穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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皆様、お久しぶりです。
待ったいてくれた皆様、本当にすみません。
冬の初めに体調を崩し、少々入院をしたりしてました。

また読んでいただける皆様に心よりの感謝を。


第57話:”知ってしまった以上は……”

 

 

 

「知己があって嬉しい手合いじゃないが……その昔、俺と妻は誘われたことがあるのさ。ズーラーノーンにな」

 

カルネ村七星剣の一人、配下のブレイン・アングラウスに問われるとダークウォリアー(モモンガ)は苦笑と共にそう答えた。

 

そう、モモンガと愛妻キーノ……いや、正確にはダークウォリアーとイビルアイはかつてズーラーノーンに勧誘されたことがあった。

それもカルネ村に居を構える前、ちょうど竜王国で絶賛売出し中の頃だ。

その頃のズーラーノーンはとある小都市を”死の螺旋”による実験で壊滅させたばかりであり、ある意味において絶頂期であった。

 

(確証があったようには思えないんだが……だが、俺はともかくキーノの正体が”国堕とし”だってのは気づいてた臭いんだよなぁ~)

 

面と向かってそう追求されたわけでもなく、またそれをネタに加入を強要されたわけではない。

もしそんなことになっていれば、今頃ズーラーノーンという死霊系秘密結社だか宗教団体は歴史用語になっていただろうし、盟主であるズーラーノーン本人も同じく過去の人物になっていたことだろう。

 

まあ、そういうニュアンスで持ちかけられた……勧誘の際、「奥方と永遠の刻を過ごしてみたいと思わないかね? 定命の君にはそれ相応に魅力的な提案だと思うが?」とよりによって(おそらくは)ズーラーノーン本人から口説かれたのだ。

その時、モモンガは当然のように”人間の証明たる指輪(リング・オブ・ヒューマンビーイング)”を装着した、今と同じダークウォリアー・モードで遭遇したためにそう勘違いされたのだろう。

 

またその時に出会った明確に名乗らず組織の名だけ出したスケルトンが盟主ズーラーノーン本人だと推測しているのは、自分と同じ”死の支配者(オーバーロード)”だったからというところだ。

 

 

 

この世界に漂着して100年に及ぶ時間の中で、ユグドラシルでなら総合Lv80以上でなければ習得できないとされる同族(オーバーロード)と合ったのは後にも先にもこの1度限りだ。

本来ならLv60以上でなければ選択できない職業”忍者”が、ユグドラシル換算でLv20程度の存在が習得してる事例があるので一概にはLv80以上言えないが……遭遇骸骨はどう見てもLv70程度はありそうだったので、多分ズーラーノーン本人じゃないかと思っていた。

そう思えば”死の螺旋”、いや後に興味本位で壊滅都市を調べてみた結果で判明した”第7位階魔法《アンデス・アーミー/不死の軍勢》が使用できたのも納得できる。

 

そしてユグドラシル水準の強者が少ないこの世界で、総合Lv70ぐらいの実力と第7位階の魔法が使いこなせるなら、なるほど確かに超国家間秘密結社の一つや二つは作れるだろう。

 

その時に紳士的かつ丁重に(武力行使せず)お断りしたためそれ以降の接触はなく、推定ズーラーノーンとの邂逅はその限りだったのだが……

 

「流石はお館様、無駄に顔が広いな」

 

感心してるんだか呆れてるんだか微妙な口調のブレインだったが、

 

「これでも無駄に長生きしてるものでな」

 

と苦笑で返すモモンガである。

 

 

 

(だが、エ・ランテルで”死の螺旋”……いや、《アンデス・アーミー/不死の軍勢》を発動させる気なら、)

 

「クレマンティーヌ、確認するが……ズーラーノーンが行おうとしてるのは”死の螺旋”かどうかは判るか?」

 

「……その可能性が高いから、確認の為に潜入工作で派遣されたのが私だから」

 

「なるほどな……だとすれば、」

 

