上鳴や葉隠といった友人も出来て楽しく話をしていた狂夜だが、その平穏は既に崩れ去っていた。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「あぁ?思わねーよクソが!テメーどこ中だ!?端役が!!」
目付きの悪い生徒、爆豪と入試の時にモサモサ頭の少年に絡んでいた眼鏡が言い争っていた。
先に教室に入ってきたのが爆豪だったが、彼は教室に入るなり、机に足を掛けた。そして次に教室に入ってきた眼鏡の少年が注意し、今に至る。
「ぼ…んんっ…俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!」
「聡明だぁ!?エリート中じゃねぇか!そりゃブッ殺し甲斐ありありだな、オイ!」
「君、酷いなっ!本当にヒーロー志望か!?」
自己紹介をした眼鏡改め飯田は、おおよそヒーロー志望とは思えぬ台詞を吐く爆豪に驚きながらも、更なる注意を促すつもりらしい。
「なんか……スゲーなアレ……」
「チンピラ不良と真面目眼鏡……水と油だろ」
上鳴の言葉に狂夜も同意する。この手の人種は交わらない。狂夜が言い表した様に正に水と油なのだろう。
そこで狂夜は教室の扉が少し開いている事に気づく。そこからビクビクした様子で見覚えのあるモサモサ頭が見えた。
「ん……お前も受かってたのか。モサモサ頭」
「あ、試験の時の……あ、ありがとう。あの後、君が運んでくれたって聞いたからお礼がしたかったんだ」
狂夜は上鳴達と離れると、入試の時に会ったモサモサ頭の少年と挨拶を交わす。そこで漸く、狂夜にも気付いた飯田がズンズンと狂夜と緑谷に歩み寄る。
「俺は私立聡明中学の飯田天哉だ!」
「あ!僕は緑谷出久です…飯田くんに……えと……」
「間桐狂夜だ。よろしくな緑谷、飯田」
互いに自己紹介を済ませる三人。そこで飯田が口を開いた。
「緑谷君、そして間桐君もあの実技試験の構造に気付いていたのだな?俺は…気付けなかったよ。君達を見誤っていたよ!悔しいが君達の方が上手だったようだ……」
ギリッと、何とも悔しそうな顔で歯を食い縛った飯田。それと同時に狂夜も緑谷も『いや、気付いてなかったよ』と心の中でツッコミを入れた。
「あれ?そのモサモサ頭は!地味目の人!それに最後に助けてくれた人も!」
「あ、あなたは!」
「お、これであの時のメンバー揃ってんな」
続いて教室に入ってきたのは、これまた入試の時に会った茶髪の女の子だった。
「良かったー受かったんだね!マイクの言った通りだったよ!すごいカッコよかったし!凄いパンチだったよ!」
「そ…それ程でも」
茶髪の女の子がべた褒めすると、緑谷は顔を真っ赤にして照れていた。
「き、君の直談判のお陰で僕もなんとか……その……き…君がさあんな事言ってくれたから僕もこうしているわけで…」
「え?何で知ってるの?」
「直談判?何があったんだ?」
緑谷が顔を真っ赤にしたまま何かを呟き、茶髪の女の子は小首を傾げ、狂夜は何があったのかと頭を捻った。そんな話をしている最中だった。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
「へ?」
「え?」
「む?」
「ん?」
突如、背後から掛けられた声に緑谷、茶髪の女の子、飯田、狂夜の順に声のした方に視線を移す。
そこには小汚い寝袋に包まれた男が一人。男はゼリー飲料をヂュッと一瞬で飲み干す。誰もがその光景に衝撃を受け、数秒前の歓声が一気に静まった。
「ハイ、君達が静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」
そう言うと男はモゾモゾと寝袋から出て来た。妙にくたびれた男はゆっくりと教室に入ってくる。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
このくたびれたオジさんがクラスの担任?とその場に居た者全員の気持ちが一つになっていた。
「早速だが……全員、これ着てグラウンドに出ろ」
相澤が寝袋の中から恐らく雄英の指定ジャージであろう体操服を取り出す。突然の事態にA組の生徒はただ呆然と相澤の指示に従った。