玄太郎は小さくため息をもらすと刀をグルグルと回してながら誰もないない暗闇に向かって声を発する。
「コソコソ隠れてないで出てきたらどうだ?」
玄太郎が呼びかけると森の暗闇から人影が一つ浮かび上がった。
ドレッドヘアにゴーグルという特徴的な見た目の死神が玄太郎の前に現れる。
「えーと……誰だっけ?」
「東仙要、九番隊五席。」
名前を聞いても未だに思い出せていない玄太郎を見ても大して気を悪くした様子はない。
「救援ありがとうございます。」
「礼には及ばない。」
玄太郎は淡々と東仙に応じる。
「お前はこいつらの状態がわかるのか?」
玄太郎は東仙に背を向けて倒れて動かなくなった拳西たちの様子を伺っていた。
東仙は心の中でわずかに興奮を覚えた。
ーーー油断している今ならやれる。
東仙は斬魄刀を持つ手に力を込めて斬りかかろうとする。
しかしその刀は東仙の思いもよらない人の手によって遮られた。
「何をしようとしているんだい、要?」
「も、申し訳ございません……!」
東仙の斬魄刀を指先でつまんだ藍染が突然姿を現した。
「何でお前がここにいる?」
玄太郎は瞬時に警戒レベルを上げて藍染と間合いを取った。
突然目の前に現れた死神の姿を見て剣呑な目で睨む。
「容赦が無いですね。滝三席。」
黒縁の眼鏡が特徴的な男、藍染惣右介はいつものように丁寧な言葉遣いで玄太郎に話しかける。
しかしその視線にいつもの暖かさはなく、ゴミを見るような目で玄太郎の周りに倒れる三人の死神を見ていた。
普段の藍染を知っている人からしてみれば想像もできないような冷たい目を見て玄太郎は何故か楽しそうに口角を上げた。
「ようやく正体を現したな、藍染。」
「あなたにはこの程度の雑兵が三体束になったところで意味はなかったようですね。」
玄太郎は無造作に斬魄刀を回すとそのまま勢いよく地面に叩きつけようとする。
「やらせるか。」
東仙が玄太郎の行動を予測し、斬りかかる。
玄太郎は咄嗟に飛び去り、その斬撃を回避した。
「お前の刀から発せられる音に霊圧を乗せる。そして音が耳に届いた時には霊圧の刃が相手を切り裂く。そんなところだろう。そう簡単に使えると思うな。」
「ほう、中々耳がいいようだな。正解だ。」
玄太郎は東仙を挑発するように言う。
東仙の顔からは一切の感情は読み取れない。
しかし彼の放つ霊圧は徐々に大きくなり玄太郎を威嚇する。
両者は一歩も動かない。
その間東仙は頭の中で何百通りもの攻撃パターンをシュミレーションする、瞬歩で背後に回り斬る。正面で一回払い、そこを突く。
しかしシュミレーションする度に頭に浮かび上がるのは玄太郎に殺される自分の姿だった。
東仙は悔しそうに唇を噛む。
その様子を見て藍染が小さく諭すように言った。
「分かったかな。今の私達では彼を倒すことは出来ない。」
「そやなぁ。隠れて見てたけどホンマに強いわ。この人。」
藍染を庇うように前に立った市丸ギンがキツネのように細い目をさらに細めて玄太郎を見ていた。
ギンは何かを期待するようなそんな目で玄太郎を見ていた。
「今は……だと。その言い方だといつか勝てるみたいな言い方だな。」
藍染は眼鏡を取り、そして髪をかきあげて全ての生物を見下したようなそんな傲慢さを感じさせる表情になる。
「そうですね……百年もあれば私はあなたに追いつき、そして決して埋まらない程の差をつけられると思っています。」
藍染の表情からは絶対的な自信がうかがえる。
玄太郎は斬魄刀を上段に構えて斬りかかる体勢を整える。
「残念だな。その100年後は永遠に訪れない。」
玄太郎の言葉を聞いて藍染は眼鏡をあげて凶悪な笑みを浮かべる。
藍染は刀を抜くことはなく己の霊圧も限界まで抑えることで戦う意思がないことを示す。
「私はあなたと戦うためにここにきたのではない。あなたと交渉しにきたのです。」
「交渉?」
「そうです。あなたはこのまま死神の枠に留まったままでいいと思っているのですか?」
玄太郎は無言で藍染の言葉を聞いている。
