穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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二日連続の深夜アップと相成りました(^^
サブタイの元ネタが判る人が、果たして何人いるだろうか?(汗
さて、今回からラナーとガゼフが主役……というか、基本二人しか出てないショートシリーズの開始です。

今回はなんというか、”先生”の中の人、いや中の骨がかなり()()なので、先生も先生なら生徒も生徒って感じの話っす。

あとラストにラナーのスペックシート付。







第39話:”ラナー無双篇・マジカルプリンセスがホーリーアップですわ♪”

 

 

 

外周1400m、12の巨大な円塔が防衛網を形成し、城壁によって囲まれている王城ロ・レンテ。

その中には奇妙な建物がある。

外観はさほどおかしいという訳ではなく、むしろ周囲に風景に溶け込むような離宮……その離れその物が勉強部屋名目で建てられたリ・エスティーゼ王国第三王女ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフのプライベートルームだった。

 

普段、先生と呼ばれる人物と父親以外の殿方が訪れることはないこの空間に、今日はどちらかと言えば珍しい類の訪問者があった。

その客の名はガゼフ・ストロノーフ、王国戦士長である。

 

「なるほど……ダークウォリアー()がそのような事を」

 

貴族趣味に加えて少女趣味全開に見える内装にインテリアの数々、だが実は巧妙に偽装されたマジックアイテムやギミックの巣窟たるこの空間に、なぜガゼフは訪れたのか?

 

まあ、実は訪れること自体は問題はない。

紛いなりにもガゼフは王の側近中の側近であり、建前的には「王族の護衛」という名目で登城が許されているからだ。

立場的にはこの離宮の真相も知らずに幾度となく来ている元貴族の冒険者ヴァージンスノウ嬢より上なのである。

 

だが、当然何の理由もなく無骨者である自覚のあるガゼフが進んでこの場所へ足を運ぶことはない。

しかし、今日は特別だった。

 

「ラナー王女、本当なのですか? 王国が法国の意向で建国されたというのは……?」

 

するとラナー曰く「頭のよろしくないからこそ価値のある貴族たち」が間者に送り込んできたが、とっくに先生から貰った魔法のハンドベルで《ドミネート/支配》をかけ、便利な道具に成り下がったメイドたちに紅茶を用意させたラナーは、ティーカップを傾けながらクスクス笑い、

 

「見かけによらずストロノーフ様は可愛げのある方ですのね? 見直しましたわ」

 

「ど、どういう意味でしょうか?」

 

相手は敬愛すべき王族(ただし王子は除く)ではあるが自分の半分ほどの年齢の娘にからかうような視線を向けられ、思わずドギマギしてしまう中年剣士だったが、

 

「だってそうでしょう? 今更、その程度のことを気にするのですもの」

 

「今更? その程度?」

 

ギョッとするガゼフにそのリアクションが気に入ったラナーは、ちょっとだけ茶目っ気を出し、

 

「このまま会話を続けるのは吝かではありませんが……ちょっとまどろっこしいですわね? せっかくこうして顔を合わせてるのですから。えいっ♪ 《チャームパーソン/人間種魅了》♪」

 

「はうっ!?」

 

いきなり魅了の魔法をかけられ、さっきと違う意味でドキドキしてしまうガゼフ。

今まで礼儀として保っていた心の距離、いや間合いを強引に詰められ、心の防壁が突き崩され中から親しみが染み出すような感覚……現代人なら堤防やダムの決壊に例えるだろうか?

 

だが溢れ出る”()()()()()()()”にガゼフは頭を振り飲み込まれないように注意する。

 

「これは驚きました。不完全とはいえ、アイテムもなく精神力だけで抵抗(レジスト)してみせるとは。流石はお父様の見込んだ王国戦士長ということでしょうか?」

 

「ラナー王女……何を……何故、私に魔法を……?」

 

「だって仲良くなりたかったんですもの♪ クライムを預かってもらうという縁ができてから、いい加減時間も経ちますし、貴方もダークウォリアー様との知己も得た。ね? いい加減、わたくし達がもっと親しくなってもいい頃合だと思いません?」

 

「……しかし……」

 

ガゼフは一人でこの離宮に乗り込んできたことを後悔していた。

見かけはどんなに乙女チックでも、ここは魔窟……いや、小さな魔王城だったのだ。

というか王女が魔法を使うなんて聞いていない!!

