[安価]転生したらバスの中に居たんだけどどうしよう 作:原作未読マン
私は読書が趣味です。
読むジャンルもこだわりません。
新しい本を探すのも、古い本を読み返すのもどちらも好きです。
だから、毎日のように図書館に通いつめています。
でも、今日はなにかがおかしいです。
いつもなら気分良く開けている図書館の扉が、今日はなぜか嫌な雰囲気を放っていました。
どうしようかな。
そんなことを悩んだのは一瞬です。
自己主張の激しいCクラスの方たちは、あまり主張しない私と性格が合わないらしく、私を遠巻きにしています。だからといって私もCクラスの方たちと無理に合わせようと思いません。無理して付き合うよりは本を読んでいたいですから。
そういう事情により、私には一緒に遊ぶような友達が居ません。
つまり、他に予定も無いので嫌な雰囲気を無視して扉を開きました。
扉を開けて中に入ります。扉を開く音がやけに大きく感じます。
体調は悪くないはずなのに少しだけ頭痛がします。
それに人の声が聞こえないのに、不自然に騒がしいです。
周囲を見渡すと館内の人は全員机に突っ伏しています。
なにがおきているのでしょうか。
さらに中へと入っていくとますます頭痛が酷くなっていきます。
あ、1人だけ突っ伏していない私服の女の子がいました。
世界観に浸っているのか、本を両手で開いたまま固まっています。
本の題名は『虎よ、虎よ』SF好きの子なのでしょうか。あるいは復讐展開のある本が好きな子でしょうか。
読書仲間だったらいいなぁ、と思いながら声をかけてみます。
「読書中にすいません。もしかして貴女は、SF小説が好きですか」
ハッとしたように少女は顔を上げました。周囲をキョロキョロと見渡しています。
付近に誰も居ないことを確認した少女は、私を見ながら口を開きました。
「……」
あれ、耳がおかしくなったのかな。それとも少女の声が小さすぎるのかな。なにも聞こえません。
それに、ますます頭痛が酷くなっていきます。おもわず私は頭に手を持っていきました。
少女は、私の動きを見て何かに気付いたみたいです。
「……ァ……ァァ……アー……マイクチェック……本日天気明朗なれど波高し……これくらいかな」
何をしているんでしょうか。よくわかりませんが、ずいぶんと声が高い子です。
「あー、ちょっと今クールダウン中なのでこれが限界なのですが、聞こえますか。聞こえていたら、さっきあなたが発言した内容をもう一度言ってください。意識が飛んでいたので聴いてませんでしたから」
「あ、はい。貴女の持っている本のジャンルはSFの名作ですので、もしかしたら私と同じ様に読書が好きなのではないかと思って声をかけました」
少し変わった子なのでしょうか。ずいぶんと奇妙な表現を使っています。
それと、私が会話に集中し始めたせいなのか、頭痛が和らいでいます。
話の合う女友達は欲しいですし、会話していれば頭痛も紛れる。一石二鳥ですね。
少女は少し考えた後、物凄い勢いで本のページを捲り始めました。
同好の士が欲しいあまり、強引に行きすぎたかもしれません。
読書中に話しかけたせいで機嫌が悪いのでしょうか。私も読書の邪魔をされるのは嬉しくないです。軽率な行動をとってしまったかもしれないことに罪悪感を覚えます。
ようやく少女が口を開いてくれました。
「えーと……実は……唐突にSF作品に興味が湧きまして、有名な作品をまとめたサイトに書かれたあらすじを見たのですよ。そこで、この本がたまたま目に付いたので、手にとってみたのですが、まだ読み始めたばかりです。読書はこれから好きになっていけたらと考えていますので、出来れば先達に学びたいと考えていますので、色々とご指導頂けることが出来れば嬉しく思います」
意外と口数は多い人なのかな。少し固いけど、お嬢様とかそんな感じの人なのかな。そんな第一印象は、少女が続けた言葉によって即座に壊されました。
「エ?……コレイウノ……まぁ、いいか……ところで、私の読書中の信仰対象は胸部装甲なのですが、あなたの神はなんですか」
「えっ?」
「おや、読書中の神を知りませんか。ならば、胸部装甲の信仰を推奨しますよ。胸部装甲はとても良いものです。装甲が有ったことによって有利になったり、命が助かるケースもあります。あなたには十分な信仰力が備わっていることですし、この機会に信仰を始めてはいかがでしょうか」
