刹那サイド
ホイッスルが鳴り響き、試合が始まった。
姫宮からやパスを貰い、他のメンバー数人とゴール前へと上がって行く。
そんな僕達を男子達は止めに行くどころかその場から動こうともしなかった。
「(・・・余程キーパーに自信アリって事か・・・)」
そこまで人を舐めてると痛い目を見るって事を教えてやろう。
僕はそう思いながらドリブルで男子陣の中を走り抜けゴール前まで着いた。
キーパーは余裕の表情で構える。
そんなキーパーに向かって僕はボールをど真ん中に蹴った。
蹴ったボールはキーパーに向かってそこそこの速さで向かって行く。だが、そこそこというのはあくまで僕の感覚だ。
恐らく相手には剛速球に見えるだろう。
ボールはそのままキーパーの顔面にめり込みキーパーごとゴールに突き刺さる。
その瞬間、場の空気が凍った。
「「「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」」」
姫宮達もその光景を見たまま口をあんぐりとしている。
そして数秒後に周りから大歓声が起こった。
「スゲー!」
「あの子何者なのかしら!」
「ウホッ、良いシュート」
「可愛い顔してやるわねあの子・・・ジュルリ・・・!」
最後の辺りに寒気を感じたが、取り敢えず聞かなかったことにしよう・・・。
僕は駆け足で配置に戻る。戻ると姫宮が慌てた様子で話しかけてきた。
「アンタ何考えてるの!前半から本気出してんじゃないわよ!」
「・・・本気じゃ無い・・・それに・・・あいつ等は個人的に気に食わない・・・」
最後の方は少し尻すぼみになってしまったから聞こえていないだろう。
姫宮やその他のメンバーは僕の本気じゃ無い宣言に再びあんぐりしている。
そしてホイッスルが鳴り、試合が再開される。僕のシュートを見て危機感を覚えたのか男子達は真面目に攻めてきた。
こちらのメンバーが二人で止めに行くがあっという間に突破される。
僕と姫宮もディフェンスに下がる。正直残りのメンバーでも無理だろう。
最初の二人で分かった。このメンバーが弱小と呼ばれる理由は圧倒的なまでの経験不足だ。
男子達のチームはこの街では有名らしいので沢山の試合をこなして来たのだろう。それに比べて女子チームは人数もギリギリな上に半分以上が初心者だ。こんなもの最初から負け試合になることは決まっている。
だが、嫌々だが彼女達の助っ人を任されている身だ。点をやるわけにはいかない・・・。
何よりも一番の問題は僕達の今の試合が向こうのチームの控えメンバーに撮影されていると言う事だ。
恐らく僕達が負ける動画を録ってバラ撒くつもりなのだろう。そんな事をされたらこのチームはサッカー場を使うどころかサッカーすらできなくなる。そんな痴態を晒すわけにもいくまい。絶対に赤っ恥かかせてやる。
僕は少し本気を出してあっという間にボールを持った相手の前に出た。
相手のパスコースを完全に塞ぐ。僕のディフェンスに向こうは舌打ちをする。
「・・・甘い・・・」
僕は相手の隙を突き、ボールを奪う。そして別のメンバーにパスをした。
パスを貰ったメンバーは少し動きがぎこちないものの、姫宮と一緒に敵陣へ切り込んでいった。
僕もそれを追いかけて走り出す。
そして姫宮がゴール前でパスを貰い、相手ゴールにシュートするもそのシュートはパンチングで止められる。姫宮は悔しがる表情を見せた後、僕を見てニヤリと笑う。
・・・分かってますよ・・・。僕はそのまま弾かれたボールまで走り込み再びシュートをど真ん中へブチ込む。
ゴールキーパーは今度はがっしりと構えるが、僕の蹴ったボールはキーパーの手前でカクンと下へ曲がりキーパーの股の間を通り抜けゴールに入る。
再び歓声が響き二点目を取ったことを証明した。・・・さっきのシュート覚えるのに苦労したなあ・・・。
ここまでの歓声を貰えたので頑張った甲斐があった。
そして配置に戻りホイッスルが再び鳴り、試合を再開して僕達は三点目も取り、前半を終えた。
刹那サイド終了
神久夜サイド
凄い。この子のプレーは並大抵の物じゃ無い事がこの前半で思い知らされるほど分かった。
このままなら行ける。絶対に勝てる。
私達はサッカーができるんだ!
そして皆で刹那の所に集まった時、彼からとんでもない言葉が飛び出して来た。
「・・・後半は・・・皆だけで頑張って・・・」
何でそんな事言うの・・・?
神久夜サイド終了
刹那サイド
・・・もうこの辺でいいだろう。
後は彼女達に全てをやらせよう。いや、やらせなきゃいけない。
確かに撮影されている為絶対に勝ちたいが、僕が一人で点を取っても彼女達の為にならない。
これは本来、彼女達の自分の居場所を掛けた試合だ。部外者を決して関わらせてはいけないのだ。
彼女達は初心者が殆どだった為に三点だけ先に取らせておいただけだ。後は彼女達だけの仕事である。
だから僕は皆に後半は自分は自陣のゴールの近くで見ているだけと言った。
そして僕は姫宮に胸ぐらを掴まれる。彼女の目には疑問と怒りの感情が浮かんでいた。
「何で、何でなのよ!あと少しで勝てるのよ!?アンタが抜けたら終わりじゃ無い!」
「・・・僕の力でだけで勝っても・・・君達の為にならない・・・」
「それでも!・・・私達の場所を守るためにh「ふざけるな!」!」
突然の僕の怒鳴り声に少し怯え気味になる姫宮達。だけどこんなにキレた僕も久しぶりだ。
自分で言うのも何だがこの状態になるとしばらくは収まらない。僕はひたすらに怒鳴り続ける。
「お前らの場所を守る?なら何で助っ人一人に頼る?自分達で保てないような居場所なんて捨てちまえ!いいか?本来この試合はお前らの居場所を掛けたものだ。人数が足りなくてもお前達だけで出なければいけないんだよ。それなのによく人に頼ろうとか思ったな。挙げ句の果てに僕を拉致まがいな事までしてさ。お前らの守りたいものはその程度なのか?」
「そんなわk「お前等に反論する権利は無い!」・・・」
姫宮が反論しようとするが僕はそれを許さない。それは反論ではなく逃げだからだ。
結局は自分の大切な物を人に預けるのだ。無責任にも程がある。
「メンバーが足りない?ならお前らでカバーしろ!半分が初心者?なら何故普段からもっと努力しない!?初心者ばかりならもっと練習をすれば良かっただろう!まだサッカー場は使えた筈だ!」
「それは・・・」
それ以降、姫宮達は何も言えなくなったまま後半戦がスタートした。
刹那サイド終了
ではまた次回。