一時間程の昼休憩が終わり、午後の部が始まった。狂夜は昼休憩の間も尾白や庄田を励ましていたが二人の顔は晴れる事はなかった。
そして時間になり生徒が整列し、午後の部のレクリエーションが始まる。
しかし、一部は違った盛り上がりを見せる事となる。何故かA組の女子がチアガールの格好をしていたのだ。
『どーしたA組!?』
『なーに、やってんだアイツ等……』
「峰田さん、上鳴さん!騙しましたわね!」
「「ひょー!」」
八百万の怒鳴り声を聞きながら上鳴と峰田はサムズアップをしていた。チアガール姿の女子達の姿を見た狂夜は客席に見知った顔を見つけて『狂化』を発動し、その人物が持っていた物を奪い、女子達に近付く。
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「まあまあ……」
「アホだろアイツら……!」
完全に策にハメられた八百万は地面に膝をついて落ち込んでいる。そんな八百万を麗日が慰めていた。耳郎は顔を赤らめながらポンポンを地面へと叩きつける。
「もう……でも、せっかくの体育祭なんだしこういうとこで盛り上げないかな?」
「そうだね!せっかくだし、やったろ!」
「三奈ちゃん、透ちゃん、好きね」
芦戸と葉隠はノリノリでチアのポンポンを振り出す。ノリの良い葉隠を見た蛙吹が呟いた。
「おいおい、せっかくいい感じの姿になってんだし、応援してやったら?」
「あのね間桐、結構恥ずかしいんだから……って何で、カメラ持ってんの!?」
狂夜の発言に抗議しようとした耳郎は振り返り、驚愕した。何故か狂夜はプロのカメラマンが持っていそうな一眼レフを構えて写真を撮っていたのだから。
「ちょっ……間桐君、なんで本格的なカメラマンになってるん!?」
「客席に親父が居たから借りてきた」
カメラを持つ間桐に驚いた女子達の言葉を代弁する様に麗日が叫ぶ。狂夜は客席を指差すと其処には苦笑いをしている中年男性がスタジアムの客席に居た。
「あの方が間桐さんのお父様なのですか?」
「ああ、親父はフリーのカメラマンでな。今回の雄英の体育祭の取材で来てたんだ。んで、丁度いい位置に居たからカメラ借りてきたんだ」
八百万の疑問に狂夜は何故カメラが手元に有るのかを織り交ぜながら説明をする。その途中で上鳴が狂夜の肩に手を乗せ、峰田が狂夜の足に抱き付いた。
「間桐、写真現像したらオイラにくれ!」
「頼むぜ、間桐!」
峰田が号泣し、上鳴は妙にカッコいい顔をしながら狂夜から女子達のチアガール写真を求めた。
「この馬鹿共っ!!」
「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
しかし、写真を求めた事は耳郎の怒りを買ったのか上鳴と峰田は爆音を叩き込まれ、地に伏した。
「取り敢えず現像したら、お前らには配るわ。思い出になるだろ」
「マジで!?ありがと!」
狂夜は客席の雁夜にカメラを投げ返しながら女子達に告げる。チアガール姿は恥ずかしかったが思い出の写真は有り難いと芦戸は嬉しそうにしていた。
「とんだハプニングだけど、その前にトーナメント決めでもしましょうか!」
ミッドナイトがそう言ってくじ引きで決めようとしたのだが、そこで尾白と庄田が辞退を申し出たのだ。
理由は騎馬戦での出来事をほとんど覚えていないから出る権利がないと言う。狂夜に正気に戻してもらったんだとしても、その後は言いなりで自分の意思は其処には無かったと主張したのだ。
それに皆もせっかく見てもらえる機会なんだから思い直せというけれど、プライドが許さないという事。
「お前等にそれを言われると俺も出づらいんだけど……」
「いや、間桐は出てくれ。お前が起こしてくれなきゃ俺達は本当に何も知らないまま終わってたんだ。間桐には出る権利がある」
「そうだよ。僕達の思い……君に託すよ」
苦笑いの狂夜に尾白と庄田は拳を突きだし、主審のミッドナイトがその光景を見て震えていた。
「そう言う青臭いのは……好み!認めます!尾白君と庄田君は棄権、間桐君は二人の思いを継いで出場!」
