「端的に言ってしまえば、主に政治的な理由で戦士長殿の手に余る……そういうことです」
カルネ村に住むと噂されていた伝説的……というより王国では都市伝説や幻扱いされているアダマンタイト級冒険者、ダークウォリアーから王国戦士長ガゼフ・ストロノーフに提案されたのは、村の近郊で文字通り全滅
蛇足ながらイビルアイとネムを撫でていた手は既に頭から離されていた。
イビルアイは仮面のしたで名残惜しそうな顔をしながらも大人しくしているが、ネムはいつの間にか姿を消していた。
戦闘で火照った幼い肢体を、頭とはいえ狂おしいほど愛している男に弄られたのだ……どこで何をしているのかは『お察しください』ということだろう。
幼いということは理性も自制も未熟であってもなんらおかしいことはなく、同時にネムは情欲に忠実な自分の性格も素直な反応を示しよく濡れる自分の肢体を気に入っていた。
「先ほども言いましたが、こう見えても私はラナー王女より名代を任されています。なので戦士長殿を取り巻く政治的事情もある程度は理解しているつもりですが、」
そしてダークウォリアーはちらりとガゼフを見やり、
「僭越ながら……本来、装備すべき装備の装着を許されぬまま出陣させられたのでは? 理由はおそらく、貴族派貴族の横槍というところですかね」
「……慧眼、恐れ入ります」
「いえ。戦士長殿を疎ましく思う勢力の筆頭と言えば彼らでしょうから、褒めいただくには及びません。ですが……お気づきですか? 戦士長殿は政治的にはかなり厄介な立場に立たされている状態なんですよ」
「というと?」
「物言わぬ死体、まさに『死人に口無し』の状態ではありますが、装備や人相から彼らが陽光聖典であることは明白。ならば死体の状態でも十分に証拠になります。そう、貴族派貴族と法国上層部が内通していたという、ね」
空気が重くなる……そう、ガゼフ自身も正直、自分でどうにか解決できる許容量を越えていることは薄々自覚していた。
だが、他者から口に出されると事態の重さが双肩にかかる気がする。
元平民の彼は、『剣と自分を取り立ててくれた王への忠義があればよし』というスタンスから宮廷政治には深入りしてこなかった。王の剣には、伏魔殿での政治的駆け引きは無用と。
そして今、そのツケを支払わされてる気分になっていた。
「ただでさえ六大貴族の中にも帝国と内通してるものがいる現状、この上法国の繋がりまで暴露された場合の貴族たち、特に貴族派の俗物たちがどのような暴挙に出るか想像できますか?」
「ダークウォリアー卿、それはっ!!」
過ぎた言葉は寿命を縮めさせることは、さしものガゼフだって知っている。
伊達に王宮へ出仕してはいないのだ。
「ここはカルネ村。不穏な目も耳もありません。あえて私の発言が漏れるとすれば、戦士長殿の部下でしょうが……そのような者に心当たりが?」
「そのような者はおらん!」
部下を信頼する、いや部下を信用していたいが為の力強い否定に、ダークウォリアーは「甘い男だ。だが、良い漢でもある」と好意的な物を感じていた。
愚直さは、それも強さの一つであるとこの男は考える。
「そうですか。なら、問題ないはずです……ところで戦士長殿は自分が貴族に疎まれる自覚はおありのようだが、その理由まで想像できますか?」
「平民上がりの私が王の覚えがめでたいのが気に入らず、また貴族派にとっては国王派の主戦力である私が疎ましいのだろうと思ってるが……」
ダークウォリアーは難しい顔で腕を組み、
「……嫉妬と王の剣という立場、確かにその認識は間違ってはいない。ですが法国、それも六色聖典の一つが動くほどの事態はどう説明つけます? 陽光聖典は紛いなりにも法国の切り札の一枚、軽々しく投入していい戦力じゃない」
「それは貴族派の貴族が法国上層部に依頼を、」
「それはありえない」
ダークウォリアーはぴしゃりとガゼフの言葉を途中で否定する。
「しかし、ダークウォリアー卿は貴族派貴族と法国上層部が内通していたと」
「確かにそう発言しました。そして”
ダークウォリアーはスッと目を細め、
「事実は逆ではないかと愚考しますよ」
「……どういう意味です?」
「元々、法国には戦士長殿を抹殺する計画があった……そして、王国の貴族派達は戦士長殿に向ける唾棄すべき感情を上手く利用された。私はそう考えますが?」
読んでいただきありがとうございます。
モモンガ様が妙に頭が切れるのは元々の資質もあるのでしょうが、並みの人間より長い時間を骨と人の姿、人の目とオーバーロードの視点でこの世界を生きてきたってことも大きいんだと思います。
カルネ村に来る前はずっとキーノと旅をしていたわけだし、きっと色々経験したんでしょう(^^
少しずつでも過去のエピソードを入れていければいな~と。