[安価]転生したらバスの中に居たんだけどどうしよう 作:原作未読マン
俺は退屈していた。
2年生の掌握を終え、同学年の敵はいない。
当然のことながら、1年生では相手にならない。
唯一遊べる相手としては、堀北先輩が挙げられるが、保守的過ぎて自分から何かを起こすなんてことは考えられない。
何か仕掛けるか?
いや、俺が生徒会長になった後の計画を練っておいた方がいいか。
それとも、最近、多発している騒動の原因を探るべきか。
俺の計画の邪魔になるかもしれないから。
そんなことを考えていた俺の日常は急遽破られることになる。俺の考えていた真の実力主義の学校というイメージとともに。
ほんの少しだけ教室が揺れた。
運動中なら気付かないであろう程度の微震だった。
地震大国日本では日常茶飯事である。
問題は、その後、廊下からアンモニア臭が漂ってきたことである。
廊下を見ると原因が分かった。
発酵食品らしきものが散らばり、スプリンクラーから出た水が発酵食品をさらに拡散させていた。
落ちている発酵食品は、複数種類存在していた。
臭いだけならシュールストレミングのみで良いだろう。
ということは、襲撃犯は、そこまで金持ちではないのか?
しかし、今は襲撃犯について考えても仕方ない。
この校舎から避難するべきだ。
学内放送が入る。放送では生徒会長が全員の校庭への避難を呼びかけた。
その指示に従い、俺は2年生全員を校庭に避難させた。
あまりの悪臭に体調不良者が続出した。
一方で、途中のトイレは元気良く逆流して、俺達の嘔吐感を高めていた。
悪臭が酷い。
避難したことで臭いの発生源からは逃れられたが、悪臭漂う廊下を通ったことにより、制服に臭いが染み付いている。
消臭剤が欲しい。当然、他の生徒も欲しがる。
今、オークションをしたら、とんでもない高値になるだろう。
まあ、俺の権力なら確実に自分の分は手に入る。
今後の生徒会の対応や襲撃犯に関して考えた方が建設的か。
結局、その日の授業は中止になった。
今は、物々しい防護服を着た清掃員が校舎内を掃除している。
放射性廃棄物が発見されたらしく、校舎内立ち入り禁止と一時的な授業の停止が連絡された。
放射性廃棄物!?
直ちに健康被害が出るほどの汚染はないが、危険なことにかわりはないため、校舎自体を建て替えるらしい。
メールは、今後の授業のスケジュールや場所の変更が続けられていた。一部の授業は屋外になるらしい。
考えてみたが、今回の襲撃の意図が分からない。
学校の機能を停止させたいなら、放射性廃棄物だけで十分だ。
汚水の逆流も発酵食品のバラマキも手間とコストがかかるだけである。
何かの警告か?メッセージか?
生徒への被害を与えたいなら、放射性廃棄物を隠したままで良い。そもそも、放射性廃棄物を調達出来るならば、学校ごと爆破した方が、確実で手っ取り早い。
手間をかけた割に殺意が低い。
襲撃犯は誰で、何を目的としている?
コンコンコンと部屋をノックする音が聴こえる。
襲撃犯について考えている時に誰だ。
少し不機嫌になりつつ扉を開ける。
不審者が立っていた。
この学校では極めて有名な不審者だ。
見た瞬間頭痛がしてきた。
そのまま扉を閉めたくなるが、一応問い掛ける。
「何の用だ」
「職員室の方から来ました。少しお話がありまして……」
「少し待て、部屋を整理する」
一度扉を閉める。
このタイミングで来たということは何か知っているのか?
職員室の方から来たということは教員からの伝言でも持っているのか?