 

そして今更だが……ラナーの言う未だ名の出てこない先生は、間違いなくこの世界屈指の魔法使いで、ついでに赤い宝玉仕込んだ立派な骨格と立派なマーラ様を持っているのだろう。

つまり、彼女はキーノ達同様にある男の『一つは骨で二つは人間の、《三つある全ての姿》を知っている』数少ない人物の一人なのだ。

 

「まあまあ。これからは込み入った話になりますし、肩の力を抜きましょう? ねっ、()()()()()♪」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「まず重要案件を話す前に、この私の勉強部屋と取り巻く環境について説明しておきますね?」

 

「は、はあ……」

 

何か色々諦めたような顔をしている王国戦士長がそこにいた。不屈の漢には似つかわしくない表情だが、相手が自ら仕える王族なのだから仕方ないという心境だろうか?

それにいけ好かない王子じゃないし。

 

「建物自体にも部屋ごとにも《サイレンス/静寂》が常時展開されている完全防音なので、よほど強力な魔法を使われない限り声が外に漏れることはありません。また盗聴だけでなく覗き見なんかの他の感知魔法を使われた場合も含めて《アラーム/警報》が鳴り、対抗魔法(カウンターマジック)が起動しますので問題ありません」

 

ちなみにこれも水晶の置物に偽装したアイテムに組み込まれた、一種の攻性防壁が常時展開されているのであるが……ラナーのイメージもあるのでモモンガのそれのように凝りまくった凶悪な代物ではない。

精々、レイスやらゴーストやらハイ・レイスやらが仕掛けた術者の元にまとめて召喚、わざと対象を逃げさせて消える瞬間までよってたかって追い掛け回すというラナーらしい悪戯心に溢れた可愛らしい(?)術式だ。

これを仕込んだ先生とやらによると、

 

『名づけて攻性防壁(弱)術式《ハロウィン・ナイト/亡霊の馬鹿騒ぎ》という感じかな?』

 

 

 

「またここのメイドたちは貴族たちのひも付き……ですが、永続性の《ドミネート/支配》をかけていますわ。ただ、それでも魔法が解けた場合に記憶が残りますので、同じく永続性の《メモリージャミング/認識阻害》を重ねがけしています。具体的には、メイドたちはガゼフ隊長が来たと言う大雑把な情報は記憶できても、何が話されていたかまでは覚えられません。例え真横で聞いていたとしても、意味のないあやふやな情報として認識されますから」

 

「何やら難解ですな」

 

少しは砕けた雰囲気になってきたガゼフに彼女は微笑み、

 

「まあ、そういう魔法だと思ってください。こういう場合は、先生曰く『深く考えたら負け』だそうですわ♪」

 

「なるほど、真理だ」

 

「更に今は人払いの魔法をかけているので、何重に安全ですわ♪ どんな話をしようとも、ね」

 

ラナーは慣れていた、というより手馴れていた。行動にいちいち卒が無い。

まあ、思う存分乱れてもいいように、先生が来るたびにいたしてるのだから当然かもしれないが。

 

「さて、ガゼフ隊長がお聞きになりたいのは、」

 

ラナーにっこり微笑み、

 

「他人の国に勝手に期待し勝手に失望した独りよがりのお馬鹿な宗教国家と、安寧を耽溺するあまりに危機感ないまま屋台骨まで腐り果て、もう崩壊の秒読みに入ってる救いようのない我が国にまつわる”()()”でしたわね?」

 

その言葉はどこまでも辛辣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ

種族:人間(ヴァイセルフ王家第三王女)

自称:黄金姫、黄金(水)姫、先生の愛弟子、先生の最愛の教え子、先生の妃、先生の愛犬etcetc……

職業(クラス)Lv

プリンセス:Lv5

バトル・プリンセス:Lv3

アクトレス(ジーニアス):Lv5

クィーン:Lv1

知恵者(ワイズマン)(ジーニアス):Lv5

策士(ジーニアス):Lv5

ウィザード:Lv3

魔女(ウィッチ):Lv3

軽戦士(フェンサー):Lv2

ソードダンサー:Lv2

総合Lv34

固有異能(タレント):思考加速と擬似並列思考(マルチタスク)

 

