穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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40話の達成♪
今回からガゼフさんが色々やりこめられるみたいですよ?
主に精神的に(^^





第40話:”ラナー無双篇・先生仕込みの講義開始ですわ♪”

 

 

 

ヴァイセルフさん家三女のラナー姫は、聡明な少女だ。

多少、変た……少々風変わりな性癖をしていても、他人に迷惑をかけない分、八本指の特殊娼館を愛顧する王国の腐れ貴族に比べれば可愛いものだろう。

 

「他人の国に勝手に期待し勝手に失望した独りよがりのお馬鹿な宗教国家と、安寧を耽溺するあまりに危機感ないまま屋台骨まで腐り果て、もう崩壊の秒読みに入ってる救いようのない我が国にまつわる”()()”でしたわね?」

 

最近、性癖に限った話に限らず更に色々尖がってきてる気もするが、歪んでない分マシ。歪んでない分、残念臭がしないでもないが、毎度立ち込めるアンモニア臭に比べれば微々たる物だ。

 

「結論から言えば、王国の成立が法国の意向なのは事実ですわよ? 法国は肥沃な土地が多くの人を育み、異形種と戦う勇者たちが現れることを期待していたんですわ。ちなみに今の王国貴族はその当時、建国に出資した地主や商人達ですの……まだ200年も経ってないのに何を根拠に高貴な血とか言っているのやら。お笑い種だとは思いませんか?」

 

実に楽しそうに話すラナーだが、聞いていたガゼフは笑うに笑えなかった。

だが、奇妙な説得力があった。

そもそもリ・エスティーゼ王国の建国は200年前の十三英雄が活躍した”魔神戦争”の後だ。

より正確に言うなら、暴走したNPCが引き起こした騒乱で滅んだ大きな人間の国を、アゼルリシア山脈を挟む形で東西で再編したのが今のバハルス帝国とリ・エスティーゼ王国だった。

 

「彼らは大半は、元々貴族でも何でもありませんわ。確かに王国よりも古くから続く名家もありますが、言ってしまえば総じて王国の出資者。その出資額に応じて与えられたのが爵位……要するに今の貴族位はいわば”()()”の産物と考えて差し支えありませんわ」

 

一気に言い切ったラナーは、一度冷えかけた紅茶で喉を潤し、

 

「そして法国にスカウトされ建国事業、アゼルリシア山脈西部の人間国家再編事業の代表を請け負ったのが初代国王……その程度の話です。たった200年にも満たぬ歴史じゃ伝統も高貴もありませんですもの。まあ、その事実は隠蔽されてますからガゼフ隊長が知らなくても無理はありませんが、王国貴族なら誰でも知ってることですのよ?」

 

何やら王国の闇、その深遠を覗いてる気分になってきたガゼフだったが、この姫様はさらに容赦なく追い討ちをかけるタイプだった。

 

「ガゼフ隊長、これで王国も今は”()()()()()()()()”……もとい。鮮血帝のおかげで数を減らしましたがちょっと前まで帝国にもうんざりするほどいた貴族が、なぜ能力如何に関わらず無駄にプライドが高く嫉妬深く、領民のことを考えず人間としての質が最低で最悪なのか理解できたでしょう? ほとんどの貴族は無意識だろうが無自覚だろうが常にコンプレックスを抱えていて、その裏返しが今の平民を人間と看做さない高慢さや傲慢さなんですよ。それはそうですわよね? 誇るべき伝統も格式も、それらに裏打ちされた高貴さなんて物も本当は影も形もありもしないことを、誰よりも知っているのが貴族たち本人なんですから」

 

そしてラナーはチャーミングにペロッと舌を出し、

 

「まあ、人材の質の悪さに関しては王族も人のことは言えませんけどね」

 

その笑顔が歪んだ人とかけ離れたようなそれだったら、まだ良かった。

だが、茶目っ気たっぷりのラナーの笑顔は、素……戦場で磨きぬかれた剣士の勘がそうであることをガゼフに告げていた。

そう、心底楽しそうにラナーは国家の暗部をしゃべってるのだ。いくら聡明であっても、未だ10代の少女が、だ。

ガゼフはそれがたまらなく恐ろしく感じた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

正直、ガゼフは今すぐに家へと帰り深酒をし、布団に包まって不貞寝したかった。

だが、勿論ラナーはそれを許さない。

何しろ先生直伝の”()()”はまだ終わってないのだ。

 

「それにつけても法国は馬鹿だと思いませんか?」

 

自ら”湯が冷えないティーポット”から紅茶を煎れ直しながらラナーは続ける。

 

