体育祭まで、あと二週間ほど。それぞれが体育祭に向けて特訓を開始していた。
ある者は家に帰り、敷地内で個性の特訓をする。ある者は図書館で知識を詰め込む。ある者はランニングで体力の強化を試みる。ある者は放課後、訓練室を借りて訓練に勤しむ。
その中で狂夜は訓練施設で座禅をしていた。
心を落ち着け、静かに……それでいて体の中の個性を押さえ付ける様に。
「………ふぅー」
「なんか特殊な訓練方法だな」
深く息を吐いた狂夜に砂藤が話し掛けると、狂夜は座禅を崩して立ち上がる。
「俺の『狂化』って制御が上手く利かないからな。制御する為に『狂化』に負けない精神を鍛えようかと思ってな」
「あー……一筋縄じゃいかないもんな間桐の個性は」
狂夜の説明に砂藤は納得した。狂夜の『狂化』は先日の戦闘訓練とUSJの時に見ていた。制御が自分の『シュガードープ』とは比べ物にならないのは分かりきっていた。
「ま、これで完全に制御出来るとは思っちゃいないが必要だとは思うからな」
「体育祭までにやる事は多いよな……」
狂夜と砂藤は揃って溜め息を吐いた。体育祭は種目や競技は当日まで極秘とされている。何を鍛えるか生徒個人の推察力に試される。
これは未知の敵と戦う為や状況判断を鍛える為でもあるらしい。
「取り敢えずは『個性』を伸ばす事を考えるしかないな」
「ま、そうなるか」
狂夜の発言に砂藤のみならず、同じく特訓をしていたA組生徒達は頷く。
こうして各々が特訓に時間を費やし、あっと言う間に体育祭当日となった。
◇◆体育祭当日◇◆
雄英体育祭会場には観客やプロヒーロー達が所狭しと入っていた。
場所は変わって、生徒達選手控え室。
狂夜達はもうすぐ始まる行事に思いを馳せていた。
「競技……なんだろうな?」
「何が来ても乗り越えるだけだ」
不安そうな砂藤の呟きに常闇はいつもの調子で答えた。
皆が緊張しつつも、奮起する。そんな中で轟が緑谷に歩み寄った。
「轟くん……どうしたの?」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
緑谷の疑問に轟は自身の思っていた事を告げた。
「へっ!?うっ、うん…」
「お前オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」
狂夜を除けばクラスメイトと関わりが薄い轟が緑谷へ宣戦布告した。もっとも、狂夜との関わりも他に比べれば多いというだけで基本的には一人が多いが。
「おお!?クラス最強が宣戦布告!?」
「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって…」
「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だって良いだろ」
普段多く喋らない轟の宣戦布告を聞いて上鳴が驚き、普段から爆豪とよく一緒に居る切島が場を取り成そうとするが轟は意にも介さず手を振り払った。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか……は、わかんないけど…そりゃ、君の方が上だよ…。僕の実力なんて、大半の人に敵わないと思う……客観的に見ても…」
「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねぇ方が……」
緑谷は少し黙って俯きながら話し、ネガティブな緑谷を切島は慰めようと話し掛けるが、顔を上げた緑谷の表情は覚悟を決めたものだった。
「でも!皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れをとるわけには、いかないんだ!僕も本気で、獲りに行く!!」
「緑谷、カッコいいじゃん」
力強く宣言した緑谷。その顔を見た狂夜は楽しそうに笑う。緑谷の宣言と狂夜の発言にA組クラスメイトは緊張が解れ、改めて覚悟を決めた。
「さ、行こうか」
「うん!」
「……おお」
「ちっ!」
時計を見た狂夜は立ち上がる。時間は入場五分前となり、そろそろ移動しなければならないからだ。
狂夜の促しに緑谷は素直に返事をし、轟は頷き、爆豪は舌打ちをした。
ステージゲート手前で待機し、出番を待つ。そして入場時間と同時にA組クラスメイトは歩き始める。
『1年ステージ、生徒の入場だ!!』
入場と共に、プレゼント・マイクの声が響く。雄英体育祭、始まりである。