郎であることを知る人物は平子と京楽くらいのものである。
夜一のカレンダーを見た玄太郎はニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべて足取り軽く部屋を出て行った。
玄太郎が隊首室に入ると、そこには既に一番隊副隊長『雀部長次郎』が待機しており、山本元柳斎と険しい顔で玄太郎を睨め付けた。
「遅いぞ、玄太郎よ。」
「俺は常に尸魂界を飛び回っているんだ、そんなすぐに戻ってこれるわけがないだろ。」
玄太郎は大して反省をしている様子もなく、二人に近づいていく。
山本にこのような接し方が許されているのは尸魂界で玄太郎だけである。
雀部はため息をついて玄太郎をたしなめる。
「砕蜂さんから二番隊の女性隊士たちを口説いていたという報告がさっき届いたのだが。」
「ウゲッ!?砕蜂告げ口しやがったのか。でも京楽が二番隊の子は押しに弱いって言ってたからやったんだ。あいつが悪い!」
「京楽の教育をこいつに任せたのは間違いだったか……。」
雀部は突然出てきた後輩の名前を聞き、泣き出しそうな顔をする。
そんな二人のやり取りをしわがれた細い目で見ていた山本はおもむろに口を開く。
「玄太郎と京楽の女好きはもう諦めておる。」
護廷十三隊で山本とこのように砕けた話ができるのは1000年以上の付き合いになる雀部と玄太郎、そして山本の愛弟子京楽と浮竹くらいのものである。
「それでこ度の魂魄消失事件、お主らはどう見る?」
先ほどまでの和気藹々とした雰囲気は影を潜め緊張感を含んだ空気が場を支配する。
「私の調査では新種の虚の可能性もありますが今のところ虚と断定することはできません。」
「うむ、死神の犯行の可能性もあると。」
「今月の定例報告で特に怪しかった奴はいなかった。もう少し情報がないとなんともできないという感じだな。」
山本は二人の報告を聞きただでさえ細い目をさらに細めて考え込む。
玄太郎と長次郎は言葉を発することなく山本の次の言葉を待つ。
「こ度の件、いささか気になる点が多いの。調査隊を派遣することにする。派遣する隊は玄太郎の判断に任せる。」
少し短いですけどここまで切りがいいのでここまでにします。
思いっ切り原作を改変していくのでお楽しみ下さい。