穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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ガゼフとの会話イベント、その後半って感じです。




第25話:”妥当な落とし所”

 

 

 

「元々、法国には戦士長殿を抹殺する計画があった……そして、王国の貴族派達は戦士長殿に向ける唾棄すべき感情を上手く利用された。私はそう考えますが?」

 

中の人ならぬ中の骨がモモンガであるダークウォリアーは語る。

「ガゼフ・ストロノーフ暗殺未遂事件」の首謀者は、王国の貴族派貴族ではなくスレイン法国上層部だったのではないか、と。

 

そしてダークウォリアーは、さりげなく結界型の消音魔法をかける。

そう、イビルアイ(キーノ)が得意な《サイレンス/静寂》だ。

ここから先は、信頼度云々以前にガゼフの部下が聞いていい話でも聞かせていい話でもない。

 

「論拠は、簡単です。要するに力関係なんですよ。国力から考えても純粋な武力から考えても、人類最強なのは法国でしょう。そんな彼らが、”人類至上主義”を標榜する彼らが『人類国家の失敗作』である王国、それもその中で最も堕落した層と看做している王国貴族に精鋭部隊を貸すメリットも理由も言われも無い」

 

「ちょ、ちょっとお持ちをっ!? 『人類国家の失敗作』とはなんのことです!?」

 

するとダークウォリアーはひどく冷めた目で、

 

「リ・エステーゼ王国の誕生は、王国民の意思や初代国王の偉大さだけと言うわけではないんですよ。建国には法国の『肥沃な土地で人類の安全地帯を確保したい』という意思が強くかかわっている」

 

「バカなっ!!」

 

否定したい……あるいは王国戦士長という立場が言わせた言葉だったのだろうか?

 

「残念ながら事実です。詳細を話すと長くなるので、ラナー王女にでも聞いてください。あの()はただ愛らしいだけでなく私よりずっと聡明で、歴史の造詣が深く、説明も上手い。戦士長殿の疑問をわかりやすく答えてくれるでしょう」

 

本人が聞いたら狂喜乱舞し、その勢いのままベッドに引き摺り込みそうな発言をするダークウォリアー(モモンガ)だ。

それにしてもガゼフはやはり政治的には疎い。

あえてダークウォリアーは、「ただの領主と名代ではありえない”()()()()()()()”」を発言に混ぜてみたのだが、それに気づく様子は無かった。

 

(判ってはいたが、この男に政治的駆け引きの才覚は期待するだけ無駄か……)

 

落胆はしない。だが、同時に「自分がもう少し、単純武力ではなく政治的に意味のある存在」と自覚すべきだとも思う。

以前、ベッドの中で幼さの残る肢体を白濁に染めた、あられもない姿のラナーから聞いた言葉が脳裏に浮かんだ。

 

(いずれランポッサより装備や部下ごと譲り受けたいと言っていたが……)

 

このままではひどく無防備で危なっかしい。

 

(まあ、ラナーのことだから上手くやるだろうが)

 

ダークウォリアーは思考を切り替え、

 

「だが、今は話が進まないので『そういうものだ』と納得していただきたい」

 

不承不承と言う顔のガゼフを確認しつつ、

 

「だが、王国は法国の期待を裏切り、堕落の一途を辿っている。もはや人類の安息の地などではなく害悪」

 

それはカルネ村の内部においては常識であった。

少なくともカルネ村では「王国や貴族にとって都合の悪い情報や事実」が周知され、それが王国への帰属意識の低さの一因となっていた。

 

「その象徴ともいえる貴族の依頼を、法国が受けると言うのはかなり考えにくいんですよ。だから、むしろ法国に『戦士長殿の抹殺』ありきの作戦がまず存在し、貴族達が利用された……そう考えた方が自然なんですよ」

 

 

 

ガゼフは押し黙ってしまう。

淡々と、ただ事実のみを並べるようなダークウォリアーの言葉には、否定しようとしてもそうできぬ重さと真実味があった。

そしてガゼフは、反論できるほどの材料(情報)を持ち合わせてはいなかった。

 

正直に言えば……腸に直接手を入れられ捻られるような不快感はあった。だが、それは「ただ王の剣であればよい」と政治、国際情勢と言うものを無視してきた自分が甘んじて受け入れなければならない感覚だと言うことも理解していた。

 

「ダークウォリアー卿は、どうすべきと考えるのでしょう?」

 

「ロンデスのみを証拠品として王都に連れ帰るのが一番でしょう。陽光聖典のことを貴族たちのいる御前報告では語るべきではない」

 

ダークウォリアーは断定的に言い切り、

 

「『不十分な装備にも関わらず、辺境の村々を襲う不逞の輩を、戦士長殿とその一団が裁きを受けさせるために連れ帰った』……それが無駄に波風を立てない”()()()()()()()”というものです」

 

「し、しかし……!」

 

「『戦士団は陽光聖典と接触していない。その姿も確認していない』。ほら? 嘘は言ってないじゃないですか?」

 

「……それは詭弁と言うものでは?」

 

「詭弁? 違いますね」

 

ダークウォリアーは良い笑顔で、

 

「これが政治というものですよ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「一つだけ……これは興味本位でお聞きしたいのですが」

 

「かまいませんよ」

 

ガゼフは徐に、

 

「回収した陽光聖典の遺体はどうするので?」

 

「ああ、これですか?」

 

ダークウォリアーは居並ぶ安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)を見やり、

 

「有効利用できそうな人物に()()があります」

 

『厳密には人じゃありませんが』と心の中だけで付け加えておく。

 

「お任せください。悪いようにはしない」

 

「……多分私は、承諾するしかないのだろう。口惜しいが……」

 

「その矜持は心地よいものですがね……戦士長殿、帰ったら王の御前で報告する前に、ラナー王女と話してみるといい」

 

彼は言葉の目線を少し上げ、

 

「きっと貴方が足りないものを、色々気づかせてくれるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

うん。さらっとラナー様を食べてた(あるいはラナーに食べられてた?)ことを明かすモモンガ様(^^
しかし主に性的に捕食するより捕食されるイメージの方がしっくり来るお骨様です。

王国樹立にまつわる謎を知ってしまったガゼフ……そして、ラナーの近衛就任ルートが発生しました(笑
いや、でも政治音痴なガゼフの場合、近衛ルートに入ると王国は詰むけど本人は色々長生きできそうなんだよな~。知と武そろうし。
それにラキュースとはまた違う使い勝手がありそうです。







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