GATE 彼の地にて斯く格闘えり   作:秋みちのく

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第4話

 

 

 モーイ・エム・スワンリィ

 

 エムロイの見習い神官にして男の娘。九百年越えの縁によってエムロイの神官を志す。

懸命に職務に邁進するも、未だ見習い。才覚無しと認められる。本人、自覚なし。

 

 レレイ・ラ・レレーナ

 

 リンドン派の聖魔道士。戦闘魔法の使い手。その研鑽と研究は”戦い”のあらゆる状況に

向けられ始めた。魔導の新しい可能性を求める賢者。

 

 "大丈夫か"と声を掛けた伊丹にレレイが答える。"門の向こうには、こちらにはない習慣やルールがあると思われる"。レレイは自分の考えを語る。これは完全な武装解除を求

められ、尚且つその状態で敵を制圧する為の技術ではないか。こちらでは有り得ない状況。逆に言えば、そうなった時には我々には成す術がないが、向こう側の者たちはその術

がある事になる。

 

 我々はそれを知っておく必要がある。自分たちが生き残るために。と、この言葉は心の

内に秘め、立ち上がりつつモーイに相対した。

 拳と掌を合わせ、開始の挨拶。レレイは腰を下ろしてシッティングガード。モーイは膝立ちの姿勢。モーイ、ジリジリと距離を詰める。と、手を付き、滑り込むように接近し覆

い被さって押さえ込みを狙う。レレイ、腰を上げてモーイに抱きつきながら仰向けに倒れ

こむ。が、同時に両足でモーイの胴を挟み、完全なクローズドガードの中に捉えた。モー

イはトップポジションであるものの、この状態ではチョークを決めることも関節を取りに行くことも難しい。ガードを突破し、サイドポジション等の押さえ込みの状態に移らなけ

れば攻めることができない。レレイは守勢ではあるが、攻めさせない。モーイは攻勢ではあるが攻め手を封じられた状態。

 しかし膠着は誰も望まない。モーイに声が掛かる。"そのまま立ち上がって揺すってレ

レイをずり下げればガードが割れる! "とアドバイス。

「 んしょ!! 」

 と気合いとともに立ち上がった! "やった!" "すげぇ!" "やるじゃなぁい"と歓

声が上がったのも束の間、持ち上げられたレレイは挟んだ足を解いてすっくと畳に立っていた。

「今日はスタンドからは無しね、膝立ちからで 」

と倉田がリスタートを促す。モーイの力を振り絞ってレレイのガードを破ったかに見えた

が、降り出しにもどされた。更に消耗させられるというおまけ付きで若干不利になったよ

うだったが、本人の性格が幸し、明るく前向きに " お願いします! "と再開された。

 またも同じアプローチでレレイを押さえ込みにかかるモーイ。無為無策、にも見えるが、彼には日頃の鍛錬の裏付けがある。攻め続ける事でレレイの気力、体力を奪い、最終

的に勝利する。そういう作戦も間違いではない。力があるものはそれを使う。体力、技

術、あらゆるもの使って競技における勝利を目指す。モーイはレレイと比べて体力が一番

優位であると判断し、疲れさせることでレレイの発想や判断力を削り取ろうというのだろ

う。体重をかけることができさえすれば、疲労させて優位になり時間はモーイの味方にな

る。

 だがレレイはさせない。足で肩を押さえ、外されればもう片方の足で反対の肩を押し近寄らせない。

" 足をつかんで捌く! "とモーイに声が飛ぶ。モーイ、両手でレレイの両足を掴む。レレイ、起き上がりざまにモーイの手を掴む。両足を蹴り込み、モーイが掴んだ両足が自由

になる。その両足が。

 顎となってモーイを襲った。肩口と脇下を挟み、右の肩口と腕を引きずり込んだ。

" トライアングル・チョーク! " " マジか! " " レレイすぅごーい " 場内ざわつく。

 教えた倉田からしてもかなりの驚き様である。クローズドガードからの派生で打ち込み

を教えたが、すぐに使おうとは普通しない。センス、というよりは嗅覚か。レレイは冷静

にモーイの頭を引き込み、足を組み直し詰めに入る。" 肘を張って隙間を作っ " 

