穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック

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今回は少々生臭いモモンガ様です(^^

まあ、お骨ぼでぃじゃなくて生物ぼでぃで生きてる時間も長いから仕方ないかと。




第58話:”人の社会は金がモノを言う”

 

 

 

「ズーラーノーンにスレイン法国……間違っても尻拭いしたい相手じゃないが、知ってしまった以上はまさか見過ごすというわけにはいかんだろうな」

 

ちょっと……いや、割と本気で渋面を作るモモンガ(ダークウォリアー)であった。

 

(実際、エ・ランテルが”死の螺旋”で生者お断りのアンデッド・リゾートになどになったら、困るのはカルネ村も同じだしな)

 

カルネ村の産業は一次二次を問わず、大きな括りで言うと農産物がそのほとんどを占めている。

特にピニスンたちドライアードの力を借りて高品質が売りで実際に他の地区産に比べ高値で取引されている生鮮品の類は、エ・ランテルが主要消費地だ。

いくら《プリザベイション/保存》の魔法があると言っても全ての物品にかけるのは流石に現実的ではない。

例えばバレアレ商会の各種ポーションや毛織物、製紙に畜産加工品や酒類などそれなりに長期保存や長距離輸送に耐えられる生産物はあるが、それだけで村民全員が食べていくのは少々厳しい。

またドワーフ達のルーン工房で作られる武器/武具の生産キャパシティは有事に備えることを加味すれば、冒険者登録してる村の自警組織”カルネ村修道会”の消費分でほぼほぼリミットとなる。

いや、仮に余剰生産分が合ったとしても、モモンガとしては少なくとも余計な騒乱を招きそうな王国市場にルーン処理武装を流す気はない。

 

それに今や”カルネ・ブランド”として高級地産ブランド化してるカルネ村の物品を取り扱ってる商会、最大手のロフーレ商会をはじめ王国全土に販売する卸先はエ・ランテルに集中してるのだ。

つまりエ・ランテルが経済活動が成り立たない死霊の街と化せば、カルネ村は一挙に消費地と販路を失う、露骨なまでの村の存亡危機だ。

 

他にも原案モモンガの”カルネ・ブランド”確立に大いに貢献してくれたロフーレ商会代表バルド・ロフーレに個人的な恩義や友誼を感じているとか、エ・ランテルが死都に変われば子供の頃から目をかけているジルクニフが困るだろうな~という思いもあるが、最優先すべきは……

 

(カルネ村の食い扶持くらいは守らないとな)

 

割と即物的あるいは現実的なそれだった。

どこぞの世界線ならば、冒険者としての名声を得るために最大限に利用したが、今のダークウォリアーは妻のイビルアイ込みで王国では”表立ってこれといった活動をしてない(腐敗貴族との面倒事を避ける為という理由もある)”だけであり、名声は十分すぎるほどある。

故に行動理念はこういうものになるのだろう。

別に今のモモンガはカルネ村の村長でもましてや地下大墳墓の盟主でもない。だが、ダークウォリアーは領主であるラナーの名代であり、モモンガは崇められる死の神だ。

善意でエ・ランテルを救う気など毛頭ないが、民を食わせられない政治家も御利益の無い神様も等しく無価値だとモモンガは考える。

そして偉大なる魔導王ではなく、お骨ボディに限らず時には傭兵や冒険者(ダークウォリアー)、また時には評議国特使(アインズ)として大半をこの世界で生きる人の営みの中で過ごした一世紀にわたる経験が、彼に当たり前すぎる帰結を齎せた。

曰く、『人の社会でモノを言うのは金である』だ。

 

もっとも結局、なんのかんの理由を付けたところで種類の差異はあれ好意を持つ相手の為に動くのは、()()()()()()()()でも同じなのかもしれないが。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「手にある情報と状況から考えて、エ・ランテルで騒ぎを起こそうとしているのは”死の螺旋”の理屈は知りそれを準備できる地位……高弟の誰かだろうな。ズーラーノーン本人はアレが根本的な意味で失敗だと理解してるから今更どうにかしようとは思わないだろう」

 

(もしその高弟が失敗の理由を理解していてそれでもやろうとするなら、単純にエ・ランテルに対するテロって線も考えられるか……)

