穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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サブタイ通り、このシリーズにおけるブレインさんの秘剣の作り方とその系譜のお話っす(^^




第52話:”秘剣《鳶斬り》が生まれるまでのエトセトラ”

 

 

 

結果だけを見れば、ブレインの完勝に見えた”()()”だが、どうもそうとばかりは言い切れなかったようで、

 

「まだまだ未完ってことか……」

 

”チンッ”

 

鍔鳴りをさせながら黒曜の刃を朱塗りの鞘に納刀するブレイン。だが、その肩は少し沈み、背中はしょぼくれてるようにも見えた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、そのブレインの背中が煤けてる理由を探求すべく、」先の戦い……カルネ村七星剣が一人、”刀剣志士(ジ・サムライ)”ブレイン・アングラウスとスレイン法国六色聖典が一つ漆黒聖典第九席次”疾風走破”クレマンティーヌとの戦いを違う目線で少し振り返ってみたい。

 

居合い抜きの要領で発生させた”奥義《草薙》”。その名のとおりに不可視の真空の刃は、草むらを横一線に薙ぎ払いながら直進する。

 

だが、機能拡張した《神域》で相手の大体の強さを把握していたブレインは、その一撃で倒せない「人間種の中でなら極上の獲物」であることを理解していた。

 

ただ、予想を僅かに上回ったのは草むらに潜んでいた敵……”ビキニアーマー女の速度”だった。

伏せて《草薙》をやり過ごしたのはわかったが、そこから突進につなげるまでのタイムラグの短さと突進自体のスピードが尋常ではなかったのだ。

 

ブレインは冷静にビキニアーマー女の脅威度判定を上方修正し、その力を認めた。

 

(試してみるか……)

 

そう。つい最近、ようやく完成の域に達したと思われる新武技の”()()()()()()”として申し分ない力量を!

 

 

 

ちょっと前までブレインの最強剣技は、”秘剣《獅斬三光(しざんさんこう)》”と呼ばれる技だった。

これは《神域》を発動し、剣速を最大限に加速させる武技《神閃》を組み合わせ、相手の先の先を取る……それが骨子だ。

ブレインは二つ以上の武技の組み合わせの技を秘剣としている(奥義は組み合わせ不可の大技のことか?)ようだが、最初に完成した秘剣は《神域》の前段階にある同じ知覚系下位互換武技《領域》と同じく《神閃》の下位互換である《瞬閃》を組み合わせた”秘剣《虎落笛(もがりぶえ)》”だ。

彼の凄まじいまでの剣才を物語るエピソードとして、この《虎落笛》はカルネ村の移り住んでからわずか3ヶ月で生み出されたというものがある。

 

無論、これは「いずれガゼフ・ストロノーフに雪辱を果たす為」というモチベーションで編み出した技だったが……だが、それが甘かった。

モモンガにスカウトされた翌年、即ち3年前からブレインはその技量が認められ、毎年恒例となっている竜王国への”ビーストハント”に同行を許された。

だが、その戦いで《虎落笛》の力不足が露呈したのだ。

当たり前と言えば当たり前だが、いくらガゼフ対策とはいえ”対人間用”の武技であり、「並の人間の10倍の力を持つ」とされるビーストマン相手には、聊か威力不足だったのだ。

 

しかし、その程度で圧し折れるくらいなら、ブレインはカルネ村でダークウォリアーと始めて対峙した時に剣士としては終わっていただろう。

彼の特筆すべきところは、一度”絶対なる神の高み(ダークウォリアー)”を知りながらもそこへ飛翔しようと足掻く強さ……こうと決めたら突き進む不屈の心、すなわち”士魂(サムライ・スピリット)”である。

 

ブレインはまずその戦いでいきなり覚醒、《領域》の上位互換武技である《神域》、《瞬閃》の上位互換である《神閃》を会得。

この二つを組み合わせ、”秘剣《虎落笛・改》”を編み出した。

 

そして生きて……一度も蘇生や復活を経験することなく竜王国より帰国したブレインは確かな手応えを感じていた。

そう自分の剣は、あの人外どもにも通じるのだと。

 

そして始まったのは慢心も驕りも捨てた、ストイックな開発と研鑽の日々だ。

つまらないプライドを捨て、モモンガ(ダークウォリアー)を手本とするだけでなく、ネムを連れてカッツェ平野まで宿敵ガゼフの戦う様を見に行ったことも何度もある。

というよりダークウォリアーの武技は凄まじ過ぎて、原理は理解できても現状の身体能力では再現できないものが多すぎた。

何しろ普通の素振りが《神閃》で加速した剣速と互角かそれ以上なのだ。

 

ともかくその甲斐あり、《神域》と二振り分の《神閃》をかけた斬り降ろし→斬り上げの連続斬撃”秘剣《双虎斬(そうこざん)》”を編み出し、この技にさら居合いを組み合わせることにより三連撃として完成したのがこれまでの最強技”秘剣《獅斬三光(しざんさんこう)》”だった。

 

 

 

ところで、名前の感じが途中から変わったことに気づかれただろうか?

