ソードアート・オンライン ~紫紺の黒猫~ 作:☆さくらもち♪
外出して拾ったタクシーにて移動すること数十分。
雪は行き慣れた喫茶店へと到着する。
寂れた感じで知る人は知る名店であり、雪は店主ではなく店主の妻の方がマスターをしているときにいつも行っていた。
「ん・・・?」
店内に入ろうとすると、営業時間なのにも関わらず扉が閉まっていた。
ここで考えても仕方ないと判断すると店の裏側へと回る。
裏側の扉を強めに3回叩くと、ガチャガチャと鍵が開く音が聞こえた。
「なんなんだ、まったく」
扉が開かれ聞こえるのは男性の声。
その容姿を雪は見たことがあった。
SAOの時に雪がアイテムを売りに行った店。
その時はユウキへと売ってしまったが、店の店主だった本人が今雪の目の前にいた。
「ん・・・」
「子供?なんでここに?」
「・・・お店、空いてない?」
「あぁ・・・店か。今日は貸出なんだ」
「・・・そう」
ゆっくりと出来る一つの場所であったために、空いていないと分かると雪は落胆した。
「あー・・・貸出人達と一緒でいいなら入るか?」
「ん・・・いいの?」
「あぁ、あいつらなら構わないだろ」
「・・・じゃあ、お邪魔、します」
しっかりとお礼を告げると感心したようで、頭を撫でられていた。
「ぬ・・・」
「子供の癖して礼儀正しいな」
「・・・別に。普通」
そう、雪にとって普通なのだ。
釘宮家当主として立つことはあるために、礼儀作法は完璧にマスターしている。
警戒している相手だろうと、見知らぬ他人だろうが、礼儀は尽くすべきだと考えているのが雪の考え。
「おぉーい!エギル!酒だ!」
「はぁ・・・」
エギルと叫んでいたことに店主が反応していることから、この人がそうなのだろう。
「まぁ、ゆっくりしていってくれ」
雪は中へと入ると、厨房なのだろう場所へと移動する。
何度かこの中には入ったことがあるため、雪は構造を一階なら覚えていた。
そのまま、裏方の場所から表へと出ると雪は中にいた人物に驚く。
「ぁ・・・」
SAO攻略組メンバー。
その筆頭格である人物が何人もいた。
血盟騎士団副団長《閃光》アスナ。
ソロプレイヤーでありβテスト経験《黒の剣士》キリト。
ギルド『風林火山』のギルドマスターであるクライン。
中層プレイヤーでありながら、モンスターテイマー《竜使い》で手堅い実力者のシリカ。
そして、雪の初恋の相手でもあり、《絶剣》で名が通っていた少女。
「へっ・・・?」
「・・・っ」
「な、なんで」
ユウキが雪の姿を見つけると、わなわなと震える。
「ユウキ?どうかしたの?」
「ゆ、ユキ・・・だよね?」
ユウキは絶対に間違えない為に確認した。
聞かれた雪をじっと観察するように二人を見守っていた。
ここでどう答えるか、それで雪とユウキの関係は変わる。
だが雪は世界的財閥である
世界中で雪と密接な関係を持ちたい人物は多く、それゆえに吐き気がするほどの令嬢や令息と会ったりもする。
「・・・」
「答えてやらないのか」
普通の生活を営む人は知らなかったりすることのが多い釘宮の名を。
ここで告げるべきなのかと。
ユウキのことを知らないと言えばこの緊迫感は無くなるだろう。
だが、それは雪の初恋を終わらせる意味でもあった。
どれほどの時間が経ったか分からない、そんな感覚がしながらも。
雪は覚悟を決めて告げた。
「ひさ、しぶり。ユウキ」
そうユウキに告げた瞬間。
椅子がガタッと動き、ユウキが力強く雪に抱き着いた。
「ユキ・・・ユキ・・・!」
雪が見たことないほど大泣きしたユウキを優しく抱きしめた。
少しすれば、泣きつかれてしまったのか、雪へと身体を預けて寝てしまっていたユウキを見るとどうしようと悩む。
