なお、村の擬人化とか萌えキャラ化とかはありません(笑
エンリ・エモットはイメージする。
イメージするのは最強の自分……それも悪くはないが、今は村とその周辺の地形だ。
まず村の周囲はぐるりと先を尖らせた丸太の塀でぐるりと覆われている。
その高さは最低でも4mはあり、ちょっとした砦のようだ。
外側の先端には使い古した剣や槍の穂先、農機具を再利用した斜め下に突き出される”カエシ”が取り付けられ上りにくくし、内側には弓兵や弩兵が自由に走り回れるようキャットウォークが張り巡らされている。
しかもこの丸太塀、丸太一本一本が魔化がされていて見た目以上に頑丈で、その強度は王城の石造りの城壁を凌ぐかもしれない。
しかもかなりの難燃であり、火矢や油による着火程度では簡単に燃え広がらないように出来ているようだ。
門は2ヶ所で、トブの大森林へ向かう北門(裏門)と街道へ続く一本道が延びる南門(正門)だ。
裏門は門を閉め閂をかけると自動的に不可視化の魔法が発動されるようになっていて、周囲の丸太塀に溶け込み、よほど上位の感知系魔法でも使わない限りそこに門があることを気づかれることはないだろう。
正門はそのような魔法ギミックこそないが、だからこそ堂々とした門構えであり、造りからして露骨なほど堅牢さをアピールしていた。
左右の門柱とそれを繋ぐブリッジ部分は頑丈な焼きレンガで作られており、その威容は柱と言うよりむしろちょっとした塔だろう。
実際、門柱の内側には階段がつけられており、門柱の天辺には遠見櫓をかねた監視所に”
正門自体も分厚い鉄板であり、蝶番なども含めて当然のように魔化されていてそんじょそこらの破城槌じゃビクともしないだろう。
加えて破城槌対策としてさらに門前は広く街道へ続く道は綺麗に整備されているが、微妙に曲がりくねっていて門に対してなだらかな傾斜(上り坂)を描いていた。
そしてその道にも細工はしてある。
門から200mばかりは道の左右は冬でも枯れぬ背の高い草地(なので火が着きにくい)になっており、また中には道から見えぬように馬防柵と鋼線がランダムに張り巡らせれている。
無論、これらの処置は伏兵を潜ませるためだ。
結論から言えば門を閉め、ポロボロスをはじめ塀の上から弓を雨霰のように射掛けるだけで簡単に撃退できるだろう。
だが、エンリはそれを良しとしない。
上策なのはそれだろうが、上策が必ずしも良策とは限らない。特に先々のことを考えれば、だ。
カルネ村を守る戦いは間違いなくこれからも続くとエンリは読んでいた。
むしろ、”
篭城による迎撃戦は、王国が軍として異端討伐を決断した時のためにとっておきたい。
エンリは正直、カルネ村以外にこれといった資産はなく、特に軍に対し実権のない(ように見える)ラナー王女の領地という肩書きをさほど信用していなかった。
逆に言えば王女が暗殺される……は難しいにしても何らかの冤罪で廃嫡されるなどで政治的に排他されれば、この村はただちに討伐対象になりかねない不安定で、危険な場所だという自覚はある。
貴族はそういう腹芸や搦手を得意とする薄汚い手合いだとエンリは社会通念的に認識していたし、こと王国に対しては間違った認識ではない。
モモンガがどんな情報網をどれくらいの範囲で引いてるのかは知らないが、ここカルネ村では第一王子を筆頭に多くの貴族が”八本指”と呼称される犯罪結社と繋がってることは常識であり、またどこによからぬやからの耳や目があるかわからない以上、村外で語ることは固く禁じられていた。
嫉妬を感じるくらいモモンガはラナーを高く評価してるが、だが頭脳だけで全てがなんとかなるわけではないことはエンリだって知っていた。
加えて、この村には王国では異端である死の神を信仰し、亜人との共存を計り、村民数を考えればありえないほどの富を稼ぎ出してることも含め、欲に目がくらんだ貴族が食指を伸ばす大義名分と理由がそろい過ぎていた。
そうであるが故にカルネ村の住民は王国民と言う意識は低く、税の納め先であるラナーに対しても税率を低くしてくれてることに感謝はしても、やはり「ラナー王女の領民」という意識は高くはない。
良くも悪くもここは偉大なる賢者、村に多くの富と安寧を齎せてくれた”
余談ながらエンリは、后は諦めているが妃ポジには自分が納まってると自負していた。
ただ……独占する気はないし、そこまで自分は独占欲は強くはないが、実の妹を含め何人がその地位に名乗りを上げているのか不明なのが気になるところだ。
☆☆☆
エンリは一度目をつぶり、情報を精査し纏め上げ迎撃プランを練り上げる。
頭の中に甘噛みされるような疼きを感じた……それが職業レベル、コマンダーとジェネラルが本気で仕事をし始めた感覚だと彼女自身は気づかない。
そしてその裏側でまだ名前をつけられるほど顕在化していない”
再び目を開いたときに彼女が幻視したのは、まだ本来の視界の遥か彼方にいる帝国鎧姿の騎馬隊が迫り来る様子だった。
焦りはない。それどころか思考は雑念が晴れどんどん澄み渡ってくるような気がした……
「門外での迎撃作戦を執り行います!」
彼女は手に持つ”蓮の杖”を一振りし高らかに告げた。
読んでいただきありがとうございました。
開拓村とは名ばかりの実質王国最高峰の砦っぽい”カルネ村”と、ジェネラルの片鱗を魅せつけ何やら覚醒しつつある気がするエンリでした(^^
ペリュース隊長とか絶対、実態知らないだろうな~と予想。
資料とかまともに読んでなさそうだし。