ソードアート・オンライン ~紫紺の黒猫~ 作:☆さくらもち♪
ピピ、ピピ、と電子的な音が部屋で鳴り響く。
天井は真っ白で、蛍光灯の光が全体を照らしていた。
「ん・・・ぁ・・・」
稀代の暗殺者はまだ、死なない。
事前にSAOをプレイするための機器を精査し、ゲーム内での死亡時に発される信号を一部遮断するよう組み替えていた。
「ぁ・・・ぐ・・・」
殆ど寝たきりの体勢のままだったからか、著しく身体能力が落ちていると理解する。
身体を動かそうにも全くといっていいほど動かない。
「・・・はぁ・・・」
病院内であるのは理解できている。
だが自分だけが帰ってきてしまうと色々とまずい状況だとも。
何故自分だけ帰ってきているのか、その説明がつかない。
してしまえば国家として大きく問題になっている為に方法の樹立、その解明まで付き合わされかねないと。
「・・・ん、しょ」
茅場晶彦の協力者としてこの計画に入り、彼の目的も理解していた。
だからこそその内容を教えるには惜しい。
ドタバタと病院内が騒がしく感じる。
日本屈指の大財閥であり、世界的な関わりを持つ釘家の人間の帰還はひっそりと関係者に伝えられていった。
雪がSAOから帰還し、数ヶ月してSAOのクリアが公表。
帰還者も戻ってきていたが、そのうちの数百名は何故か昏睡状態から目を覚まさない状態となっていた。
その原因究明をするべく、雪の元にとある役人が訪れていた。
「やあ、こんばんは」
「・・・」
「つれないねえ・・・君と僕の仲じゃないか」
「・・・そう」
腹に一物抱えているとしか思えない腹黒さを持ち合わせる役人。
総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員。
菊岡誠二郎というこの人物を雪は信用どころか、警戒心でしか見ていなかった。
「まあ、いいや。それで今回君を呼び出したのはね、SAO帰還者たる一人だという事と、何故未だに未帰還なのか。それを知りたいんだ」
「・・・そ」
「君はもう分かっているのだろう?何故未帰還なのかを」
どこからそんな確証を持って自信満々なのか、と雪は思いながらも事実、その理由は分かっていた。
「・・・情報に見合う、金額。用意は」
「勿論、用意してあるよ」
「はぁ・・・3000。それで、教える」
雪のこの取引はしなければならない。
菊岡にとって雪という人物は警戒に値するが、今回のSAO事件によって引き起こされた顛末や真相を知る人物であり、その情報は確かだと。
だが信用はマイナスであり、欲しいのなら見返りという形での取引でないと応じないとも分かっていた。
「うぐ・・・中々だね。だがそれに見合う、ということかな?」
「・・・別に」
面倒だと思いながら、雪は鞄からファイルに纏めた紙を菊岡へと放り投げた。
その正体は、SAO未帰還者を帰還させるための情報。
「・・・これは・・・本当かい?」
「・・・信じないなら、勝手に、して」
菊岡が目を見張ったのは、その内容。
どれもが裏付けるための理由と内部様子。
それらは中を見なければ分からないだろう情報も。
ペラペラと素早く、だが重要な情報は見逃さない。
そして菊岡は元凶となる物を見た。
「レクト?」
レクトとは、大手企業の一つでフルダイブ関連の仕事も持っていた。
VRはナーヴギアを使用せず、安心安全を求めて作られた新たなフルダイブ機器を用いて遊ばれていた。
セキュリティ性やセーフティ機能を付けて、強制ログアウト機能も付けられたVR機器アミュスフィア。
件のアミュスフィアを用いて今世界でかなりの数を売り上げているソフトの運営を《《レクト》社が行っていた。
「・・・潰そう、か?」
ただの提案。
菊岡の動揺と、その裏で行われていた計画や内容。
それを知っての、雪から告げられる提案。
言葉にするのは簡単だが、雪にはそれを容易く行える権力も実力もあった。
「・・・いや、これは僕の方で伝えよう。
「・・・ふーん」
釘宮家現当主である
その実態は年齢15歳の少年。
日本屈指であり、世界的財閥の釘宮当主として生き、表舞台に殆ど顔を見せないものの強い影響力を持つ。
裏では稀代の暗殺者として、様々な殺人術を身につけ、釘宮に関わろうとした者を悉く暗殺した経歴持ち。
「・・・じゃ、早く出て?」
「そうさせてもらうよ。君の家は生きている心地がしない」
菊岡は姿を見せず、気配を感じさせない影に冷や冷やとしながらも雪と別れた。
「・・・はぁ」
菊岡が立ち去ったことが分かると、雪は身体の力を抜く。
菊岡が言ったように、雪がいま住んでいる屋敷とも言える家には無数の影が潜んでいる。
そのどれもが
「ん・・・出掛ける」
誰もいない空間に一人呟くと、どこからか感じる気配が移動する。
たとえ雪が許していても、影はその姿を見ようとはしない。
まだ成熟しきっていない身体でありながら人を惑わせる色香を醸し出していた。
今ではその誘惑もただ一人の少女だけにしか向かなくなっており、SAO内で雪に影響があったのだと影は気付いていた。
だがそれを指摘はしない。
本人が喋ろうとしないのならば、それに対して口出しは無用だった。
「ん・・・?」
プルプルと誰かから電話が来ていた。
雪の個人携帯に直通で電話をかけられるのはごく限られた者のみ。
殆どの人物は釘宮としての携帯にしかかけられない。
「・・・はい」
『ええっと、SAO帰還者のユキさんで合っていますか?』
何故分かったのだろうかと考える。
あの場で分かっているのは確実に自分自身は死んだと思われている。
ならばこの電話の人物に本人と伝えるのは危険だと感じた。
「・・・いいえ」
『そうですか・・・ごめんなさい。変な電話をしてしまって』
「はあ・・・」
『人違いだったので・・・。では失礼します』
電話越しに聞こえた音。
声色は女性で大体高校生辺りだと仮定。
ユキというプレイヤーを知っているのは少しだけなので絞り込むのは簡単だった。
「・・・《閃光》のアスナ」
雪も知っており、結城家のご息女だと記憶している。
本名は結城明日奈で、SAO未帰還者の一人だと。
「・・・椿」
少し面倒だと思いながら、雪は仕える影を呼ぶ。
「はい、こちらに」
「・・・結城、明日奈。なんで、電話したのか。調べて?」
「承知しました」
用件を承ると椿はすぐに姿を消してどこかへ去ったと気配で察知していた。
雪の人外じみた能力はここでも発揮されている。
「んしょ・・・」
さっさと着替えてしまうと、影に屋敷を任せて出ていく。
行き先は行き慣れた喫茶店へと向けてタクシーを拾うと車で行った。
原作改変点として、ALO編は殆どありません。
また、アスナが未帰還者でしたがそれも変更しています。