「ん・・・どう、しよう」
「あ、ああ・・・個室にベッドがあるからそこに寝かせるといい」
「じゃ、お借り、します」
軽々とユウキをお姫様抱っこすると雪は個室へと入る。
この場所も雪が知る部屋で、時折入ったりもしていた。
「んしょ・・・」
寝てしまったユウキをベッドに寝かせると毛布をかけて部屋を出て行った。
「ねえ」
「ん・・・」
「どういうことか、説明してもらえるね?」
「・・・いい、けど」
雪は長引きそうな気がしたので、電話で屋敷にて待機している影にかけた。
『なにかございましたか?』
「ん、少し話する。帰るの、遅くなる、かも」
『お食事はどうなさいますか?』
「・・・作ってて」
『承知致しました』
誰と話しているのか分からない一員は内容も想像出来なかった。
電話が終わると椅子に座った。
どういうことなのか話すために。
「なに、話せば、いい?」
「まずあんたが何者なのか。それからだ」
「ん・・・《黒猫》ユキ」
「本名は?」
「・・・関係、ある?」
雪の言い分におかしな点はない。
SAOでの名前が分かればいいはずなのにも関わらず、本名まで聞くのは変だと。
「・・・ある人物にユキの本名を聞いたら何故か渋られたんだよ」
ある人物というのは恐らく菊岡だろうと推測する。
確かにある程度の地位に立つ者なら渋るだろう。
釘宮に手を出せば、出した側が潰されたなどゴミのように存在する。
日本政府としても釘宮とは対立したくないのだろう。
ゆえに本名が聞き出せなかった。
「・・・釘宮、雪」
「釘宮って、あの?」
「ん・・・」
さすがに結城家の人間ともなると知っていたようで、かなり驚いていた。
だがクラインや、エギルといった一般人は理解できない。
「釘宮家の人間なんて始めてよ・・・」
「アスナ、釘宮って何なんだ?」
「和人君は知らなくて当然よ。なんなら殆どの人が知らないんだから」
アスナの大袈裟のようにも思える態度。
だがそれは真実だからこそ、為せていた。
「釘宮っていうのは、世界的財閥で、日本屈指の大財閥。私もお母様からよく聞かされていたの」
そんな人物が今ここにいると思わなかった一員はそれはそれは驚く。
人一人を簡単に消せる存在なのだから。
「ん・・・」
居心地が悪くなるのも感じながら、席を立つとユウキを寝かせている部屋へ向かう。
ガチャリと扉を開くと、ユウキが起きており、不安そうに雪を見ていた。
「ユキ・・・」
「ん・・・?」
「・・・えへへ」
雪を姿をちゃんと見ると安心したのか、少し笑った。
そんな様子にくすっと雪は笑いながらベッドの縁に座り、中を見に来たアスナ達に向かいながら告げた。
「・・・釘宮、雪。よろしく、ね」
ふにゃっと笑う。
その笑顔をユウキへも向けると、一瞬にして赤くなっていった。
「うう・・・」
「ユウキちゃんにもとうとうね~」
「名前、教えて、欲しい」
退院後、雪はSAO参加者の名前を殆ど調べつくしており無論、ユウキの名前も知っている。
だが本人から教えてほしいという欲があった。
「紺野、木綿季・・・です・・・」
「ん、よろしく。木綿季」
「まあ、なんだ。終わりよければって奴だな」
「なんだそりゃ」
「雪君、まだお時間あるの?」
携帯で時間を見てみるとそこそこいい時間になっていた。
帰る時分としてはちょうどいい感じだったが、木綿季ともっといたい雪はまだ少し居たかった。
「ん・・・どう、しよう」
「そろそろ、ボク帰らなきゃなんだけど・・・」
「ぇ・・・」
だが木綿季の帰宅宣言を聞いてしまった雪は寂しく感じた。
「ぅ・・・遅いと姉ちゃんが心配しちゃうから・・・」
「お泊り、でも、いいよ?」
