穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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モモンガ様改めダークウォリアー卿のちょっとした過去が語られます。
ついでにビーストマンの設定にちょこちょこ捏造が(^^

ダークウォリアーの主武装である背中の大剣”イテン”と腰の細剣”セイコウ”の元ネタは、三国志演義の曹操の剣ですね。
ただ、デザイン的には三国無双4ないし5あたりのイメージでお願いします。




第16話:”ビースト・スレイヤーズ”

 

 

 

現れた男の名は、竜王国においては「漆黒の剣聖」と名高い”ダークウォリアー”。

妻といわれる”仮面の大魔導師・イビルアイ”共々、比喩でなく伝説的存在……識者曰く「史上最強の冒険者」。

カルネ村に在住してるとされていたが、それはあくまで信憑性の低い噂話とされていた。そんな超英雄級の存在が、辺境の開拓村に居を構えるはずないと。

いや、それどころか実存を危ぶむ者すら王国では少なくない。

何しろ、王国での活動実績がほとんどない……いや、表立って出ている話は皆無と言っていいかもしれない。

 

では、どこで、あるいはどうやって彼らは冒険者の頂点……アダマンタイト級となったのか?

答えは、”ドラウディロン・オーリウクルス”女王が率いる『竜王国』だ。

竜王国である以上、その活躍は一つだけだ。

 

こと竜王国において、特定のチーム名を持たぬ二人は特別な二つ名で呼ばれることとなった。

そう、

 

獣の天敵たる者達(ビースト・スレイヤーズ)

 

竜王国史上において、この二つ名を冠するのはこの二人のみだ。

数年前にアダマンタイト級になったセラブレイト率いる竜王国冒険者チーム”クリスタル・ティア”もこの名で呼ばれることはないし、この先もおそらくないだろう。

それほどまでにこの二人は飛び抜けていたのだ。

 

王国では同じく信憑性は薄いとされているが……この二人は20年以上前から、毎年のようにやってくるビーストマンの大規模襲来、いわゆる”肉食獣の大遠征(プレデター・キャラバン)”に合わせてふらりと竜王国にやってきては、その度に夥しい数のビーストマンを屠ってきたらしい。

その衰えを知らぬ戦いっぷりから、竜王国ではダークウォリアーとイビルアイの二人は女王と同じく竜の血を引いていると思われていた。故に長命なのだと。

他にも「フールーダと同じく長寿の魔法を使った」、「いやいや、不死の呪いをかけられた」だのと諸説ある。

 

曰く、「ダークウォリアー卿が剣を振るうたびに一太刀で10のビーストマンが切り伏せられ、ただ1度の戦いで1000を超えるビーストマンが切り捨てられた」

 

曰く、「イビルアイ様が一度魔法を放てば、100を超えるビーストマンが物言わぬ骸となった」

 

などその逸話は多い。彼らが瞬く間にアダマンタイト級に駆け上がったのも当然だろう。

おそらく、ガゼフもその逸話のいくつかは知っているはずだ。

だからこそ”卿”をつけるのだろう。

 

だが、何を思ったかは不明だが、二人がカルネ村に移り住んだとされるのが約10年前だと言われている。

また、それに際して王国と竜王国との間で政治的取引があったとされるが……それも定かではない。

 

今のところはっきりしているのは、ダークウォリアーとイビルアイが住み着いて以後のカルネ村では、徴兵対象となる成人男性を中心に徴兵対策と思われる冒険者登録するものが増え、現在は白金級冒険者チーム……同時に全ての国の冒険者組合で見ても史上最大数チームとして知られる”カルネ村修道会”として活動していること。

また、二人が今でも『ビーストマンの間引き』で竜王国に遠征していることなどが知られている。

 

ただ、ダークウォリアーとイビルアイは専属契約の案件しか受けないとされていて、前出の通り王国での活動実績は表向きはない……それどころか一番近い城塞都市エ・ランテルの冒険者組合でも見た者がいないとされ、その存在すら懐疑的だった。

