ソードアート・オンライン ~紫紺の黒猫~ 作:☆さくらもち♪
幼い少年としての《黒猫》と。
稀代の暗殺者としての《黒猫》は。
似ているようで似つかない背反する存在。
優しいが表現下手、人に対して臆病で、たった少しの時間だったのにも関わらず恋心を自覚してしまった紺色の少女が大事だと思う一面。
きっかけがあれば殺戮を愉しんでしまう、残酷で惨殺を簡単に行える自分自身。
「・・・ん」
あらゆる殺人術を身につけ、持ち前の天性の才能とセンス。
《黒猫》ユキは、無意識に決めた領域内に入り込んだ物体に対して強い警戒を抱く。
無機物だろうとそれを視界にいれ脳内へと記憶されていく。
生命体であれば、どんな特徴で照合がしやすい部分を重点的な記憶にする。
彼が初恋を抱き、唯一の存在と言える少女。
その少女以外は例外なくゾーン内は警戒が無意識に行われる。
いつからそのような超人的技術を習得したのかユキ自身にも分からなかった。
いつの間にか会得し、使いこなしていたから。
どれほどまでに
だからこそ人を殺すことを愉しんでしまうのだろう。
それ以外の楽しみを知らないから。
「ユウキ・・・」
もし、これからもユウキという少女がユキの知る範囲で何かあれば。
暗殺者としての残酷なユキが全面的に出てしまい、無差別に攻撃をする人形と成り果ててしまうだろう。
それを止められるのはこの世でただ一人だけなのだから。
とある階層にて、ユキは情報屋のアルゴからとてつもないほど面倒な情報を聞かされていた。
「ユキ坊。耳寄りというよりかなり危険な情報があるんダ」
「・・・そう」
素っ気ない対応をしつつも、その言葉に込められているのは興味がないというもの。
本質さえ理解していれば冷酷さは感じれない。
「急にレッドギルドの笑う棺桶の被害例が減って来ているんだヨ。何となく予想はついているけどナ」
「・・・それで」
「近々、残党メンバーの一掃が攻略組メンバー主体に行われるだけどナ、ユキ坊にも参加してもらえないかという伝言だヨ」
「・・・面倒」
心底面倒な用件だ、と一蹴しようとするとアルゴは待ったをかけてユキを引き止める。
「この掃討作戦。攻略組メンバー殆どが参加するんだけどナ。メンバー内には《絶剣》のユーちゃんが入るゾ」
《絶剣》はSAO内では知らぬプレイヤーはいないほど有名になりつつあった。
容姿から見ても美少女で、元気いっぱいで自由人。
それでいて攻略組メンバーの筆頭格に入るのだから実力も折り紙付き。
男性プレイヤーからすれば見惚れる、というのも多い。
その名を聞くとユキは少し興味を示した。
「・・・単独、参戦。攻略組には、参戦を伝えない。それなら、渋々」
「・・・ユーちゃんには伝えなくて良いのカ?」
「ん・・・別にいい。余計に、心配させる、だけ」
アルゴはそれ以上何も言わなかったが、ユウキという少女の性格を知っているからか、同情をすると同時に寂しさを覚える。
ユキともこうして関わっていくと分かるのは、自分自身を見て欲しいという欲求があるが、生きたいという欲がなかった。
それをユウキが理解したときどうなるのだろうか、気になってしまう。
未来に対して何も抱かない。
生きることを諦め、今を感じている。
そんな生き方をするユキはいつか死んでしまうだろうと。
「・・・ユキ坊」
「ん・・・?」
「・・・もっとユーちゃんを信じてあげるべきだヨ」
それを聞くと、ユキは少し困った感じをしながら立ち去った。
来るべくやってくるオレンジ及びレッドプレイヤーの掃討作戦。
犠牲者を出すかもしれないこの作戦。
「ユキ坊、ちゃんと生きないと・・・ユーちゃんが悲しんじゃうぞ・・・」
長い付き合いだからこそ、ユキの壊れた本能も分かってしまった。
弟のように感じれる少年にそんな悲しい人生を歩んでほしくなかったアルゴの願いは届くのだろうか。
カチャカチャと。
武器同士が擦れ合う音が鳴る。
音を出しているのはPKKプレイヤー《黒猫》ユキ。
「作戦、開始!」
「「「「「うおおおおおお!!!!」」」」」
SAO内第七十三層、迷宮区。
PKプレイヤー掃討作戦は既に開始されており、参加メンバーは互い互いにPKプレイヤーと戦闘を始めていた。
「・・・見つけた」
ユキは目的のプレイヤーを見つけると他のプレイヤーなぞ目に入らないと言うばかりに突っ込んでいく。
その姿をかろうじて黙視できたプレイヤーはギリギリのところで回避をする。
「ちぃ!くそが!」
「・・・戦闘論理、変更。戦闘手段の最適化・・・」
機械的な喋り方になりながらも的確に目標を殺そうと愛刀を突いては振りかざす。
軽く掠った、その手応えを感じるとユキの口角が上がる。
「こんのくそガキ!」
「あはっ・・・」
狂気に等しい殺人衝動でありながら、正確に冷静な判断力は欠けるどころかどんどん洗練されていく。