" 頭を上げて! "モーイにアドバイスが飛ぶ。レレイは冷静に詰めに入る。モーイは

必死にもがくがアドバイスは耳に入っていない様子。もがきながらも立ち上がる事を試み

る。さっきのように立ち上がらり、揺すって落とす、をもう一度やるつもりらしい。一度

やったことを覚え、実践する。モーイは間違っていない。が、しかし彼の手足の動きは鈍

くなり、そして動かなくなってしまった。

 

「ストップ!レレイちゃんそこまで! 」

 

 倉田が動いた。レレイが技を解き、モーイを仰向けに寝かせた。" 大丈夫か、返事をして! "

 

「......んん~ほえ~ 」

 

 どうやら意識ははあるようだ、落ちる前に止めることができた倉田は胸をなでおろす。

 

「聖下、負けちゃいいましたぁスミマセン.....。」

 

「いいのよモーイ、あなたは頑張ったわぁ、学びの時の勝ち負けは気にすべきではないわぁ。

失敗も敗北も糧として学ぶ時よ、今は。」

 

 とロウリィらしく慰めた。

 

「すごいなレレイ、今教わったことをもう使えるなんて、頭がいいとは思ってけど意外な才能じゃないか」

 

 と伊丹は褒めた。しかし当のレレイは元々無表情でもあるが喜ぶ様子はない。

 何か引っ掛かりを感じた伊丹が" どうかしたのか?"と声をかける。" 考えている "とレレイは答えた。

あの時動けなかった理由を。" あの時って? "レレイは伊丹に顔を向け、然と答えた。

 

「シャンディー。ロンデルで」

 

 導師号審査の時、刺客を排除したあと、味方だと思っていたシャンディーに刺突された

ときのことだ。それについては伊丹も悔いるところがある。手強い刺客を排除出来たこと

に安心してしまい、警護対象から目線を切ってしまっていたことは警護任務失敗であった

からだ。レレイが助かったのは鎧を着込んでいたからに過ぎない。レレイは続ける。戦闘

魔法を学び、実践しようというのに、不意とは言え対処できなかったことはあるまじきこ

と。手段はあるのに使えないでは術者とはいえない、と。咄嗟に対処できる魔法は限られ

るし、使えない場合もあるかもしれない。刺客は正にそれを狙うだろう。魔術師が魔法だ

けに頼るの危険だ。戦いの場に出て行くのならなおさらに。

 クラタは" 慣れ "といった。身体を接触することのよりも、" 平時 "と" 有時 "を切り替える事が重要で、これが自分には欠けている。この技術のやりとりは、それ

を補う助けになる。咄嗟の時に限らず、対処の手数は持っていて損はない、とレレイ。

 

 正直、伊丹はそんな事は全く考えもしなかった。体を使った遊びを頭の隅にでも置いて

おく切っ掛けなればいいな、ぐらいにしか思っていなかった。ところがレレイの心、とい

うか知識欲に引っかかってしまった。

 

「これは失敗だったかもしれない.....。」

 

 伊丹は少し後悔した。

 

 

 

 

 数週間後ーーーーー

 

 皇太女府にて。

 

「グレイ、どう思う。」

 

 ピニャは呼び出した薔薇騎士団の古参にして参謀格に問うた。

 それはボーゼスから届けられた手紙、というよりは報告書に当たるものだった。

それは帝国軍がおおよそ想定してない戦闘形態に関する報告であり、またその技術、運用

の研究を促すものであった。

 

「 武装解除時の徒手格闘、ですか.....。」

 

 ちょっと前の彼ならば" 現実的ではありませんな "と一言で終わりにしただろうと

ピニャは思う。勿論ピニャにしてもそう思う。だが今は門がある。門の向こうから非常識

なものがやって来ている。あらゆるものが覆されている現在、それを考える必要、重要度

はいかばかりのものかを問うているのだ。

 グレイも" あらゆることは覆りうる "という事を念頭に入れ、しばらくして口を開いた。

 

「門の向う側ならばこその術ではないか、と小官は思います」

 

 " そうか "とピニャは短く答えた。グレイは辞し、この話はこれまでと思った。

だがそうはならなかった。皇太女殿下直々の命により予算が付けられ、人が集められた。グレイには全く訳が解らなかったがハミルトンには思い当たるフシがあった。

 

「もしや"芸術"のほうの研究では....。」

 

 

 

 

 

 おしまい

 




ロウリィ書けませんでした。
スミマセン。

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