淡々と話していた藍染はやがてその声に熱を帯び始める。
「死神は斬、拳、走、鬼の四つの戦闘技能を駆使して戦う。しかし実力のあるものはやがてその限界に達することになる。あなたは気づいているはずです。斬、拳、鬼どれをとってもあなたは護廷十三隊で最高の水準にある、しかし走だけは並みの隊長クラスだ。それがあなたの死神としての限界です。」
「……何が言いたい?」
「見たくはないのですか?死神の限界を超えたその先を。あなたほどの才能があれば今の状態ではとても満足できない筈です。死神を超越したその先を知りたくはないのですか?」
藍染は一通り言いたいことを言い終えたのか黙って玄太郎の返事を待った。
玄太郎はやがて顔を上げるといつものように自信満々の笑みで言い放った。
「化け物になって全てを手に入れるくらいなら満ち足りない死神でいるほうがまだマシだ。」
「……そうか残念だ。」
先程までは表面上敬語を使って、玄太郎を敬っていた藍染だったが交渉が決裂するやいなや即座に傲慢さが前面に出て行く。
「せいぜい死神としての生を楽しむといい。」
藍染の言葉と玄太郎が大きな霊圧の爆発を複数感じたのは同時のことだった。
玄太郎は驚いて即座に霊圧の方向を探る。その爆発は精霊廷の方向から発生していた。
「早く行った方が良いのではないかな。」
藍染達はまるで空気に溶け込むようにその場から消え去った。
玄太郎は地面を蹴り音を発生させる。
藍染達がこの場から消えたことを確信し、始解を解いた。
そしてこの場に新たに現れた男の到着を待った。
「滝殿、お待たせしました。」
「鬼道衆総帥・大鬼道長が何でこんなところにいるんだ?」
青い衣装に身を包んだ大男、握菱鉄裁が息を切らせながら玄太郎の元へやって来た。
「浦原殿からのお願いを聞きつけ、参りました。」
鉄斎はそう言うと玄太郎の周りに倒れる三人の死神に近づき、さして驚く様子もなく縛道を施した。
「 驚かないんだな。この姿を見て。」
「私も既に見てきましたので。」
鉄斎はそう言うとサンバのような仮面をつけ自分を襲ってきた部下の姿を思い出し、静かに目を閉じた。
「浦原殿は魂魄消失事件が発生した当時からこの可能性を指摘しておられました。浦原殿にならこの状態の彼らを救うことができるそうです。」
「救うったってもうこいつら虫の息だぞ。精霊廷に連れ帰る前に死んでしまうぞ。」
「ご心配には及びません。今から彼らとそして貴方をこの状態のまま一瞬で瀞霊廷にお返しします。」
「んな都合のいいこと、どうやってやるんだよ?」
玄太郎が笑うと鉄斎は力のこもった声でこう続けた。
「空間転位と時間停止を行います。共に禁術。滝殿、しばし目と耳をおふざき下さい!」
鉄斎が力んで術の準備をする様子を見て玄太郎は愉快そうに口角を上げた。
「安心しろ。俺が裁くのは死神だけだ。鬼道衆は管轄外だ。」
✳︎
瀞霊廷は未曾有の大混乱に見舞われていた。
玄太郎の異常なまでの霊圧を感じ尸魂界に異変が起こっていると何となく察していた一般の隊士達は次から次へと入ってくる驚愕の報告に皆呆然とした。
突然の隊長格同士の戦い。
三、五、七、九番隊の隊長を含む隊長格七人の失踪。
鬼道衆副鬼道長の失踪。
鬼道長が禁術行使の容疑で四十六室に拘束。
夜明け前に緊急招集がかかってからたったの2時間だけでこれだけの報告が舞い込んできた。
平隊士たちはどうすればよいのか分からず皆混乱していた。
特に、隊長、副隊長はじめ上位席官がみな不在の九番隊の混乱は酷いものであった。
握菱鉄裁の拘束という最新の情報が入ってからわずか五分後、また新たな報告が届く。
その報告を見て各隊はさらに混乱を極めた。
ーーー 四十六室は一番隊三席滝玄太郎と握菱鉄裁を今回の魂魄消失事件及び、隊長格失踪事件の犯人と断定。
直ちに滝玄太郎を捜索し、捕縛。捕縛が難しい場合には殺害も許可する。ーーー
もやは原作の面影など一切ないくらいに無茶苦茶やってますね……。
過去編は次から後半戦に突入します。
果たして平子たちは無事に現世へ行けるのか?