ガゼフたいちょーが追い詰められるのはいつものことですが(^^
「わたくしの見立てですと、現状のままでは例え延命に成功しても、あと5年以内に王国は滅びますが、その後の身の振り方はいかがなさいます?」
「らら、ラナー
飲んでた紅茶を噴出し、思わず王女から尊称が変わるほどに慌てる素直なガゼフだったが、
「”ララ・ラナー”ってなにか響きがいいですわね? 先生に貸していただいた”らのべ”という書物に出てきそうな可愛らしさですわ♪」
本来、電子書籍……つまり単なるデータとして収められてる蔵書だが、他のアイテムと同じようにこの世界に引っ張り出す場合はきちんと物理的な形をとり、質量を持った本として現れる。
ただし本の装丁はこの世界の書物に準じたそれで、もしかしたらオリジナルのラノベスタイルだとファンタジー感が台無しなので人知が及ばぬシステムも空気を読んでいるのかもしれない。
ちなみに出てくる本は
例えば、エンリが愛用してるのは同じ赤のアンダーリムでスクエアフレームのモデル、こちらはどちらかといえばけ○おん!の真鍋和仕様というところだろうか?
そして意外と言えば意外だが、ラナーは異能バトル物より日常系ラブコメを好む傾向があったりする。
例えば同じ学園物でも、”異能バトルは日常系○なかで”より”冴えない彼女○育て方”を好むらしい。
この世界とは全く違う世界観が理解できるか不明だが、ラナーに言わせると……
『例え世界が違おうと、例えどれほど文明が進もうと、あるいは価値観が異なろうと所詮人は人、どこまで行っても考えることや感情は大差ないようでむしろ安心しましたわ♪』
とのこと。
また異世界転生物を一読し、聡明な彼女は凡そ先生がどこから来て、どうしてこの世界にはありえない筈の知識を持ちえるのか理解してしまったようだ。
だからと言って先生の評価が変わるはずもない。
むしろ、それを当然として受け入れた。
思えば、募り募ってついに内から溢れた想いをラナーが伝えた時、「実は
むしろ、
『このわたくしが生涯の師とお慕いする先生が、ただの人間であるはずがないとずっと思ってましたわ♪ むしろ納得です。異世界人? お骨ぼでぃ? バッチこいですの!!』
とお骨を押し倒し、唇のない顔にキスの嵐&鎖骨をprprなどやりたい放題。
まさか力任せに振りほどくわけにもいかず、何よりも
かくてラナーは、盛大に黄金(水)姫に相応しい派手な放水ショーを披露する流れとなった。
とにもかくにも方向性は大分、かなり違うが「精神的人外性」はこの世界線においても健在なようである。
☆☆☆
「さて、ガゼフ隊長。そんなに声を荒げるほど驚く事実でしたか?」
「それはそうですよっ! まさかラナー殿下の口からそのような言葉が……」
「ある程度の権力を持ってれば自然と行き着く結論ですわ。本気で判っていないのは無能な貴族ぐらいで、無能ではない貴族がいても打つ手がないので目を逸らす、あるいは口にだしてないだけですわ」
「元々、ここ最近”
何やらどこぞの氷の妖精のような言い回しを始めるラナーだったが、
「直接的には農業生産高の減少化工作に労働力の間引き、大きく言えば経済減退による国力の衰弱化……常備軍が整備されてる帝国と違い王国は農民の徴兵、農繁期に攻められれば収穫が滞り石高に大打撃を与え、戦場で農民を殺せば労働力も消費人口も一気に減らせて一挙両得、一石二鳥。そもそも軍事費というのは性質的に生産性が皆無……作ったものが新たな拡大生産を生むわけでもなく、消費/消耗の一方。それはもう見事に『王国は衰退しました』への一歩通行ですわね」
例えば剣や槍に使う鉄を鋤や鍬に変えて、農民に無償で貸し出せば、それだけ生産高に還元できる。
だが、兵器は戦場で使えば消耗の一途、生み出すのは敵と味方の死体だけで経済的には国にも民にもなんの還元もない。むしろ手間ばかりが増えてくる。
「帝国も確かに消耗してるのでしょうが、常備軍である以上産業へのダメージは王国のそれより遥かに小さい……しいて言うなら戦争に必要な物資の品薄化や高騰でしょう。一部の物資はもしかしたら配給制になるかもしれませんわね? まあ、職業軍人だけで軍隊を作ってる訳でなく成人男子の徴兵義務はありますから、民間への人口学的なダメージも皆無ではないでしょうが……それでも地力が違いますので、毎年の戦争でもどこの数字を見ても王国ほどの損失は無い筈ですよ?」
実際、戦争と言うのはよほど上手くやらない限り勝利し、敵国を占領/併合したとしてもプラス収支にするのは難しいのだ。
占領地政策に失敗、赤字が嵩みせっかく手に入れた土地を破棄し撤退なんてことも歴史では珍しくなく、仮に完全併合までの占領地運営に成功したとしても、消費した戦費を回収するまでには相応の年月や投資は必要だろう。
戦争で磨耗し荒廃した国が、地力で自然に国力を回復するなんてことは有り得ないのだから。
それこそ、世界史を紐解けば、鮮血帝が頭髪的な意味での閃光帝と呼ばれる日が来るまで程度の時間がかかっても不思議じゃない。いや、むしろ彼一代の治世下で併合が完了すれば御の字だろう。
「それ故に王国はどんなに長く見積もってもあと5年で戦争をしたくても出来ない状態に陥るでしょう……飢餓と貧困で民は窮乏し国家の体裁すら保てなくなり、その頃には帝国は解放軍として歓喜と共に迎え入れられるでしょうね。
何が面白いのかラナーはクスクスと笑い出し、
「きっとその時まで生きていたら、王族も貴族も元王国民の鬱憤と憤懣の捌け口として、雁首並べて公開処刑ですわね♪ 国家滅亡の責任を担う旧権力階層の有意義な使い道としては妥当なところですわ。きっと、鮮血帝はその二つ名に恥じぬ血腥いショウをプロデュースしてくれるでしょう」
「殿下……」
「まあまあ、そんな呆れた顔をしないでくださいませ。それに王国が経営破綻する前に飢饉の一つでも起こればその瞬間に王国終了のお知らせですわ。今の王国は一部の例外を除き余力はありませんし、余力がないのにも関わらず貴族は相変わらずの民も国も省みない贅沢三昧。その詰め腹は重税と言う形で平民に背負わせて平気な顔をしている……これで
どうやら今回の出征のカラクリを全て知っているようなラナーは笑みを濃くし、
「あっ、それなら重税に耐えかねた民衆の一斉蜂起という選択肢もございますわね。どちらかと言えばそっちの方がわたくし好みですわ。派手ですし♪」
王国に用意されたロクでもない未来……あまりに惨めな終末の予言を心の底から楽しげに告げるラナーに、ガゼフはウンザリしていた。
いや、正確にはもう詰んでるとしか判断できない王国に陰鬱な思いを感じていた。
その表情変化を見逃さなかったラナーは、だからこそここは畳み込むべきと判断したのだ。
「ところでガゼフ隊長は、
読んでいただきありがとうございました。
実は例に出てきたラノベは微妙に中の人ネタ、そりゃあ脇役よりヒロイン勤めた作品の方が好ましいでしょう(笑
ガゼフ隊長、やはり突きつけられましたね~。
でも、王国の崩壊が既に見えてるラナーとしては、ある意味当然の問いかけなのかもしれないです。
なんせ有事ほど戦力は有用ですから(^^