穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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ガゼフとその愉快な仲間達はカルネ村にたどり着きますが……どうにも空気が(笑

あっ、それといつも誤字報告ありがとうございます。




第14話:”戸惑いのガゼフ”

 

 

 

「……これは一体どういう状況だ?」

 

ガゼフ・ストロノーフは思わず唖然としてしまう。

控えめに言って城砦にしか見えない正門は固く閉じられ、その門前には”拒馬(移動式の簡易馬防柵)”が敷設され中に『武装しただけの村民』と証するには、本格的過ぎる装備を施した者達が物々しい雰囲気を発しながら機敏に動いていた。

正直に言えば王国軍の正規兵よりもはるかに練度が高そうであり、可能なら部下にスカウトしたいほどだ。

 

そして、その中央に立つのは”少々露出過多の白い神官服に身を包んだ少女”だった。

 

「王国戦士団、戦士長”ガゼフ・ストロノーフ”殿とお見受けします。相違ないですか?」

 

落ち着いた声……大声を出してるようには見えないが、距離の割には声がやけによく聞こえる。

もしかしたら、声になんらかの魔法をかけてるのかもしれない。

 

「そうだ! 私がリ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフだっ!! 貴殿の名を聞かせてもらえぬか!?」

 

逆にそのような魔法が使えるわけもないガゼフは、乱暴にならないように注意しながら大声で返すと、

 

「私はカルネ村神官、エンリ・エモットと申します。ここは王国第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ殿下の直轄領、カルネ村です。どのような御用向きでしょうか?」

 

「近隣の開拓村が、帝国兵と思われる兵の集団に次々と襲われている! それに対する追撃任務だっ! カルネ村はどうなっているっ!?」

 

「ああ、なるほど……それでしたら既にカルネ村は襲撃を受けています」

 

「なっ!?」

 

さらりと返された少女、エンリの言葉に絶句するガゼフ……そして同時にこの物々しい警戒態勢に納得してしまった。

 

(我々はまた間に合わなかったのか……)

 

「すまぬ。我々はどうやら間に合わなかったようだ……」

 

無力感に苛まれそうになるが、だがその少女はにっこり笑いながら謝罪を中断させた。

 

「ご安心ください。御覧のとおり村は無事です。”()()”は全て撃退しました」

 

まあ、エンリにしてみればそもそも村の自衛は村人が行うもの、自分たちの義務だ。だからこそこの10年、少しずつでも防衛力を可能な限り強化してきた。

良くも悪くも王国への帰属意識が低いカルネ村、戦士長を含めても王国将兵が自分たちを攻めることはあっても守ってくれるなど欠片ほども思っていない。

 

「はっ?」

 

エンリの言葉の意味が理解できず、思わずぽかんとするガゼフに少女は笑みを濃くし、

 

「詳細をお話しましょう。一人しか生き残りはいませんが捕虜も引き渡しますので、どうぞ村の中にお入りください」

 

だが、少女の目は笑っておらず……

 

「ああ、門を潜る前に下馬をお願いしますね? 何分、襲撃を受けたばかりですので御配慮ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来客用、普段は村の出入り商人が馬車馬を繋ぐ厩に軍馬を繋ぎ、徒歩で村の広場に向かったガゼフとその部下達。

本来、この手の対応は村長が行うのが普通だが、どうやらここでは女神官がその役割を担うらしい。

そしてガゼフが見たのは、

 

「うーむ……これは?」

 

置かれた板に簀巻きにされ寝転がされている男……その寝顔はひどく、状況に不釣合いなほど安らかだった。

 

「ただ魔法で眠ってもらってるだけですよ。彼の名はロンデス・ディ・クランプ、今回襲撃してきた騎馬隊の副隊長だそうです。帝国兵に偽装していましたが、れっきとした法国の正規軍人です」

 

「なんとっ!? エモット殿、それは本当か!?」

 

「エンリで結構です。ええ。魔法で確かめましたので。抵抗(レジスト)された様子もないので間違いないと思いますよ?」

 

「何故、法国兵がわざわざ帝国兵になりすまし、開拓村を襲っていたんだ……?」

 

するとエンリはすっと目を細め、

 

「『村々を襲撃すれば、討伐に出てくるだろう”とある存在”を誘引するため』だそうです。戦士長殿、心当たりは?」

 

「……言いたくはないが、いやと言うほど思い当たる()()があるな」

 

ガゼフは考える。

おそらくは自分を誘引し、抹殺するのが目的だろう。

貴族たちの横槍を考えれば、あの者達が一枚噛んでいるのは間違いない。

いや、貴族派の者達は国王派でも最大戦力である自分を疎ましく思っているのは理解できるし、排除したいと考えるのもわかるが……

 

(だが、法国が積極的に動く理由はなんだ? 連中の性質から考えれば、貴族派に金で雇われたというのは考えにくい……)

 

 

 

状況を深く考え、精査したいとこだが……どうやらその時間はガゼフには与えられなかったようだ。

 

「エンリ」

 

「あっ、デイバーノックさん。どうしました?」

 

ふと声の方向を見れば、そこに居たのは魔法詠唱者らしい男だった。

全身を見るからに上質そうなローブを纏い、腕には細緻な細工が施された銀色のガントレットを装着。顔には”泣いてるようにも怒ってるようにも見える奇妙な仮面”をつけていた。

 

「また伝令が来た。ネムがお前が言うところの”本命”を発見。追尾を開始するそうだ」

 

 

 

そのセリフを聞くなり、エンリは確かに笑った。

それは10代の少女が浮かべるにはあまりに獰猛なそれであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

当然のように現村長より偉いエンリが、ガゼフお出迎えの回でした(^^
原作と同じようで違う展開、果たしてエンリは何を笑うのか?

ちなみにデイバーさんがスカルフェイスを隠すため装着してるのは当然”嫉妬マスク”、偉大すぎる師匠から貰ったお古で、これをつけてるとデイバーさんはご機嫌です(なお、モモンガ様はそのマスクの意味を教えてない模様
あのシーンのオマージュです(笑






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