[安価]転生したらバスの中に居たんだけどどうしよう 作:原作未読マン
ちゃんと会話も出来ることを示そうかと
僕は駄目な奴だ。
何をやっても上手く行かず、人生に希望が持てない。
そんな僕は、あるアイドルを見て、元気付けられた。
生きるための目的が出来た。気力が湧いた。
だから、僕は進もうと思った。
たとえ、それが悪だとしても。
今日はとても幸運な日だ。
雫を直接見ることが出来た。
間違いなく、グラビアアイドル雫だった。
多少の変装では僕の目を誤魔化せない。
ああ、迎えにいくよ、雫。
一緒に暮らそう。
まずは、いつでも一緒ということを証として残すための写真と住所の特定だよね。
もちろん、平行してどんな服を着ているのかの調査も進めている。雫のことは何でも知っておきたいから。
待っててね、雫。
僕の計画は、店の裏口がガチャっと言って開かれる音と共に破られた。
風呂敷を背負って奇抜な格好をした泥棒が現れた。
少なくとも不法侵入してきた不審者なのは確実だ。
不審者は持っていた風呂敷をドサッと置いて意味深に笑っている。
「……トウサツ……データ、……トウサツ……データ」
という呟きも聞こえてくる。
ヤバイ。なんで?バレてる。どうしよう。
笑うという行為は、本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点であるというフレーズを思い出した。
笑顔を近付けてくる不審者に対して僕は思わず謝っていた。
「許してください、許してください」
「……マウントとっていいの……じゃあ……カメラ」
涙が出てくる。
本当にカメラだけで要求が止まるのか?
あり得ない。これですむはずが無い。
でも、この場を乗り切らないと雫に会えない
「分かりました。これなんかどうですか……」
とりあえず安いもので済まそう。素人にはカメラの善し悪しなど分かるまい。
「……使い方も」
「は、はい。えーと、この機種は……」
やっと説明が終わった。
頷いているから、お役御免で良いよね。
「……全部」
「えっ?」
「……全機種1機ずつ。使い方も、まずはこれ」
「は、はい」
ヤバイ。どうしよう。なぜよりにもよってそのカメラを。あれがバレる。
「……早く」
「はい」
仕方ない。バレたらそれまでだ。
「これはですね……」
「ん?このデータは?」
「こ、これはですね。……えーと、モデルになってくれたんです。グラビアアイドルの雫っていうんですけど」
「へぇー、ところで同志よ」
「ヘ、同志?」
「ほう、同志でなかったのか?ならば……」
「いえ、同志です。はい」
「ならば、同志よ。名刺を……」
「はい、これです」
「同志ゆきっちゃん。これから色々頼みます。まずはこのカメラの残骸の換金です」
「は、はい」
ニックネームまで付けられた。
カメラが在庫に無いことを隠すためにレンタルサービスも始めることになった。カメラはそのうち書類上紛失か廃棄されたことにでもなるんだろうな。
もう逃げられないのか。
疲れた。笑うしかない。
きっと、僕の眼は今濁っているだろう。
やっぱり、僕は何をやっても上手くいかない。
現実は非情だ。
不審者の襲撃から少し経過した。
不審者は毎日来て色々僕に集ってくる。
雫と一緒になったらあげる予定だった雫の服もあげた。仕方なかった。でももういい。
雫が店に来てくれた。君が来るのを待ってたよ。
そんなに逃げないで。今日こそ一緒になろう?
