穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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とりあえずお金の話とか出てきます(^^
リグリットって悪戯好きだけどしっかり者のイメージで、商人スキルもこっそり取ってそう。


第35話:”過去篇I・異世界講義、お金と仕事の話”

 

 

 

モモンガの今後の方針について、一応の合意点に達したツアーとリグリット。

 

「まず、人の街の中で指輪を外してはならんぞ。街だけでなく人前でもじゃ。この世界はボンが生きていたユグドラシルよりもアンデッドに対しては厳しい。人間にとってほぼほぼアンデッドは人を襲うものという認識が確定しとる」

 

「なるほど……よりシビアな世界観なんですね?」

 

と答えるのは、指輪で受肉した状態に戻ったモモンガだった。話し合いが終わったために呼び戻されたらしい。

ちなみに骨→人への変化による装備転換だが、いわゆる”早着替え”に人化時の装備を登録していたため素っ裸(すっぱ)でリグリットの前に立つ羽目にならずに済んだようだ。

 

それにしても、全身鎧姿の青年がちゃぶ台で老婆にレクチャーを受けてる姿はかなりシュールだ。

ちなみにこの手の学習機材(?)は、全てモモンガが謎空間から引っ張り出した。

 

「まあの。その辺は仕方ないと諦めてくれ。さて、人に完全に化けれるのはいいとして……次に必要なのは”人としての()()()()かの?」

 

「立ち位置?」

 

「そうじゃ」

 

リグリットは鷹揚に頷き、

 

「人である以上は飯を食う。飯を食う以上は金が要る。金がいるなら働かねばならんのが道理じゃろ? 人として生活するなら、まずそういう基盤が必定じゃ。ボン、おそらくユグドラシルの金はたんまりもってるじゃろ?」

 

「え~と……ユグドラシル金貨であれば」

 

坊主(ボン)、それは努々(ゆめゆめ)使うでないぞ? ユグドラシル金貨はこの世界の一般的に流通してる各国の金貨より金の含有量が多く、その価値は凡そ2倍。しかもこの世界の冶金技術では量産が難しい細緻な細工が施され、磨耗や欠損を防ぐための硬化魔法など様々な魔化がされておる。見る者が見れば一発で出所が疑われるわい」

 

 

 

これは各国の造幣担当部署が、金をケチってるというだけではない。

純金はとても柔らかい金属で、一説には「同じ厚さの人間の親指の爪程度の硬さ」と評されているほどだ。

人の手から手へと渡り、また同種の硬貨とまとめられ、宝箱や皮袋に詰め込まれることも多い硬貨(コイン)。そんな荒っぽい扱いがされるのに、柔らかい純金をふんだんに金貨に使ったらあっという間に傷だらけになり磨耗し、硬貨として意味を成さなくなってしまう。

さらに純金は「柔らかすぎて」すぐに変形してしまうため逆に加工が難しいというのもある。

現実世界でも細工物は純金である24金より、金が75%で残る25%が他の金属である18金の方が細工物に使われる事が多いのは、何もグラム単価の安さだけに限った話じゃない。

また金は鉱山で産出される場合は不純物を含有している場合が多く、純金を効率的に生み出すのは電解精錬など、魔法があるとはいえこの世界ではかなり敷居が高い精錬技術が必要になってくるのだ。

 

どうやらこの世界において商業系スキルや練金系スキルも手慰みで覚えたらしいリグリットは、そのあたりも妙に詳しそうだが……この世界の流通金貨は21.6金~22金(金の含有率が90~91.67%)が多数派で、現実世界に置き換えれば実際に流通貨幣として用いられていたナポレオン金貨やソブリン金貨と同等だ。原材料費と冶金/精錬などの製造コストと使用に耐える強度を考慮すれば、実用硬貨として極めて妥当な選択だろう。

要するに金の含有量が少なければ少ないほど価値は下がるが硬くなり、磨耗が少なく貨幣として扱いやすくなる。

 

だが対してユグドラシル金貨は24金、つまり純金の硬貨だ。厳密に言えば現実世界で純金、24金とは純度99.99%以上の金の含有をさす物のことであり、対してユグドラシル金貨は元はデータ上に存在していだけのことはあり、現実には難しい本当に100%金オンリーという違いがある。

