登場するのは……
舞台は、唐突に切り替わる。
そうここは……
「ふにゃ……」
淡いパステルピンクの天蓋付きのベッドで一人の少女……多分、少女と評していい年代の女性が丸まっていた。
いや、比喩でなく毛布に包まって丸くなっていた。
どことなくそこの姿はコタツで丸くなる猫を思い出させる。
顔は中々可愛らしく髪型は金髪のショートボブ、格好はフリルがふんだんにあしらわれたベビードールを寝巻きにしてるようだ。
一見するとどこかの金持ちお嬢様という気もしなくも無いが……
「朝だぞ! 我が妹よっ!」
ばぁんと扉を入ってきた闖入者。そしてどことなくその少女と似た造詣の整った顔の金髪青年が入ってくるなり、
”ぱちっ”
少女は目を覚まし、反射的に枕の下に隠していたスティレットを手にとり、猫と言うより獲物に飛び掛る山猫を思わせる素早さで無反動にベッドから跳ね起き、
「おいおい我がが麗しの妹よ、随分過激な朝の挨拶だな?」
しっかりと青年の首筋に《マジックアキュムレート/魔法蓄積》ファイヤーボールが込められているスティレットの先端を突きつけていた。
「あれ? お兄ちゃん……?」
「そうだぞ、妹よ。おはようだな」
「おはよ、お兄ちゃん」
”Chu”
そして妹……クレマンティーヌ・メルヴィン・クインティアは兄の頬に優しくキスをする。
「んー……でも、いくらお兄ちゃんでも年頃の妹の部屋に堂々と入ってくるのはどうかと思う」
少し恨みがましく言うクレマンティーヌに、優れたビーストテイマーの資質を持つ兄、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは妹の柔らかい金髪を撫でながら、
「コソコソ入ったほうがよかったかい?」
「それはそれで嫌かも」
それにしても仲のいい兄妹である。
ちなみに二人のミドルネームのハゼイアとメルヴィンは死の神スルシャーナの従属神の名で、兄妹だったという伝承が残っていた。
☆☆☆
「ほえ? 大神官長様から直々の任務?」
「ああ。そうなるな……私も詳細は聞いてないが、状況から考えてかなり厳しい内容の任務になるだろう」
スレイン法国が誇る六色聖典、その中でも名実共に最強の”漆黒聖典”。
彼らはその特殊性から、法国の深部に住居をあてがわれていた。
そして言うまでもなくここはクィンティア兄妹が与えられてる住居で、スレイン法国の全ての基礎を作ったとされる六大神風の言い方をすれば、3LDKのマンションということになる。
21世紀の日本、首都である東京と比べても間取りは広く、一等地という立地条件でこれでアメニティが整っていたらいわゆる”億ション”となってもおかしくはない。
税金で暮らしてることも考えて、なにやら”官僚貴族”っぽい匂いもするが……まあ、基本、特殊な才覚持ちの集まりで命がけの任務ばかりなのでこの程度の優遇は当然なのかもしれない。
ちなみに兄妹別々の住居も持つことも出来た……というか普通は別居なのだが、クアイエッセが猛烈に反対し、過去に色々あって基本お兄ちゃんっ娘のクレマンティーヌも特に反対する理由も無かったために同居となっていた。
ちなみに遅く起きたにも関わらず、朝食を作ったのはクレマンティーヌ。トーストとベーコンエッグを中心としたものだが、クアイエッセ曰く中々に美味らしい。
何気に殺しだけでなく家事も万能な自慢の妹だった。
クアイエッセは割とシスコン気味で、クレマンティーヌはかなりのお兄ちゃんっ娘だ。
原作とある意味、真反対だが……それなりの過去はある。
簡単に言えば、若いと言うより幼い頃から魔獣召喚/使役の
だが、そんな妹を
そして、それが開花する日が来たのだ。
その対価は両親の死……その日、全盛期から比べれば衰えたとはいえ前衛バリバリの戦士職だった両親が血だまりの中に倒れ伏し、両手に血がこびりついたスティレットを握ったまま呆然と立つ妹の姿をクアイエッセは目撃した。
☆☆☆
スレイン法国でも親殺しは重罪だが、それが訓練の中での死なら不可抗力。
クアイエッセはそう強弁し、状況を整え、そしてそう報告書を提出した。
