そして何かが爆ぜます。
「俺、終了」
ロンデスは気がつくと思わず呟いてしまう。
もう「一体これのどこが開拓村なんだっ!? お前のような開拓村があってたまるかっ!!」と衝動的にわめき散らしたくなる砦その物の閉じられた巨大な鉄門……広場のように開けた門前に腕を組み佇むのは強者の雰囲気を隠そうともしない褐色禿頭の偉丈夫だった。
いかにも質が良く動きやすそうな法衣を着込み、その丸太の如く太い両腕両脚には、同じ意匠が施された重厚なガントレットとレガースを装着している。
おそらくは噂に聞く”単身の実力ならアダマンタイト級”の一人だろう。確証はないが確信はあった。
ベリュースどころか自分も、いや25騎全てでかかってもあっという間に返り討ちにされそうだ。
それだけじゃない。
その強者の左右には騎馬に回り込まれぬように”拒馬(移動式の簡易馬防柵)”が半円状に張り巡らせてあり、その後には明らかにこちらより多い数の兵が待機していた。
ロンデスは素早く戦力を分析する。
おそらく拒馬に立てかけられてる鉄板は、タワーシールドだろう。
そして穂先を上に向け構えられてるのは丸太塀の天辺に届きそうなロングランス……馬が近づけば、即座に盾は起き上がり槍は突き出されるはずだ。
その後にも兵はいるが、おそらく弓兵……いや、弩兵か?
(これじゃあ王国の正規軍を正面切って相手をするほうが、よほど楽だろうに……)
どうやらこちらが騎兵の集団だと言うのはとっくにバレていたらしい。
もしかしたら、攻城兵器なぞ影も形もない、無抵抗な村人をいたぶるためだけの軽装備の部隊だと言うことまでお見通しかもしれない。
(要するに俺たちはどうしようもない間抜けってことか……)
だから敵は十分な装備と余裕をもって待ち構え、対しこちらは騎兵の最大の武器である機動力や突進力を打ち消され、門の前で立ち往生だ。
彼我の戦力差は圧倒的……無様に逃げ帰るしか方法はない。
(もっとも逃がしてくれる保証は、どこにもないが……)
どうせどこまでも政治的な汚れ仕事、大儀無き任務。更にベリュースのお守りもいい加減ウンザリだ。
いっそ自分だけさっさと降伏してしまおうかと考えるが、
「我が名は”ゼロ”。
低く静かに、そして誇らしげに口上が始まった瞬間、
(あっ、これ手遅れな奴だ)
逃げるタイミングも降るタイミングも完全に逸したことをロンデスは悟った。
「お前たちが何者なのかは問わん。されどここは偉大なりし”死の神”が安住の地と定めた村。土足で汚そうとするならば容赦はせぬ」
ギラリとどんな鋭利な刃よりも鋭い眼光をその男は放った。
☆☆☆
「はっ! 異教徒どもが偉そうに!! さっさとその門を開けるがいいっ!!」
(バカ! ベリュース、やめろっ!! 強者相手に挑発してどうするっ!? 力の差さえも理解できないのかっ!!)
だが、その言葉が届く前に……
「それがお前の答えでいいんだな?」
見る目より”狙う目”に切り替わったその瞬間、ロンデスは褐色の巨漢……ゼロが消えたように見えた。
勿論、不可視化の魔法を使ったわけではない。
予備動作も助走もない。
”シャーマニック・アデプト”で全身に刻んだ動物を象る刺青の力を解放したわけでも、武技を使ったわけでもない。
ただ、ガントレットとレガース、モモンガより賜りしアイテムで底上げされた”純粋な身体能力”のみで、比喩でなくロンデスが瞬く間(約0.3秒)に10m程あった距離をものともせず騎乗するベリュースの眼前にまで跳躍し、
”パァン!!”
ロンデスが気がついた時には、命乞いをする間もなくベリュースの頭が派手な破裂音と共に爆ぜ散っていた……
読んでくださりありがとうございます。
いやー、カルネ村までは遠くなかったけど、”カルネ村防衛戦”まで遠かった(^^
ニグンさんまであと何話かかるんだろう?
そして「お金あげましゅ」を言う間もなく爆ぜてしまったベリュース隊長。
それでも一撃死な分、原作よりはマシな死に方だったような?
そういえば、このシリーズのゼロって割としゃべってくれる方かも(^^