そんなことを考えつつ、部屋の中にある複数の機器を起動させた。
そして扉を開ける。
「よし、入って良いぞ」
「はい、失礼します。おお、実に素晴らしい部屋です」
「その席に座れ」
「……ありがとうございます」
不審者が席に座った。金属探知機の反応は無し。
不審者が口を開く。
「それでは、改めまして、部屋の中にお招きいただき誠にありがとうございます。1年Dクラスに所属する山田花子と申す者でございます。本日は、大変お日柄に恵まれまして、まさに屋外活動に絶好の日和となっています。さらに、屋内はパワースポットとなっており、アウトドア活動、インドア活動ともに、何かをするには絶好の機会となっています。もしも、報道陣がこの学校内に居るとすれば、学校の予算ぜんぶ抜く番組を……」
「ご託は良いから、何の用か簡潔に話せ。誰か教員の伝言を持っているのではないか?」
すぐに話に入らないのは俺の反応を見ているのか?
いくらなんでも初歩的すぎる。やはり、1年生ではこんなものか。
「いいえ、職員室の方向から来ただけで、伝言を預かっているわけではありません。それでは、本題に入らせていただきます。南雲先輩、あなたはこれから天に立つお方です」
こいつ、面倒なやつだ。
「抽象的な表現をやめろ。今の俺は次期生徒会長の最有力候補に過ぎない」
「それで、現会長の踏襲ではなく、より積極的に生徒の実力を付けさせるという方針を行う予定とか……」
「そうだな。現会長の方針はぬるすぎる。俺はこの学校を真の実力主義の学校に変えていく」
「なるほど。とても素晴らしい方針です。現会長の方針では、学校こそ卒業出来たけど、実社会には適応出来なかったなんてことが考えられますからね。それでは、この学校の存在意義が無いです。その点、あなたの方針は素晴らしい。ダメな人は切っていくことで実力のあるものだけが残る」
この流れだと俺の方針の欠点の指摘が来るな。そして、それを補う提案も。
「それで?」
「あなたの方針は実に素晴らしいですが、働き蟻の法則をご存じですか」
「もちろんだとも。それがこの学校で起こると言いたいのか」
「はい。人間は社会性のある動物です。集団をつくらなければ生存出来ない以上、その法則からは逃れられません」
「だが、人間には感情がある。それを制御すれば全員が良く働く働き蟻になれる可能性もある」
「やはり、あなたは素晴らしい。それで、どのような方法で人間の感情を制御するのですか。そう都合良く制御するのは困難だと思うのですが……」
「飴と鞭だ」
「え?必要ですか?」
「それなら、お前はどういう方法を考えている?」
「例えばトップアスリートは食事・訓練・睡眠などの管理を行って力を効率良く身に付けて行きます」
「そうだな」
「ええ、生活リズムそのものまで細かく管理を行うのが最も効率の良いトレーニング方法なんです。そして、それはスポーツだけでなく、勉学にも当てはまります」
「まさか」
「人間のあらゆる活動の完全な管理こそ実力を身に付け、現代社会に最適化された人材を育成する最も効率の良い方法です。だから、人間の感情なんて要りません。当然飴も鞭も不要です」
「お前は人権を……」
「実力を付ける効率のみを考えるならあなたのやり方ではぬるいと言いたいのです。学校を変えたいならもっと大きく、宇宙くらい見据える気持ちでいてください。あなたなら出来ると信じています。なにしろ、今の自分の目ですら宇宙を向いているのですから、自分より優秀なあなたが出来ないはずがありません」
「ふざけるな。それで現代社会に適応出来るか!」
「まぁ、そうですね。それも一理あります。では、ロマンチックな話は止めて現実的な話に移りましょう。今回の事故が起きたことについて生徒会に責任をとってもらいたい」
「は?どういうことだ?それに生徒会への要望なら会長が受け付けると思うが」
「現会長は3年生です。いざとなったら、引き継ぎを理由に逃げられます。それと、考えが保守的過ぎて今から言う要望が通るわけがありません。革命を掲げるあなたを見込んでの要望です」
「何を要望するか知らないが、今回、生徒会の落ち度は全く無いと断言できる」