「人間なんて愚鈍で脆弱で臆病な種に安寧で肥沃な土地など与えたら、堕落するに決まってるでしょうに。凡そ全ての生物は生存のために戦い、人間は殊更恐怖のために戦う……生存の危険がないのに戦うなんて奇特な事をするのは、少数派に過ぎません。その程度のこと子供でもわかるでしょうに」

 

「なら、私はその奇特者に入るということですか……」

 

すると途端にラナーは面白いものを見つけたような顔になり、

 

「ガゼフ隊長、なぜ貴方は王国戦士長……いえ、剣士になったのです?」

 

「それは私には剣しか……腕っ節しかなかったからです」

 

「けっこうけっこう」

 

その返答にラナーは満足そうな顔をし、

 

「つまり腕っ節でお金を稼ぎ、そのお金で参加費を払って出た御前試合でその強さを証明し、そして現在の戦士長に至る……ほら? 生存に直結してるじゃないですか。貴方に剣の腕がなければ、今頃どこで何をしていたと思います?」

 

「そ、それは……」

 

すぐに答えられぬガゼフを気にした様子もなく、

 

「実力で勝ち取ったものですもの、誇っていいことですわよ♪ さて、戦わずとも生存の危険がなくなった人間は次に何を求めると思いますか?」

 

ガゼフは少し考え、

 

「豊かさ……ですか?」

 

「正解ですわ♪ 思ったよりも頭の回転が速いようで何よりです」

 

そしてラナーは最初から不足気味だった遠慮が、輪をかけてなくなってきた。

 

「豊かさ……端的に言えばお金、ですわね。皆がガゼフ隊長程度、生活に困らない位あればいいなんて慎ましやかな金欲なら問題はないのですが、大半はそうじゃない。金庫がいっぱいになっても金蔵が破裂してもまだ『金が無い』とのたまうのが人間です。それに金は欲だけでなく嫉妬心も高効率で誘発するものですよ? よく言うじゃないですか? 『金持ちが妬ましい』と。あれ、貧乏人だけの思いじゃないのですよ?」

 

 

 

そしてラナーは思い出す。

先生との色気が無い類の思い出……決して城に篭っていただけでは得られなかった数々の経験。

素敵な素敵な”()()()()”……いや、色気が無いとは言い切れない。

むしろ、自分からおねだりして強引に濡れ場にもつれ込んだことも何度もあった。

 

”そう、誰もわたくしを知らない街の、人気の無い裏路地で先生に……”

 

思い出して体の奥から潤いが溢れそうになったが、今はまだ我慢と思い直す。

今はまだ早いと。

 

「ガゼフ隊長、金持ちだって自分より金持ちは妬ましいんですのよ?」

 

それは彼女がその目で見た風景や情景……

 

「そして嫉妬は、相乗効果で更に欲望を増幅する……先生曰く『欲望は膨張する』、周辺国全てに戦争を仕掛けた国家元首が遺した言葉だそうです」

 

それは、先生のいた世界のとある独裁者の遺した言葉だった。

その存在は後世に爪痕に似た影響を与え続け、人類が終末を迎えたあの世界でさえ思想的末裔達が欧州アーコロジーで戦を起こしたのだ。

 

「では際限の無くなった欲望が、次に求めるのはなんだと思います?」

 

「……皆目見当もつかないのですが」

 

「でしょうね。だって貴方はそれを使おうとしないどころか、持ってる自覚すらない。だから今回の遠征もこうして追い詰められたというのに」

 

「えっ!?」

 

ラナーはにんまり笑い、

 

「答えは”()()”ですわよ。ガゼフ隊長」

 

 

 

ラナーにとってガゼフは中々教え甲斐がある生徒らしい。

勿論、ラナーのことだから思惑も他意もあるのだろうが、それでもどうやらこの語らいは気に入ったようだ。

それはガゼフ・ストロノーフと言う男にとって幸か不幸か……判断の難しいところである。

 

いずれにせよ、運命の歯車が大きく切り替わる……その切っ掛けになるだろう邂逅なのは確かだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

いや~、これで40話目。初期設定だけでプロットもまともに作らず書き出したのに、思えば遠くへ来たもんだ(^^
ホント、いつも応援してくださる皆様には、盛大な感謝を♪
感想、高評価、お気に入り登録などなどとてもモチベーション維持につながっています。

ここしばらくは、微妙なエロネタを挟みつつ、けっこう真面目な王国などの政治ネタが語られますが、果たしてガゼフ隊長の精神は持つのか?(笑

それと「原作と違うベクトルのラナーの賢さ」は果たして作者に描けるのか?(切実



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