今日起こった魂魄消失事件の詳細は不確定要素が多いという理由で三席以下一般隊士には通達されなかった。
しかし流魂街から発せられる規格外の霊圧を感じて一般隊士は皆、今回の魂魄消失事件がただ事ではなくなっていることを感じ取っていた。
「なんたってこんな見回りに隊長三人も派遣されてんだ?もうちょっとバラけさせればいいのに。」
「総隊長の決定なんだ。僕達は従うしかない。」
特大のアフロとサングラスがトレードマークの七番隊隊長『相川愛』通称『ラブ』は三番隊隊長『鳳橋桜十郎』通称『ローズ』と十二番隊隊長『浦原喜助』と共に精霊廷の見回りをしていた。
「にしてもおっかねーな。こんなに離れてんのに肌がピリついてくる。」
ラブは先程から尸魂界中に伝わる強大な霊圧を感じて身震いをする。
「これじゃ、異常事態ですって精霊廷中に宣伝してるみたいだな。」
「滝三席ってホントに強かったんスね。」
隊首会では大きく取り乱していた浦原だったが隊首会が終わるといつもの飄々とした様子に戻っていた。
ローズは目を細めながら空を眺めた。
「間近で見るともっと凄いよ。それこそ、総隊長に匹敵する程にね。」
「実際に見たことあるんスか?」
浦原が目を丸くして聞く。
「あれはもう何年前だ?八代目の剣八が反乱を起こしたのは。」
「僕たちが席官になった頃だから大分前だね。」
世間話をしながら呑気に歩いていたラブは突然浦原の肩に手を置き強く引き寄せる。
「わかったらもう俺らの隙を狙って抜け出そうとすんなよ。」
ラブが浦原を睨みつけるように言うと、浦原は困ったように乾いた笑い声をあげた。
「バレちゃってましたか?」
「バレバレだよ。君からは焦りの音楽しか聞こえない。」
「ひよりを信じてやれ。あいつは手のかかる奴だが簡単に死ぬような玉でもねえ。ちっとはあいつを信じてやれ。」
「……はいっス。」
その実ラブもローズも拳西と白の状態が心配じゃないわけではない。
しかし現場に向かったのは護廷十三隊で最も強い男である。
二人は玄太郎の戦いを一度この目で見た事があるからこそ平常心でいられるのである。
そのとき三人の足が急に止まる。
三人は精霊廷の東で突如大きな霊圧を感じった。
三人にはその霊圧は強力な虚のように感じた。
しかし三人はその事実をすぐには受け止められなかった。
何故ならそんな事は本来あり得ないのである。
尸魂界は殺気石より生じる霊体を遮断する膜『遮魂膜』によって守られており虚が中に入る事などあり得ないのである。
ローズとラブの考察はここで止まる。
しかし尸魂界一の頭脳を持つ浦原は自身の研究の中から一つの可能性に思い当たる。その研究は浦原自身が研究しながら余りの危険性から中止にしたものである。
思考の海に溺れていた浦原は自分の前を歩く二人の隊長の異変に気付き現実に引き戻される。
突然、ローズとラブの歩みが止まる。
浦原が疑問に思い二人を見ると目の前に広がる光景を目にして驚くとともに一つの確信を持った。
虚は最初から精霊廷内にいるのだと。
顔に虚のような仮面を付けたローズとラブは言葉にならない声を上げて浦原に襲いかかった。
「満月の夜じゃな……」
尸魂界を薄く照らす満月を眺めて夜一は小さく独り言を呟いた。
夜一は月の綺麗な夜になると、こうして空を見上げ物思いにふけるクセができてしまっていた。
九年たっても夜一は双極の丘で見た男の姿を鮮明に覚えていた。
「いやはや。こんな日は呑気に酒でも呑んでいたいね。」
「アンタはいつでも酒飲んどるやろ。」
満月の夜に恋い焦がれる女という風情のある空気を京楽とリサがぶち壊すように会話をする。
「何でお前は副隊長のくせに隊長に対してそない口の聞き方すんねん。」
「こいつは隊長やない。髭や。」
「ひどいなリサちゃん〜。」
京楽は突然リサを掴み壁へ向かって投げ飛ばした。
大きな煙を上げてリサの姿が見えなくなる、しかし壁に大きなヒビが入っており相当強い力で投げたことがうかがえる。
「何しとんねん!?いくらリサが無礼やからって……」
