『法国ト思ワレル敵対集団、かるね村ニ接近ス』
再びゴブリン・ライダーの伝令がネムから届くと、エンリは獰猛な笑みを浮かべた。
ガゼフは思う。ラナーといいエンリといい、どうして私は年端もいかぬのに凄みのある笑みが似合う少女と縁ができてしまうのだろうと……
「どうやら戦士長殿の命を狙う本命の部隊が到着したようですね?」
「クッ!」
ガゼフは歯噛みしながら部下達に向き直り、
「全員、出撃準備!」
ガゼフにも戦士長としての矜持がある。
襲撃部隊に結局カルネ村でも追いつけず、事実上の追撃失敗。
加えて今度はおそらく、いや十中八九自分を狙ってきた部隊だと言うのだ。
これ以上失態を晒すわけには、そして王国の民を巻き込むわけにはいかない。
だが、それは哀しいほどカルネ村の住民達との意識の差があった。
「どこへ行かれるつもりですか?」
ひどく抑揚のない声でエンリが口を開いた。
「無論、村外で刺客たちを迎撃するために……」
『それはお勧めできませんな』
☆☆☆
「それはお勧めできませんな」
ふとバリトンの柔らかい男性の声が響いた……
”カツーン……カツーン……カツーン”
綺麗に整備された村内の石畳の道に足音を響かせ、その男は現れた。
(こ、これは……)
ガゼフが最初に感じたのは、物理的な圧力を感じるほどの強者の気配。
漆黒の重厚なフルプレートの鎧に包み、背には堂々たる大剣”イテン”を背負い、左腰にはレイピアのような鋭き細剣”セイコウ”を差し、右腰には投擲用と思われる短剣が複数並んでいた。
真紅のマントを羽織りヘルムはなく、その素顔は自分よりなお黒い髪を短くまとめ、瞳は深いアメジスト色……歳の頃は自分と同じくらいだろうか?
顔立ちは確かに整っているが、美と言うより精悍さが正面に出てしまっている。
ガゼフはそれが”数多の修羅場を潜り抜けてきた、
そして首から下がる、彼には不似合いな安っぽい……だが、妙に見覚えがあるプレートが実は全ての冒険者の憧れであるアダマンタイト級冒険者のプレートだということに気がついたとき、ガゼフは軽く驚いた。
圧倒的な存在感……その男の登場と同時に空気の質が変わった。
ガゼフとその部下達は呑まれ、村人たちは恭しく頭を下げる。
カルネ村の住人達はよく理解していたのだ。
語義どおり受肉し、生の人の姿で顕現する……ましてや村外の人間の前に姿を現すのであれば、それは村人の信仰と信奉と敬愛を一身に集める”
なので跪かない。内心で何を思おうと、神で無きその身に跪くことは許されない。
まるで水を打ったように静まり返る空気の中で、
「あ、貴方は……?」
「これは失礼、戦士長殿」
彼は穏やかな光を瞳に宿し、告げる。
「我が名は”
☆☆☆
(ダークウォリアー卿……噂どおりカルネ村に住んで、いやそもそも
その名は冒険者にさほど明るくないガゼフだって知っていた。
二人にまつわるエピソードは、まるで現実感のない御伽噺のような物語だった。
ダークウォリアーとその妻”イビルアイ”。
曰く『史上最強の冒険者』。
二人にこれといったチーム名はない。それは一人でアダマンタイト級冒険者1チームに匹敵する能力があり、単体で大抵の事は解決してしまえるからだと伝えられている。
そして他に二つあるアダマンタイト級冒険者チームと違い、王国での活動実績はほぼない。
では、どこで彼らはアダマンタイト級となったのか?
その答えはただ一つ。
”ドラウディロン・オーリウクルス”女王が率いる『竜王国』……それがダークウィリアーとイビルアイが、冒険者としてその名を轟かせた地の名であった。
読んでいただきありがとうございます。
いや~、ようやく”ダークウォリアー”卿を登場させることができました(^^
そう、このシリーズにおいてモモンガ様が手に入れた能力、”完全なる人化”で得られた受肉した人間としての肉体、その一つがこの”ダークウォリアー”です。
モモンでもモモン・ザ・ダークウォリアーでもなく、ダークウォリアーなのはやはり”原作とは違う在り方”ですので。
あとキーノが仮面をかぶり活動するときは相変わらず”イビルアイ”を名乗ってるので合わせたのかもしれません。
仲睦まじい……のもそうですが、中二夫婦?
見かけだけでもかなり違い、あのフルプレート・メイルは同じですが、ヘルム無しでなおかつ武器も違います。
他にも大きな違いがありますが……それはいずれ作中で書ければいいなーと。