ニホンで言う所の土曜日の昼。レレイは早めの昼食を済ませ、その日の仕事を切り上げた。
「早上がりとは珍しいですね老師......」
出掛ける、とレレイ。自衛隊の施設で皆で集まって何かをするので、それに参加すると。
”何かする”とは?
フォルテは訝しむ。何かって、何? という疑問を直接問うことはできなかった。しかし
ジエイタイと関わるのであれば何かしらの技術的交流があるに違いない。
「老師、付いていってもいいですか? 」
”構わない”とレレイ。だが、フォルテにはなんの益もないだろうとは思ったが。そうこうして
いるうちにコダ村の少年が二人迎えに来た。彼らは昨日、村に帰るはずだったが伊丹に”遊びに来
ないか”と誘われて組合の宿泊所に泊まり込んでいた。
彼らは何をするかは知らないが、自衛隊の基地の内側を見たくて参加を決めたのだ。えんじ色の
ジャージに着替えたレレイと一緒に丘の上の自衛隊施設を目指すのだった。
”いらっしゃい”と伊丹が入口で出迎えた。レレイは基地内で技官の立場があるため、身分証で
通門できる。他の三人は一般の入場者として手続きをして基地に入った。柔道場に案内されると
下駄箱に靴がいくつも入っており、ある程度人数は集まっているようだった。
「じゃあボチボチ始めようか」
と伊丹が声をかけ、皆を集めた。ジャージ姿のレレイ、テュカ、ロウリィ(!)ヤオ、
モーイ、ペルシア、コダ村の少年二人、栗林、富田、ボーゼス、と見学のフォルテと
エムロイ神殿助祭のニーナ。
「今日は自分が仕切ります。倉田といいます。」
と自己紹介。ラッシュガードと呼ばれるピッタリとしたシャツとファイトショーツと呼ばれる
海水パンツに似たショートパンツ姿。
今日やる”グラップリング”の説明から入る。全ての打撃は禁止。関節技、絞め技による決着。
テイクダウン、ポジショニング、スイープで得点による決着もあること。「で、それだけじゃ
わからないでしょうから、デモンストレーションを経験者の富田陸曹と栗林陸曹の方にやってい
ただきます」と二人が前に出た。栗林はジム巡りをするほどの猛者なので言うまでもない。富田
もまたこの種の研究、研鑽については趣味を兼ねて掘り下げている。因みに富田は半袖ラッシガ
ード。栗林は長袖とファイティングショーツという格好。
”コンバッチ!”倉田の掛け声が掛かると、二人は手のひらと拳を合わせスパーリング開始。腰
を落とし、背筋を伸ばし顔を上げるレスリングに似たフォーム。右手を伸ばす富田。その手首を
栗林は左手で掴む。引っ張って”手繰る”動きを見せるも、富田は頭を押して手繰らせない。今度
は富田が掴まれた手を下に引っ張り、”ガブって”栗林の頭を胸で押さえ込む動きを見せる。と、
それに合わせて頭から仰向けに富田の下に潜り込む”今成ロール”を仕掛け、足にしがみつく。足
、もしくは膝の関節を狙うも、富田は掴まれた足を中心に半回転し、栗林と正対する。富田スタ
ンド、栗林オープンガードの体制。いわゆる”猪木×アリ”状態。富田の動きに合わせ、足を当てて
常に正対する様、守る。右に左に、富田は栗林の周りを回る。切ら返す瞬間、栗林の足を掴んで
流しつつ、脇腹付近に踏み込んだ。”ニーインザ・ベリー”に押さえ込む、前に栗林は富田の乗せ
てきた膝を”エビ”で押し、距離を取ってクオータガードに戻す。
富田、数歩下がって立つように促す。栗林、立って先程と同じように伸ばされた富田の手首を
掴みながら右に流す。富田、わずかに流されながらも片足タックル。が、わずかに切られ、ガブ
られる。富田の首に栗林の腕が巻き付き、倒れ込みながら富田の足に自分の足を絡めて逃がさない
。ギロチンいや”フロントチョーク”完成。富田、背中を叩いてタップアウト。「ストップ!」
「おー」とか「へー」と声が漏れる。多少やりとりを見せる意思疎通が二人にあったため、
派手目に動いたところもあったが、概ね好評の様子。当のふたりは「ナイスチョーク」とか、
「ナイスパスガード」
とか言い合っていた。
「レレイ、どう? 」
レレイのために催した、と云う訳ではないが、やはり反応は気になる。日本でもこの種の競技
をやる女性は少なく、どマイナーな競技だから。
「あの距離での戦闘は見たことがない。わたしの知る魔法では援護しにくい。新たな魔法を考える
必要があるかもしれない。興味深い」
そうか、興味を持ってくれたのなら、よかった。と伊丹。
「やはり、経験は必要」
もう少し気楽に見て欲しかったがまあいいか。
「じゃあ大体理解してもらったところで、準備運動がてらに基礎の運動をします」
倉田の指導がはじまった。エビ、腰切り、横受身、前回り受身。少し走って、腕立て伏せ等で
ちょっと息を上げる。「少し休憩して、水を飲んでください。その後、テクニックをやりましょう
」と促した。元々戦う職にある者が多いため、コノぐらいの事では軽く汗を書くぐらい。少年たち
は言うまでもなく元気。なれない動きも楽しんでいるようだった。
「では、さっき決まり手になった”フロント・チョーク”と”アームバー”あと”クローズドガード”
をやりましょうか」
倉田は二人組になる様指示し、5組のペアができた。
レレイ ー テュカ
ロウリィー モーイ
富田 ー ボーゼス
ペルシアー 栗林
コダ村少年二人組
伊丹はあぶれたので、富田の組に混ぜてもらうことにした。ちょっと不思議だったので”ボーゼス
さんはなんで参加したんですか”と聞いてみると”富田の趣味に興味があって来てみましたが、意外
と騎士団にも必要な技術かも知れませんわね”とのこと。
倉田が富田を受け役に、二度三度と技の手順をしてみせる。そのあとペアでそれぞれに掛け合っ
てもらう。倉田は見て回り、皆に助言する。出来なくてもいいし、今日覚えなくてもいい。一度
身体を通しておけば、残る。スパーの最中に欠片でも思い出せば、どうやったら出来るんだろう
と考える。それでいいのだ。いきなり出来る奴なんかいないのだ。
「大体わかりましたわ」
誰かと思い、見てみれば、ボーゼス。「この後、”すぱーりんぐ”という試合形式の稽古がある
のでしょう?」なんか風向きが変わってきたのを感じつつ、お相手してくださいますよね、クリ
バヤシ?その場の全員がなんかヤバくね?と感じ始めた......。
大丈夫か、と伊丹。自分が見るので何とかします、と富田。怪我人出すのはやめてくださいよ、
と倉田。手加減するけど、返り討ちよと栗林。
やっぱりそうなるか、と嘆息しつつ「遠慮なくぶつかり合うのはいいんじゃないのかな」と半ば
無責任につぶやく。意外と客が呼べるカードかもしれん。緩くスパーはやってもらうつもりでい
たが、合意の上のガチスパーなら仕方がない、ちょっと皆には見ててもらおう。
じゃあやってみますかと試合場の中央に二人を呼び、遺恨試合が再び開戦するのであった....。
カタチと整えるのに手が掛かっています。
申し訳ありません。つぎはレレイとかロウリィとかを書きたいと思います。