実はブレイン的には”虎”というのはリアル・タイガーではなく、明言は避けてるもののどうやらガゼフ・ストロノーフを揶揄してる単語のようだ。

例えば、ブレインが魔化を施した虎革の陣羽織を愛用しているのも無関係ではないらしい。

しかし、《獅斬三光》は、かなり明確な対ビーストマンを意識したネーミングだった。

ひょっとして少なくとも現時点では、ガゼフ越えはできたという自負の表れだろうか?

 

だが、居合いと《双虎斬》の組み合わせである《獅斬三光》は一度放ってしまえば、再び納刀するまで放つことはできない。

無論、《双虎斬》の連撃で繋ぐという手もあったが……そこで止まってしまえば自分ではないと、ブレインは考えた。

 

そう、彼が求めたのは「抜刀した状態で《獅斬三光》を凌ぐ技」。

そして、白羽の矢を立てたのがかつてガゼフより見て盗んだ「一呼吸で四斬撃を打ち込む」ことが可能な武技、”《四光連斬》”だった。

《神域》で空気の微粒子の動きまで把握し、《神閃》で極限まで加速した《四光連斬》を組み合わせる……その名も、

 

 

 

「”秘剣《鳶斬(とんびき)り》”!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

確かに人類種レベルなら超高速と呼べる四連斬撃は、放たれた。

きっと、ビキニアーマー女には同時に四つの剣閃が見えたことだろう。

 

蛇足ながら、《鳶斬り》の由来は、ブレインが新技の構想を練るため寝転がりながら空を眺めていると、空を優雅に舞う鳶の群れが見えたところから始まる。

”ピーヒョロロロロ”というどこか可愛らしい鳴き声は、どこか長閑(のどか)で、21世紀序盤の日本なら「田舎の原風景」の一つにも加えられるだろう。

だが、獲物を狙うときの死角から急降下(ダイブ)する鋭い一撃は、やはり彼らが猛禽であることを改めて思い出させるだけのインパクトがあった。

そう、ブレインに「獲物を狙う急降下中の鳶の群れすら切れる剣、か……」と新技のインスピレーションを与えるほどに。

だが、ブレイン的にはまだまだ不満があるようで、

 

「あ~あ……”()()()()”ちまったなぁ」

 

そう全身をバラバラにされ事切れたビキニアーマー女……クレマンティーヌを見下ろしながら、そうばつが悪そうに頭を掻いた。

 

「ブレインさん……?」

 

達人同士の戦い……呼吸を忘れ、あるいは固唾を呑みその一瞬を見守っていた部下の一人が冴えない表情のブレインを不思議に思い問いかけた。

 

「事情聞こうと思ったから、瀕死で留めるつもりだったんだよ。せいぜい、四肢を斬り飛ばす程度のつもりでな」

 

「へっ?」

 

「だが、この姉ちゃんの踏み込みが思ったより速くて、想定よりも深く刃が入っちまったのさ」

 

そしてブレインは何を思ったかクレマンティーヌの()()()()を拾い集め始め、

 

「ブレインさん、何をやってるんすかっ!? 死体なんて放っとけばモンスターや獣が勝手に……」

 

”ごいん”

 

「アイター!」

 

軽く部下その1に拳骨をくれてやりながら、

 

「バ~カ。俺の剣の欠点を曝け出してくれたんだぜ? それなりの礼をするのが(いき)ってもんだろうが?」

 

「礼ですか?」

 

「ああ」

 

(ま~たエンリに「未熟者」って笑われそうだな~。事実だからしょうがねーが)

 

「四斬撃を任意の1ヶ所に打ち込めるくらいの精度を出さんと、完成したとは言えんのかもな」

 

 

 

どうやら《鳶斬り》が完成へと至る……秘剣《爪切り》を凌ぐ武技となるのは、まだしばしの時が必要なようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ブレインさんの秘剣の変遷歴、説得力どうだったでしょうか?
モモンガ様=ダークウォリアー卿に鍛えられ、ビーストハントに3年前からさんかしてるせいで、その習得ルーチンが大幅に原作と変わりました(^^

最初は原作と同じ対ガゼフのモチベだったんですが、今は「ビーストマンやそれに準ずる人外を如何に多く手早く斬れるか?」に比重を置いてるような?

そんな折、原作で「英雄の領域に片足突っ込んでる」と自称するクレマンさんの登場は非常にありがたかったんでしょうね~。無論、試し斬りの相手として(えっ?


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