特殊装備

魔法のサーベル(名称現在不明。拵えは装飾剣/儀礼剣っぽい華美な物)、フェアリー・ダガーズ(ロングスカートの下、ガーダーベルトに装着されるいつも携行してる護身用短剣。外からそうと見えない隠し武器「おいきなさい。わたくしの妖精たち」)、他にも両手のブレスレットにバングル、チョーカー、サークレット、リング、アンクレット等々様々な「装身具に見えるマジックアイテム」があるようだ。無論、これら「いつもは会えないし、そばにずっと居れる訳でもないから護身具代わりに使いなさい」と先生からのもらい物。身内にはとことん甘く、過保護なお骨様である。

 

特記:素でも《フライ/飛行》で飛べるが、飛行の時は箒ではなく専用のフライングボードを愛用(箒と同じくウィッチのクラス補正が入る)したりする。

割とお転婆だが、それを隠す気はあまりないようだ。姫様らしいことをしない/興味を示さないため、原作と違い周囲(特に次兄)の評価は「化物」ではなく「係わり合いになりたくない変人」に落ち着いている。

 

備考

”先生”に言わせると、初めて会ったときには既に『プリンセス、アクトレス(ジーニアス)、ワイズマン(ジーニアス)、策士(ジーニアス)が発現し、それぞれLv1ずつ持っていた』。ネムと同じくジーニアスを三つ持つ真性の天才。

実はエンリとほぼ同期。共に過ごしてる時間差を考えると、エンリとのレベル差が1に収まってるのは、彼女が天才であるだけでなく先生がいない間も続けてる不断の努力の賜物だろう。

それだけでなく普段からつけてるチョーカーは、『自分の能力を下げる代わりに獲得経験値を上げる首輪』のデザイン違い(受肉モードでクラフトマン技能を持ってるどこかお骨様がデータクリスタルで普段着けられる外見に変えたらしい。またデザインパターンはいくつかあり選択できる。何故か犬の首輪っぽいデザインも入っている)であり、その効果もある。

総合Lvはガゼフに匹敵するのにガゼフが何も気がつかないのは、このチョーカーでスペックダウンしてるせいと能力欺瞞の指輪のせいのようだ。

聞きなれない職業(クラス)レベルが多いが簡単に説明すると、バトル・プリンセスは戦闘技能持ちのお姫様が取れるスキル、クィーンはプリンセスの上位互換のようなものだが……既に発現してるのが末恐ろしい。

ワイズマンはまんま知恵者でレベルが上がるほど学習能力/記憶力が高くなる模様。策士はまんまだろう。

魔法職系はラナーにねだられ自分もラナーに教えられる数少ない分野(と本人は思っているが、ラナー曰く『生きること全ては先生から教わった』)ということで教えた中で発現。特にウィッチは術式投射(スペルキャスト)より飛行術/魔法薬練成/錬金術に高い適性をもつクラス。

フェンサーとソードダンサーは、先生が護身術として剣術を教えてるうちに発現した。

余談だが、某ヴァージンスノウと犯罪結社の剣舞担当の人に続く三人目のファンネル使い疑惑。そりゃ本人がこれだけ強ければクライム君にも特別な興味を示さなくなるだろう。

目下の目標は長距離の空間移動系の魔法を覚えること。第3位階魔法まで使える(!?)ので《ディメンジョン・ムーブ/次元の移動》はできるが、カルネ村めでひとっ飛びするにはまったく距離が足りない。

また習得クラスも含めエンリと好対照で、

 

エンリ:将軍/指揮官係、神官/信仰系魔法、メイス等の重装備が得意。防御力に定評。タレント:現状確認できず(発現しないとは言っていない)

 

ラナー:姫/女王(政治)系、英知系技能、純粋魔法職、サーベルやダガーなど軽装備が得意。運動性に定評。タレント:あり

 

ただし方向性は違うが、どちらもワン娘体質。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

いよいよ始まりましたラナー主役のショートシリーズ。
いや~、この後に考えてるエ・ランテルあるいは帝国篇で、彼女の出番はかなり減ってしまうので、今のうちにキャラを確定させてしまおうと(^^

一応、ラナーは正妻キーノやエモット姉妹に並ぶヒロインの一人なんですよ。
まあ、まだ歪む前の多感な時期にモモンガとエンカウントしてしまったためにこんなんになってしまいましたが(笑

おそらく5話以上10話以下に収まるショートシリーズですが、お付き合いいただけたら嬉しいっす。



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