穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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せっかくの週末、本日二本目いっきまーす。
今回はサブタイに偽りなく派手っす。




第21話:”着火!!”

 

 

 

「今、貴方は言いましたよね? ”ガゼフ殿を差し出せば、村は焼かないでおいてやる”と。それはつまり、ガゼフ殿を差し出さないなら、村を焼くという意味ですか?」

 

エンリにとり、『実際に陽光聖典()()()が村を焼けるかどうか』が問題ではなかった。

上から目線の発言も別にそこまで気にしない。

何しろ、そのセリフだけで万死に値するのだから。

 

「そ、そうだ! 我らとて遊びで来てるのではぬぁい! ガゼフの首を取らず帰れるものかっ!!」

 

 

エンリを左右から挟むように立っていたゼロとデイバーノックは、身長差の関係からエンリの頭上で顔を見合わせた。

そして二人は悟った。「あっ、こりゃアカン奴だ」と……

この娘、時折過激だったり常識を置き忘れていたりするような部分もあるが、普段(非戦闘時とも言う)は割と温厚だ。多分。

だが、その中身はとんでもない激情家で、特に付き合いが自分たちより長いせいかモモンガ、キーノ、カルネ村関連の失言での心理的導火線の着火率の高さとその短さには定評がある。

 

エンリの体から濛々と立ち込める”()()”は、どことなくダークウォリアー……否。彼女が主神と崇めるモモンガが得意とする”絶望のオーラ”に似ていた。

流石は自他共に認める死の神に仕えし女神官と言うところか?

 

「フフッ……フフフッ……そうですか。死の神様が安住の地と定めたカルネ村を焼くと言いますか……」

 

彼女は奇妙な笑い声を納めるとエンリはカッと刮目し、

 

「交渉決裂! Ordina la canna che mostra pace ed ordina(平和と秩序の象徴『司教杖』を展開)! 目覚めなさい、”蓮の杖”!!」

 

そのワンドを掲げた。

”蓮の杖”、あるいは”ロータスワンド”。

七色に鈍く輝く不思議な金属で出来た、先端に花の蕾のような装飾が施された杖だった。

だが、エンリの声と同時に蓮の杖は、その名の由来となった本来の姿を取り戻す。

金属で出来ているはずの蕾がほころび、見事な満開の蓮の花を咲かせると同時に杖全体を12色の色に激しく輝かせた!

 

「《マス・ターゲティング/集団標的》、《マキシマイズ・マジック/魔法最強化》! 咲き誇れ《ロータス・フェイズバレット/蓮の不可視弾》!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ニグンは眼前で起きた現象を理解できずにいた。

エンリが交渉決裂を宣言すると同時に杖が輝きだし、その美しさに一瞬目を奪われた。

だが、その直後……

 

「なっ!?」

 

俄かには信じられない不可思議な現象、召喚した全ての天使が同時に砕け散るという異常事態が起きた。

何が起こったのか、何をされたのか……理解が追いつかない。辛うじてわかるのは「エンリが何かをやった」ことくらいか?

隊員が呼び出した特殊能力を持たない”炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)”ならまだしも、自分が召喚したより上位の天使”監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)”までも一撃で砕け散ったのだ。

付け加えるなら、”監視の権天使”は味方の防御力を引き上げる特殊能力を持っている上、ニグン自身も『自ら召喚した天使を強化する固有異能(タレント)』を持っているのにも関わらずに……

 

ニグンは知らない。

多目標同時ロックオンで放たれた、その最強化された不可視/無属性の空間座標魔力攻撃は”不可視の魔力弾”を叩きこむのではなく”破壊術式を対象に直接投射する”タイプ、蓮の杖を触媒とした物理的な防御は事実上不可能な特殊攻撃魔法であった。

そしてその天使一体につき与えられた威力は、モモンガが最強化と三重化をかけた《マジック・アロー/魔法の矢》に匹敵する。

そしてエンリは()()()に天使だけを狙った。

初撃で全てを終わらすのは惜しいと思ったから。

それになんだかんだと言いながら、彼女は妹思いの”良い姉”なのだ。

 

だが、ニグンはそれらの答えや事情を知ることはないだろう。

なぜなら、

 

『武技”ごーだんれっぱ(鋼断裂破)”!!』

 

彼に残された時間はあまりに短かったのだから。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

その光景を第三者的な視点から見ればこうなるだろう。

何の前触れもなく陽光聖典の右斜め後方の草原がザザッとざわめき、巨大な”何か”が砲弾のような勢いで飛び出した。

その背に乗る小さな影から、

 

「武技”ごーだんれっぱ(鋼断裂破)”!!」

 

並の人間では反応できない速度で放たれた斧戟の一振り……

 

斬っ!!

 

武技により威力を高められ宣言通り鋼塊すら断ち裂く一撃は、ニグンを()()()()()切り分けたのだった。

 

”ドンッ!”

 

()くでござるよ! 《能力向上》《要塞》《不落要塞》《剛撃》!!」

 

ニグンを屠った勢いを殺さず四肢でしっかり大地を踏みしめる赤い具足を纏った魔獣と、

 

「ネムだって負けないよぉ~♪ 《のーりょくこーじょー(能力向上)》《そくおーはんしゃ(即応反射)》《りゅーすいかそく(流水加速)》《りょーいき(領域)》!!」

 

きわどいあるいはあざといデザインのレザービスチェ・ライトアーマーに身を包み、対の浮遊十文字盾を従え大きな戟を握る幼女は、

 

「武技《尾鋭鞭斬剣(びえいべんざんけん)》!!」

 

「武技《えんざんれっぷーせん(円斬烈風閃)》!!」

 

蓄えた凶悪な威力を開放する!!

 

 

 

”ビュオン!!”

”ヒュバン!!”

 

刹那、どこぞの空間斬という大袈裟な二つ名持ちの使うウルミのようでありながら、その実10倍以上は軽く威力がある鞭の柔軟性と剣の鋭さと硬さを併せ持たせたハムスケの尻尾が5名の隊員の胴を防具ごと寸断し、ネムの人間の動体視力では捉えられぬほどまで加速された蒼天画戟の刃が間合いにいた3人の首を一薙ぎで跳ね飛ばした!!

 

隊長が既にこの世にいないことを自覚できぬまま棒立ちする陽光聖典に、

 

「”カルネ村七星剣”が一匹、”聖獣”ハムスケ!」

 

「同じく”カルネ村七星剣”が一人、ネム・”狂戦士(ジ・ベルセルク)”・エモット!!」

 

「「ここに推参っ!!」」

 

 

 

盛大にかつ華々しく見得(みえ)を切るっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

いや~、エモット姉妹とハムスケに全部美味しいとこもってかれた感が半端ねぇっす(笑

というかカルネ村の住人、モモンガ様&キーノ嬢の影響力ガガガ……カルネ村全域に中二病、パンデミック中? 中二ハザード?

なんかラキュースが居つきそうな村だこと(^^




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