しかも魔化による硬化処理やら何やらが施されていることになっている。そして高純度なだけでなくコイン自体も直径も大きく厚みもよりあるので、総じて金の含有量は2倍、美術品的価値を除く地金型金貨的な価値でも2倍となるのだ。

 

 

 

「それに一番の問題は、忌々しいスレイン法国がユグドラシル金貨を”()()()()()”ということじゃ。ボン、あいつらの手はヌシが考えているよりずっと長い」

 

リグリットは一度言葉を切るとツアーを見た。彼が頷くのを確認してから、

 

()()()()にプレイヤーの存在を勘付かれるのは極力避けるのが得策じゃ。もし勘付かれたら面倒じゃ済まんぞ? 連中は保護の名目で手段を選ばずボンを取り込もうとするじゃろう。そしてそれが叶わぬと判断すれば……」

 

「消される……ですか? スルシャーナのように」

 

「そうじゃな。あるいはスルシャーナのように、じゃ」

 

モモンガの背に控えてるため、彼はツアーの顔を見ることはなかった。

ツアーにとり幸いだろう。なぜなら、そのモモンガの返しに彼はとても満足そうな顔をしていたのだから。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「人の波間に紛れるなら、人のように振舞うのが最適じゃ。この世界の現地の金を稼ぐのは、その第一歩と心得よ。稼ぐ手段を見つければ、必然的にそれに見合った立ち位置、社会的地位が手に入る」

 

「リグリットさん……その、俺に向いている仕事ってなんでしょう? リアルでは営業とかやってたんですが……」

 

「営業というと売り込みじゃな? う~ん……確かに商業系クラスは取れるじゃろうが、ボンは商人をやりたいのかえ?」

 

「いえ。できれば戦闘職、それも前衛系のクラスをとりたいです」

 

リグリットは腕を組み、

 

「ならば一番手っ取り早いのは、冒険者か傭兵じゃな。あるいは護衛と言う商売もあるが……どれも難があると言えばあるのう」

 

「どういう意味ですか?」

 

「冒険者というのは各国に冒険者組合と言う一種の冒険者ギルドがあってのう、そこに登録し仕事を斡旋してもらいのじゃが……」

 

「す、すごい! まさにファンタジー系RPGの王道じゃないですかっ!?」

 

「とぉ~ころがギッチョンじゃ。これが結構に曲者での。原則……いや、建前として冒険者は国家間の諍いには不干渉で、徴兵も制度的に免除なんじゃが、どうしても登録した組合に縛られてしまうんじゃよ。しかも組合というのは国ごと、地域ごとに良くも悪くも特色がある。ワシの個人的な意見じゃが、ボンがある程度この世界に慣れ、見る目を養ってから自分の水に合う組合に登録するのが得策じゃと思う」

 

リグリットは小さく苦笑し、

 

「それにほれ、ボンの事情は少々特殊じゃろ?」

 

 

 

「すると後は傭兵と護衛ですか……」

 

「どっちも信用商売と言えばその通りじゃからなぁ。その信用をどうやって得るかじゃ。それにボンは人を躊躇いなく斬れるかのう?」

 

「うっ……」

 

それは何気に重い問題だった。

確かにユグドラシルの中でなら、モモンガは人を屠った事はある。それもごまんとだ。

わずか41人で1500人の人間種プレイヤーを返り討ちにしたこともあるが……それはあくまでゲームの中での話、当たり前だが鈴木悟としてリアルで殺人などしたことはない。

 

「あ~、それについては私から一つ提案があるんだけど」

 

「なんじゃツアー? オヌシの娼()にでもなれというのかのう?」

 

「君もそのネタ好きだね」

 

ギョッとするモモンガにツアーは苦笑し、

 

「いやそうじゃなくてね。モモンガ、この世界の見聞を広めることを兼ねて、アーグランド評議国評議会の”調査員(エージェント)”をやってみる気はないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

いや~、一度「ナザリック金貨が現地の金貨の価値の2倍」とか「安易に使えない理由」とかの設定を掘り下げてみたかったんですよね~(^^
金貨って調べてみると存外面白いです。

そして、法国への不信感をさらに煽った後ツアーは露骨にスカウト。
ツアー:「評議国でモモンガを飼い殺しにする気は無いけど、看板背負ってもらうのはいいよね?」

みたいな感じです。

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