 

「死者を用いた儀式魔法をやるなら、場所は共同墓地がベストだろうな」

 

敵国であるバハルス帝国との国境に最も近い大都市であるエ・ランテルは、戦場に近いせいか街の規模から考えても名物になるくらい大きな規模の共同墓地が、自慢の城壁の内側にある。

死体を触媒としたアンデッド生成ならまさに打ってつけだろう。

 

というより死体という触媒を使わずにアンデッドをぽんぽん生み出せるのは、ことこの世界に至ってモモンガをはじめ極々少数な者だけだろう。

そのモモンガでさえも死体を媒介しなければ召喚時間には限りがあり、永続召喚するにはやはり死体がいる。

 

(状況を考えれば……)

 

モモンガは自分の考察を書面に纏めていたエンリを見やり、

 

「エンリ、出陣の用意だ」

 

「はいっ!」

 

元気いっぱいに返すエンリに続き、

 

「ブレイン、ゼロを呼んで来てくれ」

 

「お館様、そりゃないぜ~。俺は留守番か?」

 

確かに彼の主武装である”神刀・滅却”は、この世界の基準なら十分に高い神聖属性が付与されているが、アンデッドの中ではド定番のスケルトン系は強い耐刺突/斬撃属性を持っているのが定石だ。

ブレインほどの腕前があれば『切るべき肉がなくとも骨を断つ』ことぐらい出来そうであるが、骨の化け物は一般に殴打武器に関して脆弱だ。

またアンデッドは全般的に神聖属性の武器に炎や光、そして治癒魔法を弱点としてもっている。

 

モモンガの推測では、クレマンティーヌが持ち込んだ”叡者の額冠”は、エ・ランテルに潜伏してるだろうズーラーノーン一派にとっては本来計算外の代物、『ブーストで儀式魔法の成功率をあげる』程度の期待しかしてないだろう。

法国の諜報部が尻尾を掴んで潜入工作員(クレマンティーヌ)を派遣したということは、もう儀式は発動直前の段階にあると考えた方がいい。

 

では人類の限界を超えてると認識されてる第7位階魔法(アンデス・アーミー)を”叡者の額冠”無しに発動可能か?と問われれば……ズーラーノーンの高弟レベルなら可能であるとモモンガは考える。

例えば本来は使えぬ高い位階の魔法でも、儀式などを使ってブーストし発動させることはできるのだ。

そもそも儀式魔法”死の螺旋”は、《アンデス・アーミー》を叩き台に儀式を併用し発動することを前提にした魔法なのだ。

 

最悪、今この瞬間に墓場からアンデッドがあふれ出てもおかしくはない。

 

そんな状況が想定されている中でブレインを連れて行くのは少々悪手、同じ理由でデイバーノックもまずい。

アンデッドが溢れ変えるような乱戦の中で、まだ人への擬態魔法を覚えていないデイバーノックがスケルトン・ボディを晒せばどんな混乱を招くか簡単に想像できる。

 

 

「まあ、今回は留守番だ。カルネ村を空き家にするわけにもいかんしな」

 

ネムとハムスケもあまり相性が良い相手とは言えないし、グに至ってはまだひょうたん湖から戻ってきていない。

 

「それに……」

 

”ヴォン”

 

唐突に室内に生じた楕円形の暗闇から仮面を被った小さな影が現れた。

 

()()()、まさか私を置いていくとは言わないよな?」

 

モモンガは予想通りにわざわざ転移魔法で現れた最愛の存在に苦笑し、

 

「完全にオーバーキルだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

いや~、こんなに長時間書くのは久しぶりで、しかもハーメルンの操作やらタグやら忘れてるし、そのタグや機能も増えてるしで手探り状態です(^^

今回は、ナザリックの盟主でもなく冒険者としての名声も必要にして十分なモモンガ様が、エ・ランテル救難に向かう理由付けの回でした。

いかにカルネ村の産業が原作よりありえないほど大幅にパワーアップしてても、裁ける場所が無ければ宝の持ち腐れですし。

どうやら遠征メンバーも決まったようだし、次回辺りはエ・ランテルに逝けるかな?


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