『妹を裁き処断するのは簡単だが、それは国家的な損失になる』
という内容で。
漆黒聖典の中では本名を隠す二つ名が使われるが、その魔獣召喚/使役能力から”一人師団”の名を持つクアイエッセの証言は軽くは受け止められなかった。
そして皮肉にも、それを後押ししたのはクインティア夫妻が遺した手記だった。
両親は妹を味噌っかす扱いしたのではない。
ただただ、その気質と才能と性格と能力がかみ合った妹を、”
だから、それらが発芽しないように細心の注意を払っていたのだ。
だが、その手記を見つけたクアイエッセは大きな笑い声を上げた。
『こんなことを秘密にしてるなんて国家と死の神に対する背信行為だよ。父さん、母さん』
妹はサイコパスでもサイコキラーでもシリアルキラーでもない。
快楽目的で殺人などしないし、殺人に快楽も覚えたりしない。むしろ『
そう、殺すことに命を奪うことに忌避感も嫌悪感も躊躇いも恐れも無い。
ただ淡々と作業のように殺す。必要だから命を奪う。
クレマンティーヌは、生まれ乍らに「殺しを楽しむ感覚は一切無いが、必要であればどんな殺し方でもできるし、何人でも
『素晴らしい! まさに死の神の使途としてあるべき姿だっ!!』
クアイエッセはそう歓喜した。
都合がいいことに、そして判りきっていたことだが妹は制御不能の狂人の類ではない。
むしろ殺しに関わる部分を抜けば、年頃の娘らしく愛らしい部分をきっちり持っている。
そして全てを知ったクアイエッセは、ますます妹を溺愛し、両親が下地を作った身体能力を自ら召喚した魔獣と戦わせることで鍛え、ついには自分と同じ法国最強部隊、漆黒聖典の一員”疾風走破”の名が与えられるまで昇華させたのだ。
そう、クアイエッセにとりクレマンティーヌは今も昔も愛らしい自慢の妹であり、そしてつまるところ彼もまた狂信者であった。
☆☆☆
クレマンティーヌ・メルヴィン・クィンティア
種族:人間
役職:漆黒聖典第九席次”疾風走破”
アサシン(ジーニアス):Lv7
マスターアサシン:Lv3
ファイター:Lv7
ナイキ・マスター:Lv3
ローグ:Lv3
シカケニン:Lv3
ウィザード:Lv2
ドクター:Lv2
総合Lv33
特殊性:殺人やそれに準ずる行動になんら感情変動が無い”
備考
原作より微妙に強化されてるような気がしないでもないクレマンティーヌ。キーノやカルネ村の面々、そしてラナーのようなモモンガによりナチュラルにレベリングされてるわけではないのに、総合Lv33は立派。
現在、
ビルドは暗殺者と軽戦士に特化したタイプであり、速さ……俊敏さと鋭敏さを最大の武器とする彼女に見合ったものだろう。
メイスやモーニングスター等の殴打系の重量武器も使うが、あまり得意としていないようだ。もしかしたらイメージ的にトンファーとかヌンチャクの方が与えたら上手く使えるのかもしれない。
ウィザードを持っているのは、《マジックアキュムレート/魔法蓄積》で愛用のスティレットに自前で魔法をためこむためかもしれない。
気を体の内側に展開し身体能力を底上げしたり強度を上げたりするナイキ・マスターを習得していたり、おそらくは効率よく拷問を行うために解剖学を学んだ結果ドクターを習得していたりと、何気に多芸である。
原作との相違は、実は殺しだけでなく拷問に対するスタンスにも現れている、原作で拷問は「嗜虐心を満たすための楽しみ」ではあるがこのシリーズのクレマンティーヌは「情報を効率よく聞きだすためのただの手段」であり、そこに感情が入る余地は無い。とにかく”
ある意味、原作とは別の意味での厄介さをもつようだ。
読んでいただきありがとうございました。
ついに出てきましたクレマンティーヌ(^^
このシリーズでは、ある一部分を除いて結構普通にいい娘だったりします。
その一部分が問題……というか原作との対比で、どんなキャラ付けしようかと容量の少ない頭を悩ませた結果、「殺人に対する感覚を正反対にしてしまえ」と脳内少佐が囁いたんです(笑
原作が拷問大好き
しかもわりかし少女趣味でブラコン気味というオマケつき(^^