まるで相手の戦い方を理解しているように。
「くそが、くそ、くそ・・・クソクソクソクソクソ、くそがぁ!」
「・・・」
「なんなんだ、てめぇは!苛々するぐらいにしつけぇ!」
「お前だけは殺す、絶対に」
「・・・まさか、お前」
絶対的な執念。
殺すまでは手を止めない意志。
だがユキの声を聞いた瞬間、驚愕した表情へと変わる。
何かに怯えるように。
「は、はは!はははははははは!まさかお前もやってるとはなぁ!?思わなかったぜぇ!?」
「・・・うるさい」
人間的な感情を見せながらも、ユキは致命傷となる頭、胸、腹、を狙うが外れる。
「俺をわざわざ殺しに来るとは、こりゃあ傑作じゃねぇか!」
標的とユキ以外は決着がついたのか、二人をじっと警戒しながらも見ていた。
いつでも手出しができるよう。
「・・・ユキ?なん、で・・・?」
掃討作戦に参加したメンバー。
当然ながらもユウキも入っていて。
ユキが参加していると知らなかったことに驚いていた。
だが手出しはすれば何があるか分からない。
あの時ユキの戦闘能力を知っていながらも心配にしていた。
「でぇ・・・?なんのためだぁ?俺を殺しにきたのはよぉ!?」
「・・・理由?」
問われ、そしてその問いがユキに理解できなかった。
何故なら。
「そんなもの、存在しない。殺す事に理由は不要」
常人には理解できない考え。
誰かしら殺人には抵抗を覚える。
なのにも関わらず、ユキにそれはない。
「説明、したよ?だから、死んで?」
子供がねだるように。
玩具で遊ぶようにユキは懇願する。
「く、はははははは!さいっこうだよお前は!」
「
ただ紡ぐ。
魔法のような出来事にも見えただろう。
言葉だけを発しただけで標的のプレイヤーの両腕は斬り飛ばされていた。
「いいねえ、いいねえ!さあ、殺せ!創造主たる俺を殺すが良い!それでお前は完成する!」
「
また紡ぐ。
両脚は捻れ、そして斬り飛ばされる。
システム的ダメージではないはずなのにも関わらず、何故か相手のHPは削れ、部位欠損が発生していた。
「俺の最高傑作たるお前が完成すれば!俺はもう無能じゃない!俺が死のうが!お前が勝手に己の行動原理に基づいて殺戮するのだから!」
「・・・死ね、屑が・・・」
吐き捨てるように心底うんざりする。
だが確かにこの人物を殺せば自分自身は殺戮者になるかもしれない。
暗殺者としての類い稀なる才能は殺すことで育っていたのだから。
「ユキ!」
「・・・
ユキがもう呟いた頃には。
プレイヤーの背後に立っており。
鞘からは抜かれた刀がユキの右手に。
そして、目視では確認できなかったほどの速さで。
頭、胸、首、腹。
四箇所に斬った切断痕と、斬り飛ばされた頭部が宙を飛んで破片となってアバター体ごと砕け散った。
「・・・ふふっ・・・」
どこか自分が自分じゃなくなる感じ。
ふわふわとした感覚は意識の塗り替えなのだろうと。
「ユキっ!」
ぎゅうっと誰かに抱きしめられる感覚。
とても心地好く、暖かい温もりが。
ユキには嬉しかった。
ちゃんと
それがとてもとても嬉しくて。
「ゆ、うき?」
「うん!うん!」
「あ・・・た、たかい」
ユキのアバター体は光っていた。
神々しく、だがそれは誰もが知るエフェクト。
「も、っと。いっ、しょが。よかっ、た」
「うん・・・!うん・・・!」
泣きじゃくりながら、ユウキはそれに答えた。
大丈夫だよ、と。
安心してくれるように。
「や、だなぁ」
「ボクも・・・!やだよ!」
「あ、はは・・・」
ユキのアバター体のエフェクトが最高潮に達したとき。
ユウキの耳元で頑張って出した言葉。
それを伝えると、破片となって砕け散った。
SAO内ではアバター体が破片となって消えるのはHPが0になるか、現実世界での死亡。
「あ・・・」
パリン、とあっけなく。
ユキの身体は無くなってしまった。
「あああああああああ!!!」
それを理解してしまったユウキは我慢など出来なかった。
好きだと告白されて、伝えたかった言葉を。
ユウキにそのチャンスが巡る前に失くなってしまった。
「ユウキ・・・」
「・・・この場は私が処理します。今回の掃討作戦、犠牲者・・・一人。お疲れ様・・・でしたっ・・・」
オレンジ及びレッドプレイヤー掃討作戦。
SAO攻略組メンバーと協力者一名によって行われた作戦は。
PKKプレイヤー《黒猫》の犠牲で幕を閉じる。
「ユキぃ、ユキぃ!・・・嫌だよ!ボクを、独りに・・・しないでよぉ・・・」
ユウキの悲痛な叫びは。
キリトとアスナにはどうしようもなかった。
初めてユウキが泣いたその現場。
しばらくして泣き止むと、ユウキはふらっと立ち上がる。
「・・・ごめんよ、心配かけちゃったね」
普段通り笑いかけたつもりなのだろう、ユウキの表情は。
笑っていても、目に光が映っていなかったのだから。