「ダメですよ。それでは実社会で通用しません。下が問題を起こして、上は下のしていたことをまったく知らなかったとしても、上には監督責任があります。大きな方針の決定と問題が起きた時に責任を取る。この2つが上の仕事です。もしかして、生徒会は、その責任すら放棄するのですか?権利には義務が伴います。その義務を果たさないというなら、不信任を出すしかありません」
「規則にそのような文面は無い」
「ほら、そこです。実力主義を謳い、社会で本当に役に立つ人材の育成を目的にしていながら、社会と乖離している甘い規則は良くないと思います。そういう聖域を残すからダメなんです。聖域無き改革をしていくべきだと思いませんか?」
「……」
うざい。クレーマーじゃないか。
「どうですか?あなたはこの学校を上から塗り替えていく。自分は土台から変えていくというのは?」
「話にならないな」
「振られましたか。それでは話を戻します。
責任の追及よりもしなければならないことがあります。それは、今後の対策です。猿や烏でさえ、同じ過ちを2回繰り返さない。今後の対策を考えなければ、知的生命体を名乗る資格などありません。
今回の事故は、生徒会に仕事が一極集中していたために起きたと推測できます。だから、風紀委員や美化委員のような組織を新設して、仕事の負担を減らしてはどうかと提案します。風紀委員がいれば、不審な行動をしている人物を見つけられたかもしれない。美化委員がいればトイレの詰まりや発酵食品に事前に気付けたかもしれない。取れる対策はしていくべきとは思いませんか?」
お前が不審者だろうと言いたいのを我慢する。
「それに責任も分散できますので生徒会のみが悪いとはなりません。仕事と権限と責任の分散、多頭政治になる可能性もありますが、そこはバランス調整していけば良い。幸いにも現代社会には、三権分立が成立している国があります。お手本には困りません」
「お前の提案は分かった。一理あるとは思うから生徒会で議題に挙げさせてもらおう」
「検討していただきありがとうございます。慎重になるのも分かります。組織を新設した際、真っ先にやるべきことは組織内の粛清ですから」
「ん?」
「え?粛清しないのですか」
「内部調査は組織の人員を決定する時に終わっているだろう?」
「粛清に当てはまる者がいなくてもするのが粛清です」
「何を言っている?」
「実社会で行われていることです」
「メリットが無い。やはり、お前の意見は人間の感情を無視しすぎているようだ」
「そうかもしれません。人間の感情へ配慮していたら効率が落ちますから。衆愚政治にもなります」
「生徒会は生徒の総意に基づいて運営されている。衆愚にならないように生徒を制御するのは、生徒会の役割だ。お前が指摘しなくても分かっている」
「政府も国民の総意に基づいていますし、ポピュリズムやら薔薇色の未来なんかにつられた結果、衆愚に陥いりました。それすら、制御しようというならディストピア一直線なのですが……話が通じません。これだから中途半端な資本主義は……」
ブツブツと何か呟いている。ボイスレコーダーで拾えていれば良いのだが。
「話は終わりか」
「今回の犯人は10代~20代、もしくは30代~40代、または50代以上の人物です。日本人あるいは外国人の男性もしくは女性で、計画的な犯行あるいは突発的な犯行の可能性もあります」
「何も絞れていない。話が無いようなので帰……」
「ところで、先輩方は消臭剤や芳香剤を必要としていないですか?仲介料は払いますので仲介してくれるとありがたいです」
「まさかお前」
今までの行為は嫌がらせで、これが本題か。
おそらく、在庫ごと買い占めているだろう。
「ねずみ講の提案では無いですよ。1人1本だけしか売りませんし、あなた以外に仲介料は払いませんから。
いやー、たまたま、ほんとたまたま、消臭剤を衝動買いしちゃったんですよ。泣く泣く捨てる予定だったんですけど、運良く、いえ、運悪くですね、こんな事故が起きてしまいましてね。自分にも欲というものがございまして……なにしろ金は命より重いですし、あと数週間生徒の大多数が臭うままというのもちょっと嫌なものです。あ、ご興味が無いようならそう言ってくだされば構いません。先生にお願いしますから」
「……良いだろう。だが、価格交渉はしない」