京楽はいつもの影のある笑みを無くし、無表情で刀に手をかけた。
「何言ってるんだい、彼女は敵だよ。」
京楽は煙が晴れ切る前にリサに突進し斬りかかる。
激しい音とともに壁が完全に崩壊する。
煙の中から二つの影が左右に分かれて飛び去る。
一人はいつもの女物の着物を脱ぎ、白い隊長羽織姿となった京楽。
もう一方の影はその副隊長、しかしその顔には虚のような仮面が付いている。
「何やあれ!?」
「いまはどうでもよい。後で喜助辺りが調査するじゃろう。今は此奴を止めるのが先……!?」
夜一の言葉が言い終わる前に平子が夜一に向かって刀を振るう。
間一髪のところで交わした夜一だったが、その額には小さな切り傷が出来ていた。
「何をしよ……」
夜一は平子の顔を見て驚愕する。
平子は顔に張り付いた虚の仮面を押さえつけながらもがき苦しんでいる。
平子は切羽詰まり怒鳴るように夜一に言う。
「はよ殺せ。俺が押さえつけとる間に。」
夜一は無言で隊長羽織を脱ぎ捨て肩と背中が大きく露出した服装になる。
夜一の体から高濃度の霊圧が放出される。
「気をつけるのじゃな。これは手加減が効かんのでのう。……瞬閧!」
夜一は平子の仮面目掛けて霊圧を纏った拳を振り上げた。
白が先陣を切って玄太郎に突っ込んでいく。
玄太郎は白の射程圏内に入る前に指を突き立てて霊圧を放出する。
白は回避行動を取ることなく突っ込み体中を炎で包まれる。
獣のような悲鳴を聞きながら玄太郎は得意げに説明する。
「すごいだろ。お前らで言うところの詠唱破棄みたいなもんだよ。」
「……」
玄太郎が放ったのは破動の三十三『蒼火墜』である。
しかし玄太郎の中ではその認識はない。
玄太郎からしてみれば霊圧を炎の形で放ったに過ぎないのである。
「鬼道なんて大層な名前が付けられちゃいるが、とどのつまり霊圧を好きな形で放つ。それだけの事だ。まぁ、それじゃあ万人が使えるものにはならないってそれらを体系化させた奴らがいた。それが今の鬼道衆の始まりってわけよ。」
「……」
何を話しても全く反応のない三人に気分を悪くしたのか玄太郎は腹立たしそうに音姫を地面に叩きつける。
その音が拳西たちに届くと浅い切り傷が全身にできる。
「歴史の授業も終わったところでそろそろ始めるか?」
今まで決して自分から仕掛けることはせずに受け身に徹してきた玄太郎が始めて動いた。
拳西たちには既に理性と呼ばれるものは残っていなかったが本能の部分で身の危険を感じ取った。
太刀筋が複数見える、それほどに早い玄太郎の斬撃がひよりの胸元に襲いかかった。
虚化により死神の限界を超えて強化された反応速度で辛うじてその斬撃を受け止める。
金属と金属がぶつかり合う甲高い音がこだまする。
ひよりの右手に斬魄刀で斬られたように深い傷が生じた。
痛みで右手の力が弱まったひよりはいとも簡単に弾き飛ばされ木に突っ込んだ。
激しい音と共に噴煙を巻き上げてその中心にいるひよりの記憶はそこで完全に途切れた。
玄太郎は一息つく暇もなく次なる攻撃に見舞われる。
拳西が背後から渾身の力を込めて拳を振り上げた。
数の有利を失った今、拳西の勝機はひよりが命がけで作った一瞬の隙をついて一撃で倒す、それだけだった。
攻撃に反応した玄太郎が振り返り受け止めようとする。
振り返った玄太郎の顔には焦りの色は一切なく絶対的な自信が見え隠れしていた。
玄太郎は拳西の拳を左手一本で受け止めた。
行き場を失った霊圧が炸裂し、玄太郎と拳西の立っていた地面を破壊した。
その穴の大きさから拳西の拳の強さが一目で見て取れた。
「夜一の脚の方が百倍効いたな。」
玄太郎はゆっくりと斬魄刀を持ち上げて斬りつけようとする。
拳西は回避しようとするが体が一切動かない。
玄太郎の左腕ががっちりと拳西を捕まえて離さないのである。
回避することすら許されない拳西はあっけなく玄太郎に斬られる。
上半身から大量の血を流してその場に崩れ落ちた。
あれ?
このまま三人を殺しても歴史は大して変わらないような……
すいません、なんでもないです。
次回、ラスボスとの遭遇です……!