そう言って尾白と庄田の意思を受諾して二人は辞退と相成った。
尾白と庄田の抜けた枠は話合いの結果、代わりにB組の鉄哲徹鐵と塩崎茨が入る事になった。
「それじゃ決めるわよ!」
ミッドナイトに促され、各自でクジを引いていき、トーナメントの結果がスクリーンに貼り出される。
第一回戦トーナメント表
第一試合 緑谷VS心操
第二試合 轟VS瀬呂
第三試合 間桐VS上鳴
第四試合 飯田VS発目
第五試合 芦戸VS塩崎
第六試合 常闇VS八百万
第七試合 切島VS鉄哲
第八試合 爆豪VS麗日
貼り出されたトーナメント表に各自のリアクションは様々だった。
対戦相手に絶望する者。闘志を燃やす者。対策を練る者と分かれる。
緑谷の対戦相手が心操だと知った狂夜は緑谷に心操の個性を説明しようと思ったが、尾白が緑谷を連れて控え室に歩いていく。すれ違い様に「俺から緑谷に説明するから間桐は自分の戦いに集中しなよ」と告げた。
第一試合
『緑谷VS心操』
緑谷が心操の挑発洗脳に引っかかるが緑谷は個性発動の衝撃で目がさめ、そこからは無言で心操を投げ飛ばす。
『勝者 緑谷』
第二試合
『轟VS瀬呂』
瀬呂が轟をテープで捕まえ場外に出そうとするも大氷壁で固められ戦闘不能。
『勝者 轟』
第三試合
『間桐VS上鳴』
「間桐が相手か。気は抜けねーな」
「こっちのセリフだっての」
狂夜と上鳴は互いを警戒していた。狂夜の個性によるパワーを知っている上鳴は接近される前に狂夜を倒さねばならない。対する狂夜は上鳴の個性みたいに遠距離技を持っていない。如何に電撃を潜り抜けて攻撃するかが勝負の決め手となるのだ。
『それではレディ……ゴー!』
「行くぜ、間桐!無差別放電……ほぶぅっ!?」
「………rocket」
ミッドナイトの試合開始とほぼ同時に決着が着いた。試合開始と同時に無差別放電を放とうとした上鳴の腹に狂夜の両拳がめり込んでいたのだ。
その威力に上鳴の意識は飛んでしまい、仰向けに倒れる。
『完全に気絶してるわね……勝者、間桐君!』
『早っ!?秒殺!』
『間桐は上鳴が放電しようとした一瞬の隙をついたな。上鳴が放電しようと両手を上げるのが分かっていたから間桐は『狂化』で強化した脚で跳躍。矢みたいに飛んでいったから、仮に上鳴の放電の方が早かったとしても多少は電撃を食らっても間桐の勢いは止まらない。そのまま上鳴を攻撃していただろうな。互いに短期決戦を狙っていた結果だな』
ミッドナイトの判定にプレゼントマイクが早すぎる決着に相澤の解説が入る。
相澤の解説通り、狂夜は上鳴の個性に対抗する為に短期決戦を考えていた。その為に多少のダメージ覚悟で自分の体を弾の様に扱い、上鳴に重い一撃を与えたのだ。
上鳴に勝ち筋があったとすれば、無差別放電で短期決戦を狙わずに距離をおいて地道に狂夜を電撃攻撃する事が唯一だったが、狂夜のパワーを警戒していた上鳴は短期決戦しか考えていなかった為に今回の結果となった。
『勝者 間桐』
第四試合
『飯田VS発目』
発目の口車に乗せられた飯田は発目が開発したサポートアイテムフル装備で参加。発目のサポートアイテムを見せつけるための宣伝塔代わりにされ……発目はひたすら説明したのち自分から場外へ。
『勝者 飯田』
第五試合
『芦戸VS塩崎』
塩崎のツルを芦戸が酸で溶かし、怯んだ塩崎に芦戸の拳による突き出しで塩崎場外。
『勝者 芦戸』
第六試合
『常闇VS八百万』
八百万が様々な武器や防具を生み出すも、常闇のダークシャドウに圧倒され敗北。
『勝者 常闇』
第七試合
『切島VS鉄哲』
似た者同士の個性によるぶつかり合い。クロスカウンターが決まり同時に倒れる。
『ダブルK.O. 後に改めて勝者を決める勝負を執り行う』
第八試合
『爆豪VS麗日』
爆豪の絨毯爆破に怯む事なく立ち向かった麗日。策を練り、試合場の瓦礫を浮かせて雨のように降らせるが爆豪の爆破に全て阻まれ、打つ手なし。体力切れで倒れて敗北。
『勝者 爆豪』
一回戦も順調に進み、二回戦が始まる。