「いえいえ、構いませんとも。ありがとうございます。これを機に学内オークションを定期的に行うとかは面白そうですね。人身売買にまで発展するかも含めて。あ、そういえば、監視カメラについて何かご存じですか?」
「最近なぜか、急に無くなっていたな。それ以外知らない。何か知っているのか?」
「いえ、ただ、監視カメラの完全体が衛星カメラだとしたら、監視カメラの究極体って衆人監視社会ではないですか。真の実力主義を掲げるなら必須のシステムですし、生徒会副会長なら何かご存じかなと」
「そんな計画は聞いたことがない」
「そうですか。ありがとうございます」
不審者の言葉は話半分に聞いた方が良い。どうせ嫌がらせだ。
それにしても、恩を売り付けたつもりか。
それとも俺がどこまで学内を掌握しているかを調べるつもりか。
だが、金で動くのなら扱いやすい。
少なくとも今までの正体不明感は無くなった。
契約書を書き、今夜、指定場所に来るように言って別れた。それまでにわずかに感じる頭痛も無くなるだろう。
後ろを向いて部屋の扉に手をかけた不審者に声をかける。
「お前が犯人か?」
不審者はゆっくりとこちらを向き、部屋に入ってきた時から全く変わらない笑顔のまま、首を傾げた。
「犯人?何のドラマのネタですか?すいません。詳しく無いものでして」
「この事件の犯人だ」
「事件?多分事故だと思うのですが。そもそも、あなたと同じく、光の勢力の最先端に位置するこの山田花子が悪いことをするわけが無いですよ。ほら、今日の気分で選んだこのハンカチも光属性みたいな色です」
「……そうか」
「ご理解いただけたようで何よりです」
ハンカチは黄色かった。そして、洋菓子の1種に見える刺繍がしてあった。
不審者がこの建物内から出ていったことを確認した後、俺はカメラとボイスレコーダーを再生した。しかし、すべて初期化または破壊されていた。金属探知機も壊れている。どうやって壊したのか分からない。磁石か?
やはり、奴は真っ黒だ。おそらく、この事件に関わっている。というより、ほとんどの不審な事件に関わっていることだろう。だが、毎回証拠不十分で釈放される。今回こそ見つかってくれれば良いが……
待てよ。もし、奴が主犯だとしたら……
どうやって放射性廃棄物を用意した?
どこかのスパイか?
もしかしたら、実力至上主義の成れの果ての姿があの不審者なのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
いや、弱気になるな。
1年生にも油断ならない奴がいると分かった。
退屈では無くなったことを喜ぼう。
たとえ、誰に邪魔されようとも、俺は俺の道を行く。
それが、この学校に革命を起こす次期生徒会長、南雲雅だ。
教員視点
今年に入ってから何かがおかしい。
事件が多すぎる。
プール騒動、図書館事変、校内監視カメラの消失、カメラ専門店への襲撃事件とその度に会議が開かれている。給料増やしてください。
特にカメラの消失は、各クラスの評価を困難にさせ、学校運営に支障が出ている。
可動式の監視カメラ、特に空中からの撮影が可能な監視カメラ搭載型ドローンの導入は、監視カメラ消失対策になると考えられたが、納入前のカメラ専門店を襲撃されたのは痛かった。男女2人組の捜索は続いているが、完全に空振りに終わっている。何か前提条件が違うのだろうか?
ともあれ、今回の事件はそういう次元では無い。完全なテロ行為、その中でも特に危険なものだ。犯人も分かっていないため、校内にテロリストが潜んでいる可能性もある。生徒または教員の中にテロリストの内通者がいる可能性も高い。
前日に警備システムが切られ、非常電源も外されていたこと、発酵食品や下水管の詰まりなど工作した場所が非常に多いこと、そして何より放射性廃棄物の存在により、かなり大規模な犯行グループが関わっていると推測される。
新校舎設立はあっさりと決まった。
そして、重大な宣言がなされた。
「軍事衛星を用いた監視カメラの導入により、学内監視網の再形成を行う。さらに、生徒の健康管理を目的としたウェアラブル端末の導入も視野に入れている」
テロ行為を受けて、ついに、学校、いや政府が本気を出してきた。危険手当ては出してくれないようですが……