穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

11 / 83
テンション上がったんで深夜アップっす。

サブタイどおり、ようやくエンリが女神官らしい活躍をします。
……女神官の仕事ってなんだっけ?(迫真






第11話:”プリエステス・エンリ”

 

 

 

『《マス・スライト・キュアウーンズ/集団軽傷治癒》』

 

ロンデス・ディ・クランプの意識が戻ったとき聞こえたのは、そんな呪文を発動した声だった。

七色に鈍く輝く不思議な色合いの金属でできたワンドを掲げ、見知らぬ神官服姿の少女が放ったのはおそらく治癒の魔法。

 

もっともこれは個々にかける第1位階の《ライト・ヒーリング/軽傷治癒》を範囲魔法にしたようなものなので、重傷と言ってよいロンデスの怪我を完治するほどの効果はない。

 

というより手に入れた生き残りの馬と捕虜をまとめて治療しようと言う言わば手抜きの技なので、エンリはこれで駄目なら個々に治癒魔法を重ねがけするか、バレアレ商店謹製のポーションを頭からかけようと思っていた。

赤いポーション?

勿体無いのでこのぐらいじゃ使いませんとも。

 

 

 

とはいえこの処置でもロンデスの傷はとりあえず塞がり、一命は取り留めたようだ。

エンリ的には最も重要な馬の治癒だが……こちらは元々人間より矢が集中してなかったためほぼ全快していた。

一部、足を骨折していた馬もいたはずなのだが……問題なく立ち上がっているようだ。

 

エンリはよしよしと馬の頬を撫でる。

馬は興奮する様子もなく非常に大人しいが、どこか怯えたような目でエンリを見ていたのはきっと気のせいであろう。

 

「あれ? 目が覚めたんですか?」

 

矢は抜かれ、おざなりではあるが軽い止血の後に治癒魔法をかけられたのだろう。

板の上に寝かされた上半身を起こすと、目に入った血が滲んだ包帯の白さがやけに眩しい。

 

「ここ……は?」

 

「塀の内側、あなた達が襲ったカルネ村ですよ」

 

その少女はにこりと笑い、

 

「意識が戻ったら早速聞きたいんですが……あなた達は何者ですか?」

 

「……バハルス帝国、特務作戦隊だ」

 

とっさにカバーストーリーを言えた自分を褒めてやりたいロンデスだったが、神官服の少女はつまらなそうな顔で、

 

「えいっ♪ 《チャームパーソン/人間種魅了》」

 

 

 

「あ、あれ?」

 

ロンデスは悩む。

俺は、何でこの少女に嘘をつこうとしたんだ?と。

 

「私はエンリ、あなたの命を救った普通の村娘です。兵隊さん、あなたはどこのどなたですか?」

 

マッチポンプも甚だしい上に「お前のような普通の村娘がいてたまるかっ!!」とツッコミたくなるセリフをしれっと告げるエンリだったが、ロンデスはそこになんの不自然さも感じず、

 

「あっ、ああ、そうだったな。命を助けてくれてありがとう。俺は、いや私はロンデス・ディ・クランプ。スレイン法国の兵士だ」

 

「なんで法国の兵士が、帝国兵の振りをして村を襲ったんです? ここは”死の神”様を奉じる村ですよ? スレイン法国の六大神信仰の中にも死の神はいますよね?」

 

厳密にはカルネ村で信奉される”死の神(モモンガ)”とスレイン法国の”死の神(スルシャーナ)”は全くの別人、いや()()なのだが、あえて誤認させておくのもカルネ村の生存戦略の一つだった。

故にモモンガの名は決して村の外の者には語らない。必ずモモンガと言う個人名ではなく死の神という名詞を表現を使うのだ。

蛇足ながらキーノが表立ってその信仰対象、モモンガのようなシンボライズがなされないのは本人の強い希望によるものらしい。

 

「私だって襲いたくなんてなかった。そもそもカルネ村は襲撃リストに載ってなかったんだ。俺は止める様に言ったが、ベリュースのクソ野郎が勝手にっ!!」

 

「落ち着いてください。ロンデスさんの本意じゃなかったことは理解できましたから」

 

慈愛に包まれた笑顔にほっと安堵の息を漏らすアンデス。

『もしかしてこの娘は村の聖女かなんかなのか?』と的に当たってるんだか外れてるんだか微妙な事を考えていた。

 

「質問を変えますね? どうやら襲撃リストに従い、他の開拓村も襲ってたようですが……どうしてです?」

 

「ある存在を誘引するためだ。その存在の名は聞いていないが……」

 

「いないが?」

 

「想像はつく」

 

「なるほど……誰です?」

 

「王国戦士長”ガゼフ・ストロノーフ”」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

その後、いくつかの質問を重ねた後……

 

「大体状況は把握できました。ありがとうございます」

 

「役に立ったのなら何よりだ」

 

親しげにそう返すロンデスにエンリは微笑み、

 

「まだ怪我は完治していませんので、もう少し寝ていたほうがいいでしょう」

 

「ああ、そうだな。すまない」

 

「《スリープ/睡眠》」

 

酷い眠気に襲われ、再び意識を手放したロンデス……その寝顔はどこまでも安らかだった。

エンリは笑みを消すとゴブリンにそのままロンデスを縄で拘束するように命じ、

 

(彼ら先遣隊は所詮、戦士長をおびき出すための囮……ならば、)

 

「それをしとめるための本命の部隊がどこかに存在してるってことね」

 

そして現在、ガゼフとその配下を追尾してるのだろう。

ゴブリン・ライダーの伝令が再び村に駆け込んでと報告が入ったのは、そのすぐ後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
モモンガ様の教育の賜物か、意外と魔法が得意な姐さんでした(^^

それにしてもロンデス君、無事に……とはいかなくとも、エサになることは免れたようです。

ただ、この先どうなるかは未定。順当ならガゼフに引き渡しになるはずだけど、一悶着ありそうな予感?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。