穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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一応、ラナー無双篇のラストエピソードです。
今回の一件だけでアダマンタイトより堅物のガゼフが鞍替えすることはないでしょうが……




第43話:”ラナー無双篇・わたくしに仕えなさい♪”

 

 

 

「ところでガゼフ隊長は、ランポッサIII世(おとうさま)個人にのみ忠誠を誓っているのですの? それとも王国に忠誠を誓ってますの?」

 

そんなある種の核心を突いた質問に、

 

「なんとも答えにくい質問ですな」

 

実はこの返答、ガゼフが少しずつでもラナーに毒されてる動かぬ証拠でもあった。

少なくとも原作の彼なら、ここで言葉を濁すことはなかっただろう。

 

「もし、お父様のみに忠誠を誓っているのなら、万が一の時はもう縛るものが無い以上、自由にしてください。忠誠と言うのは誰かに強制されるものじゃありませんし、していいものでもありませんから」

 

「しかし殿下! それでは……」

 

「いいのですよ。今の王国にガゼフ隊長は過ぎたる存在なのは事実です。基本的なその後の進路は、帝国か法国に降ることですが……個人的にお勧めは帝国です。ジル君、鮮血帝は性格に難はありますが、能力至上主義の合理主義で人を見る目は確かです。悪いようにはされないはずですよ?」

 

明らかに去年のカッツェ平野での戦いで、ジルクニフからスカウトされたことを知ってる口調だった。

 

どうでもいいが、ラナーはどうも既に鮮血帝という恐ろしげな二つ名を持つバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスと顔見知り、それも割と親しげ、あるいは近しい感じだ。

 

実はこれまで二度ばかり”威張りんぼジル君”という発言をしていたりしている。まるで幼馴染のようなものだが……その認識はあながち間違いではない。

 

いずれその時代のことも語ってみたいが、今は断片的な事実だけをだしておく。

先生がラナーを《ゲート/転移門》で”課外授業”と称して連れ出した先には、帝国があったこと。

そして、ダークウォリアーが、詳細は不明だが帝国で活動した痕跡があることだ。

 

「ただ、もし僅かでも王国に対して忠義立てする気があるのなら……一つ選択肢を加えて欲しいのです」

 

「選択肢、ですか?」

 

「ええ」

 

ラナーは小さく頷き、

 

()()()()()()()()という選択肢を、ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

『戦士長殿、帰ったら王の御前で報告する前に、ラナー王女と話してみるといい。きっと貴方が足りないものを、色々気づかせてくれるはずだ』

 

嘘偽りの無い歴戦の勇者、20年も前から竜王国でビーストマンを屠っていたとされる伝説の冒険者……カルネ村で聞いたダークウォリアーからの言葉だった。

 

(確かに値千金の助言……ダークウォリアー卿の言葉は真実だった)

 

だが、

 

「だが、俺にどうしろと言うのだっ……!?」

 

王城からの帰り道。他の誰でもない、不甲斐ない自分自身にガゼフは憤慨した。

確かにダークウォリアーの言うとおり、自分は見えてないものが多すぎた。足りないものが多すぎた。

それに気がつかせてくれたラナー殿下には、どれほど感謝してもし足りないのかもしれない。

 

(王国が、もうそのような状態になっていたとは……)

 

『もしお父様に万が一のことが、いいえ。そうでなくとも貴族派貴族たちの圧力でお父様が王位を禅譲、あるいは貴族派達が強硬策に出てバルブロ兄様が王位を簒奪した時点で王国は終わります』

 

ラナーはそう断言していた。

貴族派の首魁であるボウロロープ侯の娘を娶ったのは貴族派と王家派の軋轢を一時的にでも抑制するための政治配慮とも取れるが、第一王位継承者なのに自分の立場も考えず貴族派に祭り上げられて喜んでいる愚物……それがガゼフのリ・エスティーゼ王国第一王子”バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ”への評価だった。

 

そして王のランポッサIII世も、バルブロが王になれば王国が貴族たちの玩具に成り下がることがわかっているからこそ、高齢であるにも関わらず王位を降りれないでいる……ガゼフはそう思っていた。

 

だが、実像は更に酷かった

バルブロは王国最悪の犯罪結社”八本指”と(ねんご)ろだと言うのだ。

確かに王国貴族の大半は腐れ果て、八本指と繋がりがある者も爵位に関係なく多く、ゆえに迂闊に手が出せないとされてきたが……まさか次代の王の第一候補がここまで腐っているとは!!

 

(民は度重なる戦争と、それでも贅沢を止めぬ貴族のせいで重税にあえぎ、生き地獄に等しいというのに……)

 

「この世には、滅んだ方がよい国があるというのか……」

 

思わず自分の口からこぼれ出た言葉に、ガゼフは自身で驚いた。

とても王に忠義を捧げた者が言う言葉ではないと。

 

「やめよう」

 

今はこれ以上、考えたくは無かった。

だが、いずれ深く考え結論を出さねばならない問題でもある。

残された時間は、あまり長そうも無いのだから……

 

 

 

『もし、有事の際にガゼフ隊長がわたくしについていただけるのであれば、その時は戦士団もまとめて面倒見て差し上げますわ♪』

 

不意に蘇るラナーの言葉……

 

「そうだ。クライムの寝顔を見るとしよう」

 

ラナーより預かった元貧民街の孤児だった住み込みで腕を磨く剣士見習い。

 

(あの子は真面目だからな。もう寝ているだろう)

 

朝早く起きて訓練をはじめ、夕方にはクタクタになっている。きっと今頃はぐっすりな筈だ。

 

剣の腕なら多少の自信があるが、改めて不甲斐なさを思い知らされたこんな自分をあの子はまるで御伽噺(おとぎばなし)に出てくる英雄を見るような、尊敬で編まれたきらめく視線を向けてくるのだ。

 

それが照れくさくもあるが、嬉しくないといったら嘘になる。

それに何やら見てるととても癒されるのだ。

 

(存外、ラナー殿下はそれがわかっていて俺に預けたのかもな)

 

あの王女なら、それぐらいの気を回してもおかしくないと。

 

(そう言えば、お借りした装備を返却するのを忘れてしまったな……)

 

結局、ラナーより借りた武器/武具一式は今回の出征で威力や性能を発揮することはなかったが。

 

「借りばかり作ってしまう……」

 

果たして自分は返せるのだろうか?

 

そんなとりとめの無いことを考えながら、ガゼフは家路を急ぐのだった。

 

その姿がどことなく蝙蝠と評される”子煩悩なとある貴族”と似ていることを、本人は気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

ガゼフ隊長、大いに悩むの巻でした(^^

「王が生きている間は存分にその忠誠をささげられますが、その後はどうなさいますの?」

ある意味、ガゼフが一番考えたくない話でしょうね~。
そしてラナーは情報は与えるし、選択肢もあげましょうと。だけど、

「自分の頭で考えなさい。短絡や思考放棄は許しません♪」

原作と違う意味でおっかない娘です。


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