こんなにも君のことを想っているのは僕だけ。
君は僕のものになる。それが一番幸せだから。
何で走って逃げるんだ。何が怖いのかな。
大丈夫、ずっと一緒。
もう息が切れてるよ。諦めて。
あぁ、後少しで雫が僕の腕に……
「同志ゆきっちゃ~ん、服貸して~」
咄嗟に隠れる。もう同志という言葉を聞くだけで逃げたくなる。条件反射だ。しかし、結局見つかり、残り僅かな服を貸すことになった。多分帰ってこないだろう。今まで1着も返ってきてない。
それにしてもあと一息だったのになぜ邪魔をした。
文句を言いたい。だがそんなことをすれば消されるかもしれない。行動を共にしたことで分かる。奴は人間じゃない。奴は意味不明な何かを行動原理としている。建物に入る時の五体投地はその最たるものだ。
だが、我慢にも限界が来る。
「同志ゆきっちゃ~ん、花火しよ~」
そんなものに参加しない。
今日こそ断ってや……
「ゆきっちゃん、俺の持ってきた残骸の出所に気付いてるでしょ?それを扱ってしまったゆきっちゃんもバレるとここに居づらくなると思わない?」
「し、証拠は残してないから問題は……」
「俺がカメラを拾うときに見られてたかもしれないよ?そこから色々とバレるかもしれない。それに、アイドルのしずしずたんがこの店の近くに居るんでしょ?この店から離れたくないんじゃないの?」
「で、でも……」
「……仕方ないなぁ。
そういえば、ゆきっちゃんの部屋に店の帳簿が有ったよ。店にある帳簿と比べると少しだけ販促費等が少ない奴がね。あれ、なんだろうね~」
「ええっ、僕、そんなことやってない……」
「でも~ゆきっちゃんの署名と押印もあったし~」
まさか、と思って自分の部屋を漁ると本当に店の帳簿が有った。しかも、これは本物だった。つまり、店の方にある帳簿は偽者。二重帳簿だ。浮いたお金はどこに?
「俺は、今から花火大会兼清掃活動のボランティアに参加します。同志ゆきっちゃんもカンパしてくれたからもちろん仲間ですよ。ありがとう。とっても助かりました。やっぱり、社会人は学生と比べ物にならない経済力なんですね。ボランティア活動も募金もする同志ゆきっちゃんの清らかな心と同じ様に、この学校も少しはキレイになればいいな」
もう逃げられない。他の証拠も揃えられているだろう。バレないよう協力しないと僕は破滅だ。
「……な、何をすれば」
「この服と仮面被って、この二人乗りのバイクを運転してくれれば良いよ。これ地図ね」
「……分かった」
作戦説明のために渡された地図を見ると塗りつぶされている道と不規則に並ぶ×印が書き込まれている。特に大きく×印の書かれている地点には、最近やけに学校周辺にオープンしている複数のカメラ屋が有ったはずだ。
「よし、善は急げ、思い立ったが吉日です。このルートの各地点をこの時刻に通ります。電撃作戦だから何があっても停まらないで」
「……本当にこの計画でいいの?」
捕まりたくないからそんなことを訊く。
「同志ゆきっちゃん、戦闘機って空港、母艦に補給のため必ず戻る必要があるのは知ってるかな?」
「う、うん」
「なら、敵の戦闘機を破壊したいなら、どこで叩くのが効率的か分かるよね。わざわざ、空に上がった戦闘機を相手するなんて馬鹿馬鹿しいよね」
「ま、まぁ。とにかく、僕は何があっても停まらずにこのルートをバイクで走ればいいんだよね」
「理解してくれて良かったよ」
渡された白い服とT字型の仮面を被り、バイクに跨がると、後ろにセーラー服と仮面と変な小道具を装備した不審者が乗ってきた。
僕はそんな服渡してないけどどこで手に入れたんだろう。僕がセーラー服を見ていることに気付いた不審者が教えてくれた。
「あ、これいいでしょ。麻耶様コス。しずしずたんの服を分解して縫い直した自信作です。つまり、同志との共同作品ともいえます。材料提供ありがとね」
僕が苦労して集めた服が……少し泣きたくなる。
「ちょっと工事現場の音がするかもしれないけど、気絶しないように頑張ってね」
「は、はぁ」
バイクのエンジンをかけた後の記憶はない。僕はいつの間にか部屋にいて、不審者は僕に手を振りながら離れていくところだった。もちろん、不審者が拾得物と主張していたバイクはどこかに消えていた。
外を見ると、そこかしこで煙があがり、消防車が走り回っている。
今日はもう疲れたから寝よう。
なんであんなのに眼を付けられたんだろう。
利用され尽くして捨てられる未来しか見えない。
はぁ、不幸だ。