穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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ちょこっとだけ、カルネ村の強化案が明らかになる回です。
というか、お骨様がわりかし楽しそうです(^^




第47話;”カルネ村防衛力強化計画……の草案”

 

 

 

数日前、ツアーの(ねぐら)から戻ったモモンガはラナーの元を《ゲート/転移門》を使い訪れた。

無論、先生……この王国でさえ名士として知られるアインズ・ウール・ゴウン特使の姿でだ。

ラナーの興奮が収まるのを待ってから、ベッドの中で自分と先生の体液の混合物をうっとりとした顔で堪能していたラナーの細く小柄な肢体を抱きしめながら、モモンガはある事案を切り出した。

 

 

 

モモンガからラナーに提示された「カルネ村防衛力強化計画」の概要はこうだ。

現在ある居住区や付属する施設に張り巡らせた丸太塀をそのまま内塀として転用。

その周囲に更に丸太や石材などその他の素材を用いた外塀を設置、その外堀には当然のように監視塔を置き、弓兵をはじめとする飛び道具兵員用の頑強なキャットウォークを内側に張り巡らせる。勿論、よじ登り防止のカエシも取り付ける。

そこまでなら単純に現在ある塀の拡張版だが、

 

「さらにそのさらに外側に堀を作り、川から水を引こうと思ってるんだ。無論、周囲をぐるりと囲むようにね」

 

それが策の一つだった。

 

「お堀ですか?」

 

「ああ。幅は10m前後ってところかな? 堀への用水路は畑への灌漑(かんがい)用水にも利用する方針……というか、灌漑用の用水路は前から引きたかったからな。そのついでみたいなものさ。構造的には外塀の表門と裏門の扉を跳ね橋にするつもりさ。それに加えて、」

 

モモンガは棘付きの針金、その切れ端のようなものを謎空間より取り出した。

 

「鉄の(いばら)? 先生、拷問器具かなにかですの?」

 

おそらくだが、ラナーはこれの本体はもっと長いと推測、体に巻きつけて棘を肉に食い込ませるイメージをしたのだろう。

そういう緊縛プレイも悪くないと思いながら。

 

「まあ、そういう使い方もできなくはないがね。だが、生憎と不正解だ」

 

モモンガは苦笑し、

 

「これは有刺鉄線といってね。柵に使うものだよ」

 

史実の有刺鉄線は1865年頃フランスで発明されたが、その普及は1870年代のアメリカであり、今でこそ立ち入り禁止の場所でよく見かけるが、最初は主に防牛柵として用いられていた。

 

「でも、こんなに短い鉄で出来た棘では鎧を着た相手には……ん? 待ってください。もしかして堀と組み合わせますの?」

 

「ラナーは相変わらず賢いな。これで作った柵……”鉄条網”で外塀と堀の間を幾重にもぐるりと囲むのさ」

 

モモンガは長く美しい金髪を撫でる。

 

「門を兼ねた跳ね橋を上げてしまえば敵兵は堀を渡るしかない。そして身長以上の深さと一定以上の幅がある堀は重装兵を、渡ろうとする段階で阻む。泳ごうとすれば装備の重さで沈み溺れてしまうからね。舟を用意しようとしても今度は堀の幅が狭すぎる。身動き取れない狭い水路にはまり込んだ舟なんていい的さ」

 

それは舟だけでなく距離が短いからと言って騎乗したまま渡ろうとする者にも同じことが言えた。

また、破城槌(ジャガーノート)などの門や城壁にぶつけるタイプの大質量兵器は全く使えなくなる。

 

「重装兵が駄目なら軽装兵でって話になると思うけど、堀からあがろうとした軽装兵には今度は人工的に作られた茨の垣根がまっている。その中を進むのは、非常に厄介なんだよ」

 

 

 

「先生、もしかして有刺鉄線は直接敵兵を傷つけるためではなく敵兵の行動を阻害し、絡めとるためにつかいますの?」

 

「そうだよ、ラナー。有刺鉄線……鉄条網と言うのは中々に秀逸でね。張り巡らせるのが楽な割には効果が高く、適度な高さがあれば人だけじゃなく馬防柵としても十分に使えるのさ

 

「つまり先生は、飛び道具の射角を得るためにこれらの大掛かりな工事を行いますのね?」

 

どうやらラナーは一歩先を読み、そう結論したようだ。

鉄条網はその性質から弓矢を水平から射ち込むのは向いてないが、斜め上からは射ち放題だろう。

 

「今回の戦いで改めて思ったけど、弓という武器は塀の様な場所から真下を狙うのは不向き。弩は構造上、矢が落ちてしまうので狙えない。据え置き型の飛び道具なら尚更さ。台座に乗せる以上俯角(水平より下の角度)をとらせるのは今の技術では難しい……それに動いてる的より止まってる的に射掛けるほうがよっぽど簡単だろ?」

 