何を言っているのか理解が出来ません。表情が変わっていないせいで冗談かどうかも分かりません。この人の胸は完全に平たいから、そうではない私に文句を言っているのかもしれません。
「え、えっと、遠慮しておきます……それに貴女もこれから……その……成長すると思うので悩まなくても良いと思いますよ。その件で心配事があるのなら保健室に行って相談してみてはどうでしょうか」
「断られてしまいましたか。まぁ、これで説教したことになるのでノルマは達成しました……なぜ保健室?保健室には以前に行きましたから必要ないです。あ、自己紹介がまだでしたね。名前は山田花子で、趣味はバスケです。メアリーと呼んでくれると嬉しいです。最近は料理や裁縫に凝っています。読書はこれから趣味にしていければと思っています」
あ、もう相談済みなんだ。結構行動力のある人ですね。それと、なぜメアリーなんでしょう。
「私は椎名ひよりと申します。ひよりとお呼び下さい。茶道部に所属しています。趣味は読書です。読書仲間が増えることは喜ばしいので、なにか分からないことがどんどんお聞きください。メアリーさんは、趣味がバスケとのことですが、バスケ部に所属しているのですか?」
「いいえ、新しい同好会を立ち上げてそこに所属しようと考えています。無理だったらどこか都合の良い部を乗っ取ります」
「はぁ、頑張って下さい」
やっぱり、独特な表現を多用する人ですね。既存のバスケ部の人とウマが合わなかったから新しい同好会を立ち上げるのでしょう。
それよりも本について話したいです。山田さん、ではなくてメアリーさんを読書仲間に引き込みたいです。
「あの、メアリーさん」
「あ、日和見ちゃん。お腹空いたなぁ。これじゃあ、話に集中出来ないなぁ。でも、手持ちが80ポイントしかないなぁ。どうしようかなぁ。」
「構いませんよ。それで同好の士が増えるなら安いものです」
「大天使日和見エル!」
メアリーさんが突然満面の笑顔を浮かべました。そんなに食べたかったのでしょうか。
「ところで、見ってなんでしょうか」
「み?なんのこと?」
「いえ、私の名前はひよりなのですが、貴女は日和見と呼んでいます。どのような理由で"見"がついたか気になりましてお訊きしています」
「大天使日和見エル。ネットリテラシーと言うものを習ったことがあるはずです」
「そうですね。中学までに習いました」
「ならば、実名を晒すことがどんなに危険なことか分かるはずです」
「え、でも、それはネット上の話でして、ここは現実の空間ですよ?」
「普段してないことを突然することは出来ないという言葉があります。実際、自分も一回同志の苗字を晒してしまったことがあります。誰にでもこういうことは起こり得るので、普段から気を付けて生活するべきです」
「あ、だからメアリーさんなんですか。しかし、現実社会でそれをしていては生活に支障が出ます」
「大天使日和見エル。あなたの意見も一理あります。しかし、現実社会での僅かな不便は、その瞬間の自身が恥をかくだけで済みます。一方で、ネット上への流出はもう2度と消すことは出来ない、取り返しのつかないものなのです……それと空腹なので早く何か食べたいです」
「あ、すいません。何が食べたいですか」
「サラダとフルーツです」
「あ、それならばおすすめの店が……」
「大天使日和見エル。奢っていただいてありがとうございます」
「どういたしまして。この後お時間は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。約束や契約というものは守るものです。お話しましょう」
「はい、それでは……」
別に約束していたわけではないのですが、私のお話に付き合ってくれるというならトコトン話させてもらいましょう。
は、もうこんな時間です。メアリーさんは絶妙なタイミングで相槌をくれる聞き上手だったのでついつい話し込んでしまいました。たまに、あんかはぜったいとかむーびーしーんはとばせないのかみたいな意味不明なことを呟いていましたが、こんなに長時間、ちゃんと話を聴いてくれるなんてとても嬉しいです。
「お気をつけてお帰りください」
「コクリ」
おすすめの本のリストを持たせたメアリーさんと別れます。メアリーさんは、ずっと同じ姿勢だったせいなのか、ずいぶんと機械的な動きをしています。
今日は、連絡先の交換を行い、最低でも月に1回はお話する約束を取り付けました。
また、今度お話する時が楽しみです。