ダークウォリアー・モードのモモンガは半ば確信的に、

 

「エ・ランテルにいるのはズーラノーン本人じゃないな」

 

「えっ?」

 

「ズーラーノーン本人だったら”叡者の額冠”なんてブーストアイテムを使わなくとも、単独で”死の螺旋”程度なら起こせるさ。それに、本人ならあんな無駄な事はもう一度やろうとは思わないだろうさ。あやつもそこまで馬鹿じゃないはずだ」

 

「えっと……」

 

エンリを膝に乗せたまま苦笑交じりに微笑むモモンガは、

 

「20年ほど前の”死の螺旋”で使われたのは”第7位階魔法《アンデス・アーミー/不死の軍勢》というのだが……実はあの時に行われた本当の目的、”儀式魔法の()()”は失敗だったのさ。それもくだらない理由のな」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

モモンガ、ダークウォリアーの口から語られたのは驚くべき事実だった。

 

「”死の螺旋”って儀式魔法はそもそも、《アンデス・アーミー/不死の軍勢》で召喚したアンデッドを触媒にしより強力な……通常の召喚では生み出せないようなアンデッドを生み出す儀式魔法だと認識されている。それで間違ってないか?」

 

「う、うん」

 

単に《ドミネート/支配》を受けているだけとは思えないきょとんとした表情で頷くクレマンティーヌに、

 

「だが、本当の目的は違う。”死の螺旋”の意義はアンデッドの大量発生で生じた”負のエネルギー”を術者本人が取り込み、自らが強力なアンデッドになることを目的にしたものなのさ」

 

そこで一度言葉を切ると、モモンガはどう説明したものかと逡巡してから、

 

「だが、結論だけを先に言えばその実験は失敗してる。確かにアンデッドが高密度に集まればより高位のアンデッドを生み出す触媒にはなる。だが、その場で発生する負のエネルギーを取り込むことも、ましてや自らを強力なアンデッドに生まれ変わらせることも全くの別問題なのだよ」

 

あんまりといえばあんまりなオチなのだが事実である。

実際、そもそも”死の螺旋”は二百年ほど前にある勘違いした者の説明から端を発した失敗することが当たり前の儀式魔法なのだ。

自ら死霊使いの頂点を極めたと言えるモモンガにしてみれば「勘違いにも程がある」と瞬時に唾棄すべき内容だ。

 

「そもそも《アンデス・アーミー/不死の軍勢》その物が、字の如く『数千に及ぶアンデッドの軍勢を召喚する』以上の効果はない魔法だ。それを触媒にしてる以上、儀式で少々いじくったところで上手くいくわけはないのさ」

 

 

 

クレマンティーヌは比喩ではなく目が点になった。

確かに彼女は座学に関して飛びぬけて優秀という訳ではないし、所詮は特殊工作員である以上は本当の国家機密に触れられるという訳ではないが……自分の持っている知識とは量も質も違いすぎた。

 

「エンリ」

 

膝の上の少女にそう呼びかけ、

 

「今の話は全て聞いていたな?」

 

「はい」

 

さっきまでの(とろ)けた表情はどこへやら。

表情筋を引き締めた少女(エンリ)はまるで別人のように見えた。

 

「すまんが簡潔に書簡にまとめてくれ」

 

「かしこまりました」

 

モモンガは露出過多の神官服の少女を膝から降ろし、

 

「ズーラーノーンにスレイン法国……間違っても尻拭いしたい相手じゃないが、」

 

やれやれと言いたげな表情で、

 

「知ってしまった以上、まさか見過ごすというわけにはいかんだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

しばらくパソコンいじれない環境にいたので、こうしてキーボードで文章書くこと自体が久しぶりで、はたして前の雰囲気が出せているのか、そもそも文章として成立しているのかかなり不安です。

まだ本調子とは程遠く、以前の数倍は執筆に時間がかかってしまいそうですが、またお付き合いいただければ幸いです。

遅ればせながら、ただいまです。



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