カルネ村はその性質上、常に寡兵で大軍を迎え撃つことを考えなければならない。

具体的には、帝国ではなく王国の正規軍との戦闘を前提としている。

その場合において、最も有効打を期待できるのが長間合いの飛び道具だ。

 

今回の戦いでモモンガは思ったが、一騎当千というのはどんな場面でも有効だが、同時に「多勢に無勢」というのも真理だと。

 

正直、例え数は力だといっても捕食本能と身体能力のごり押しでやってくるビーストマンは、普通の人間の十倍の力を持つとはいえ、そこまで脅威じゃない。

ビーストマンは確かに群れと言う単位で行動するが、軍事的な意味での統率や指揮とは無縁だからだ。

はっきり言えば、力押しで来るなら、それ以上の力で押し返せば簡単に撃退できる。

10倍もの身体能力差がある人間なら何を駆使しても対処は難しいかもしれないが、力で上回るモモンガやキーノ、万全な装備のカルネ村の七星剣にラナー、おそらくガゼフだってそう難しい話じゃない。

つまり戦術すらも考えなくていい、力と力のぶつかり合いだけでカタが着くのだ。

 

 

だが、それを人間に置き換えたらどうだ?

人間は脆弱だが、その分知恵を回す。これが中々に厄介だ。

実際、人間同士の戦争では搦手どころか戦争が戦場ではなく戦場外で決まるということさえままある。

例えば、政争一つとってみてもカルネ村の政治力は王国においてはラナーが頂点であるが、彼女がどれほど優秀であっても……否。優秀であればこそ、王国貴族達への影響力は低い。

話が出たついでにガゼフで例えるなら、彼は王国最強の剣士であっても、政治的には弱者であり、そのせいであやうく死に掛けたのだ。

これは人間社会では珍しい話じゃない。常勝無敗で天下無双の将軍の最後が、味方との政争の末の敗北なんて話は歴史を紐解けばざらにある。

 

そして戦場で考えてみても、人は勝てないのなら武器を改良し戦術を練り、計略を仕掛け謀略を使う。

実は人間と言う種を最も侮ってない、警戒してるのはモモンガなのかもしれない。

確かに今は周囲の生物が強力すぎ、相対的に脆弱種、悪く言えば被捕食者なのだろう。だが、このまま生き残り文明を加速し続ければ……モモンガはその顛末を知ってるのだ。

そう、人間は身体能力で勝るはずの物を含む他の生物を悉く滅亡させ、ついに星まで殺してみせた。それは地球産の他のいかなる生命体でも出来なかったことだ。

 

 

 

「弓や弩が真下を狙いにくい/狙えない武器なら、発射点に近寄らせなければいいだけさ」

 

だからこそ、モモンガは考える。

カルネ村が政治的な勝利を収めることはない。だからこそ、頭を捻り策を考え、武器を改良し攻め寄せる敵を片っ端から倒すしかないのだと。そう、同じ人間と言う種の特性を生かして、だ。

 

確かにそんなことをしなくとも、自分が超位魔法の一発でも撃てば、少なくとも戦場レベルなら勝敗は決するかもしれない。

だが、同時に自問する。

 

『それは果たして正しいのか?』

 

と。

確かにそれが必要なら躊躇いはない。だが、人の可能性を良くも悪くも知っているからこそ、それを嘲笑うような行為は正しいのかと。

カルネ村に生き、自分を神と崇める人々は、それでも神に縋るしかない能のない人々ではない。

神の恩寵を知り、その恩恵にあずかりながらも自分たちのできることは自分でしようとする人々だった。

きっとだからこそ村に愛着が生まれる……そんな矜持と覚悟を踏みにじるような行為が正しいのかと。

 

だから、自分は本当にどうしようもなくなるその時まで、最大限”手を貸す”だけでいい。

過保護でもあるし、過剰サービスは大好きだ。

例えば、カルネ村には村内複数箇所にある魔力ポンプ式の水汲み場につながる地下水脈と、公衆浴場などに接続されている温泉脈が走っているが、これは《ザ・クリエイション/天地改変》で近場の水脈と湯脈を繋げたものだ。

結局、モモンガは必死に生きる人間を見るのが好きで、そんな姿を愛していた。

 

人の身でなくなった今だからこそわかることもある。

人は断じて弱者などではない。

この100年で改めてそう思ったのだ。

 

 

 

とまあ、そんなことを考えながらも、

 

(堀を渡ってる最中や鉄条網に絡まってる最中に《チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷》とかを撃つと、かなり愉快痛快な事になりそうだなぁ~。昔はリアルでも害獣対策に電気柵とかあったっていうし)

 

と思ってしまうあたり、やっぱり敵対者には割と容赦ないモモンガ様なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

外塀の追加+有刺鉄線の鉄条網+水堀……モモンガ様、わりかし容赦ないです(笑
しかもいざ敵が攻め込んできたら「堀と鉄条網に雷落としだな」とか考えてるし。

ただし、これでも第1弾。果たしてこの先、どんな装備が追加されるやらです(^^




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