「わーお、積極的。この際泊まっちゃえば?」
「えぇっ!?で、でも・・・」
悩みに悩む木綿季だったが、決めたのか携帯を取り出して電話をかけた。
「あっ、姉ちゃん?」
電話の相手は木綿季の姉だったようで、雪はどうなるのか待っていた。
雪の聴覚だと電話の声が聞こえてしまっている為にどうしようもないのだが。
『木綿季?どうしたの?』
「お泊りしてもいいかな?」
『ええっ?きゅ、急ね?』
「うん~」
『泊まりは良いけど・・・男?』
「・・・ち、ちがうよ?」
『・・・今いるなら変わってちょうだい』
木綿季の苦手な部分こそ、自身の姉。
一緒に過ごしている為に木綿季の動揺の仕方などで嘘がばれやすかった。
「雪~・・・姉ちゃんなんだけど・・・電話いいかな?」
「ん、良い」
雪は携帯を渡されると電話を変わった。
「ん・・・変わり、ました」
『あなたが木綿季の彼氏?』
「は、い」
『そう・・・木綿季の事知ってるの?』
「・・・具体的、には」
『最近でもいいわ』
雪は簡単に、だが具体的にも木綿季の姉へ話した。
内心ビクビクしていたからか、喋ると優しい性格だと分かり、ホッとしていた。
『なるほどね・・・』
「・・・はい」
『あの子、SAOから帰ってきてからもずっとぼーっとばっかしててね。理由を聞いても教えてくれなかったの。だけれどね、さっき電話をかけてきたとき、普段と声色が違ったの。良いことがあったんだろうってね』
「・・・はい」
『あなたの家に泊まるのは構わないわ。ただ木綿季の事をしっかり守ってちょうだい』
「わかり、ました」
『それと、後日でいいわ。家に来なさい。相手になってあげる』
それだけを告げるとぶつっと電話が切れた。
携帯を木綿季へと返すと、一息つく。
「ど、どうだった?」
「ん・・・構わない、って」
「ホント!?やったぁ!」
「お迎え、呼ぶ、ね」
さすがにタクシーをその辺で拾うわけにもいかないので、雪は迎えの電話をかけた。
『どうかなさいましたか?』
「ん・・・お迎え、お願い」
『かしこまりました』
「あと、ご飯、二人分と、客室も」
『どなたか来られるのですか?』
「ん・・・特別な、人」
『分かりました。手配しておきますので、しばしお待ちください』
木綿季もなんとなく聞いていたようで、終わると雪をぎゅうっと抱きしめた。
どうやら木綿季の姉との電話中に他は帰っていたので、人の目を気にすることなくいちゃつけた。
「あ、う・・・」
「ん~・・・雪、暖かい・・・」
「お迎え、呼んだ。すぐ、来るから、行こう?」
「うぅ~・・・分かった」
渋々雪を離すと、手を繋ぎながら部屋を出た。
「やっと終わったか」
「うん!色々とありがとう、エギルさん!」
「他の奴らはもう帰ってるぞ。このまま今日は閉店する」
「はーい。それじゃまたね、エギルさん」
「はいはい」
カランコロンと、良い音を鳴らしながら店の扉を開けて出ると外にはいつの間にか迎えの車が来ており、影の椿が待っていた。
「お迎えに上がりました、雪様」
「ん・・・お家、帰る」
「はい。そちらのお嬢様は・・・?」
色々と察した椿も聞いておいたのが良いかと思い雪へと聞いた。
先程の電話で特別な人と雪と手を繋ぐ少女で、雪の彼女だと分かっていたが。
「ん・・・好きな、人」
「え、えっと紺野木綿季といいましゅ・・・」
「ふふっ・・・もっと力を抜いていただいて構いませんよ?」
「木綿季、可愛い」
「うにゃぁぁ・・・」
木綿季の噛みを二人で指摘され、恥ずかしさで顔を真っ赤にする木綿季。
そして雪は椿に開けられた車内に木綿季を入れると自分も入った。
「では、参ります」
自分の主人の色恋を見れて満足した椿は、上機嫌で車を走らせて行った。