ガゼフ自身、ダークウォリアーが王女の名代を務めてるなど初めて聞いたぐらいだ。

 

 

 

その伝説の片割れが眼前にいる……穏やかな雰囲気の男性だが、その身にまとう空気に隙はなく強者ゆえの風格を醸し出している。

ガゼフは、その男が名乗るダークウォリアーという名を疑うことすら出来なかった。

 

「状況は把握していますが……戦士長殿、現状村外に出られるのは得策ではないでしょう」

 

「……なぜです?」

 

「少々報告が気になり、魔道具で確認しました。確かにこの村を目指して走り来る騎馬の一団があります」

 

とダークウォリアーは一呼吸置き、

 

「私の知識が間違っていないのであれば、今から来るのはスレイン法国の”陽光聖典”……天使の召喚術を使う手合いですな」

 

そして気圧されたままになっているガゼフの部下を見やり、

 

「貴殿らの装備では相性が悪すぎる」

 

ざっぱりと切り捨てた。

 

「だが! しかし!」

 

「まあ、落ち着いてください」

 

漆黒の偉丈夫、ダークウォリアーは手で落ち着くように促し、

 

「ここはラナー王女の直轄領、私はその名代……戦士長殿、何故我々が通常の開拓村にあるまじき高い自衛装備を持っているか、持つことを許されているかわかりますか?」

 

「……それは」

 

「私は貴族ではなく、ここにいる者達も皆そうだ。だが、確かに強者側ではある。平民から王国戦士長まで上り詰めた貴殿のようにね」

 

「つまり、この村……いや、この地の守護を委託されてる、と?」

 

「ええ」

 

ダークウォリアーは鷹揚に頷き、

 

「無論、私が名代なのも含め公にではありませんが。できれば、このことは内密に願います。王国の、特に貴族派の貴族たちに知られれば面倒になります故」

 

「心得た」

 

その面倒さに合点がいったガゼフは頷き返した。

 

 

 

「話を続けますが、我々はラナー王女よりこの地を託された守護者。なので今回の一件、我らが受け持ちましょう」

 

「いや、しかし……」

 

「戦士長殿、誤解のないように言っておきますが、これは我々の善意ではありません。責務の話をしているのです。貴殿が討伐を命じられたように、我々もこの地を守護せし義務がある」

 

「だが、卿も言っていただろう? 相手は法国の誇る六大聖典が一つ、陽光聖典だと」

 

「それがどうしましたか?」

 

「なっ!?」

 

絶句するガゼフに、

 

「今回の件、どうやら戦士長殿の暗殺を目論む物……であるならば、逆に言えば貴殿以外の兵力は考慮してないでしょう。それに戦士長殿、貴殿の装備は万全とは言いがたいのでは? 誰による策謀かはあえて気づかないふりをしますが」

 

無言のガゼフにダークウォリアーは思慮深い瞳で、

 

「であるならば、我々なら十分に勝機はある。万全ではない戦士長なら楽に屠れると奢る者達に、一体どこに足を踏み入れたのか……それを体に教えるのも一興かと思いませんか?」

 

「ダークウォリアー卿……」

 

そして柔らかく微笑み、

 

「死ぬとわかっていながら、みすみす王の忠臣を死地へ送り出すなど、カルネ村の名折れなのですよ。貴殿はここで死なすには惜しい漢だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

中の人(?)はモモンガ様なダークウォリアー卿、意外と弁が立ちます(^^
これはこのシリーズでは「既に捨てた名」である鈴木悟さん時代の営業スキルに加え、この世界に来て結構な年月が経ち、旅をし多くの出会いがあったが故でしょう。

そのキーノを連れた流浪時代から今の今まで続いてるイベントが”ビーストマンの間引き”ですが、一応ちゃんと理由があるみたいですよ?



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